横隔膜の解剖
横隔膜はおよそ最高点が第8胸椎にありドーム状になっています。最下層は第2~3腰椎になり、胸骨の下面と6本の肋骨の下に加えて、下部胸椎~上部腰椎にかけて直接硬く付着しています1)。
解剖学的には、横隔膜は3つの部位(胸骨部・肋骨部・腰椎部)に分けられ、胸骨部が剣状突起背面から、肋骨部は下位6つの肋軟骨・肋骨の内側からそれぞれ起こり、胸骨と肋骨の起始部で腹横筋と連結しています2)。
腰椎部は腰椎前面と大腰筋と腰方形筋上の内側および外側弓状靱帯から起こり、右腰椎脚は第3腰椎、左腰椎脚は第2腰椎まで下降し、両側とも前縦靱帯と混合します2)。
これらの遠位付着部が合流して横隔膜の腱中心が形成されドーム状になります。
また心臓の心膜は横隔膜上面に付着し2)、肺とは胸膜を介して繋がりを持ちます3)。
横隔膜の機能
吸気に働く横隔膜は収縮すると最大吸気で10cmほど下降し右の第6肋骨先端(右は第11胸椎・左は第12胸椎)に到達し、胸郭が垂直方向に拡大します2)4)。
吸気作用に働く筋肉は他にもありますが、横隔膜はその中でも最初に収縮が生じる筋肉であり5)、横隔膜の収縮によってドームが下方に引かれて平坦になることで下位の肋骨が固定されていきます4)。
ここからさらに引き下げられた腱中心が、腹腔内圧の増加や腹腔内臓器の圧縮、腹横筋など腹筋群の伸長による受動的な緊張に抵抗することで横隔膜の位置はさらに低下していきます4)。
呼気になると横隔膜は弛緩し、肋骨と胸骨が呼吸前の位置に戻ることになり、強制呼気では右第4肋軟骨・左第5肋軟骨まで上昇します2)。
zone of appositionと胸郭機能の関係
zone of apposition(ZOA) は横隔膜と胸郭内面に接した部分のことを指し第8~9胸椎に頂点があるとされます。
この高さはちょうど横隔膜の腱中心の高さと同様になります。
範囲としては横隔膜の肋骨縁近くから横隔膜のドームを形成する肋骨角までの範囲とされます6)。
ZOAが最適であれば、横隔膜の呼吸と姿勢の役割は最大の効率を発揮するとされています7)。
ですが、肋骨が外旋かつ前方に位置するような状態では、ZOAは減少しており横隔膜収縮時の尾側の動きが少なくなります。
また横隔膜の肋骨に対する張力が減少して横隔膜圧が低下するため、胸郭(肺)内に空気を取り込む能力が低下することが考えられます8)。
そのことにより、胸郭拡張の減少、姿勢変化、代償的な腹部拡張の増加を伴うとされています。
腹部を拡張させるために、腹横筋などの腹部の筋が必要以上に筋の緊張を落とす結果、胸腹部の拡張は可能になりますが横隔膜での呼吸機能を低下させる要因となってしまい、代償として呼吸補助筋の過活動が生じてしまう結果となる可能性があります9)。
肩をすぼめるように呼吸を行うCOPD患者では、ZOAでの横隔膜筋厚が減少していると報告されています10)。
また腰椎の安定化にも関わる腹横筋の活動も低下するとされZOAが呼吸と姿勢の両方に大きな影響をもたらし、姿勢や運動のパフォーマンスにも影響をもたらしてしまうことが考えられます。
胸郭を見る際には是非このZOAのことも頭に入れながら介入を行なってもらえればと思います。
【参考文献】
1) Nason, LK, Walker, CM,et al. Imaging of the diaphragm: Anatomy and function. Radiographics 32(2): 51-70, 2012.
2) Lee D,胸郭統合アプローチ,石井美和子 監訳, 医歯薬出版,東京,pp12-14,2020
3) Finley DJ, et al .Anatomy of the pleura. Thorac Surg Clin 21(2):157-163.2011
4) D A.Neumann,筋骨格系のキネシオロジー, 島田智明 監訳, 医歯薬出版,第2版,東京,pp491-497,2012
5) Saboisky JP, et al. Differential activation among five human inspiratory motoneuron pools during tidal breathing. J Appl Physiol 102,772-780.2007
6) Petroll WM, et al. Effect of lower rib cage expansion and diaphragm shortening on the zone of apposition. J Appl Physiol 68:484-488, 1990
7) Lando Y, et al. Effect of Lung Volume Reduction Surgery of Diaphragm Length in Severe Chronic Obstructive Pulmonary Disease. Am J Respir Crit Care Med 159(3):796-805, 1999
8) De Troyer A, et al. Functional Anatomy of the Respiratory Muscles. Clin Chest Med 9(2): 175-93.1988
9) Boyle KL, et al. The Value of blowing up a balloon. N Am J Sports Phys Ther 5(3): 179–188. 2010
10) 大倉和貴. 安定期COPD患者における超音波画像診断装置を用いた横隔膜の評価と吸気筋トレーニングの最適な負荷の検討. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌28巻 1 号 6- 10. 2019
11) Loring SH, Mead J. Action of the diaphragm on the rib cage inferred from a force-balance analysis. J Appl Physiol 53:756-60.1982
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