インピンジメント症候群(impingement syndrome)という言葉は,肩関節疾患の肩腱板断裂や肩関節脱臼と並んで知らない人はいないかと思います.しかしインピンジメント症候群がどういった現象なのかを言語化できる人は少ない印象です.その理由には諸家の見解が一致していないことが大きく関係しています.本記事では“インピンジメント”とはどのような現象なのか?何が原因で生じるのか?そんな日々のふとした臨床疑問を肩関節について初学の先生向けにわかりやすく解説させていただきます.

インピンジメント症候群とは?

そもそもインピンジメントとはどのような意味なのでしょうか?
 
直訳すると衝突や引っかかり,侵害という意味になりますが,挟み込むこともインピンジメントという言葉で表現される多いです[1].
 
 
そして,この非常に汎用性の高いインピンジメントという言葉には様々な病態が隠れていることがあります.
 
■インピンジメントを発生させる要因[1]
・腱板修復部の膨隆
・求心力の低下
・大結節の転位,変形治癒
・肩峰下滑液包の石灰沈着
・下方軟部組織の柔軟性低下
 
これらの病態は第二肩関節を構成するC-A arch(烏口突起-烏口肩峰靭帯-肩峰を繋ぐアーチ)と上腕骨が衝突する現象といったものが最もメジャーかと思います.
 
本記事ではこれらインピンジメントの中でも軟部組織が原因となり得るインピンジメントに着目して解説していきます.
 
 

関節窩における上腕骨頭の複合運動

なにがどうなったらインピンジメントが生じるのでしょうか?
 
ということで,そもそも球関節で構成される肩甲上腕関節の運動学的特徴から解説していきます.
 
肩甲上腕関節は球関節のため①下垂位での骨頭の上下左右の動揺(Ship roll),②転がり運動(Ball roll),③滑り運動(Gliding),④軸回旋(Rotation)が複合的に生じて円滑な関節運動を可能にしています[1].
 
なかでも②転がり運動,③滑り運動は挙上動作における主体の運動[2]であり,インピンジメント症候群に対する治療を行う上で必須の知識です.
 
それでは関節窩における上腕骨頭の複合的な運動を確認してみましょう.
 
 
■関節窩における上腕骨頭の複合運動
※右肩を矢状面から観察
伸展➡時計回り
屈曲➡反時計回り
内転➡上方に移動
外転➡下方に移動
内旋➡後方に移動
外旋➡前方に移動
 
このように肩甲上腕関節は転がりと滑り運動などが複合的に生じることで円滑な運動を可能にしていることがわかります.
 
 

軟部組織が関与するインピンジメントとは

通常,上腕骨頭は関節窩の赤丸内を中心に運動が遂行されます.
※この赤丸内から大きく逸脱する現象を亜脱臼(Subluxation),脱臼(Dislocation)といいます.
 
 
そして後下方軟部組織を黄色枠で表すと,このように骨頭運動中心(赤枠)と後下方軟部組織(黄枠)が重なることがわかります.
 
 
後下方軟部組織には棘下筋や小円筋,後方関節包,後下関節上腕靭帯,腋窩陥凹が存在するため,それらのタイトネスにより骨頭全体の運動中心が後下方軟部組織の対角線上である前上方に移動することが考えられます.
 
 
そして骨頭が前上方に変位すると,前上方で第二肩関節を構成する肩峰や烏口突起との衝突や腱板が挟み込まれ,インピンジメントが生じることが考えられます.
 
では,外転運動を例にして骨頭の上方変位を解説していきたいと思います.
 
 

骨頭変位を分解して考える-骨頭上方変位-

通常,肩関節は球関節のため外転運動では転がり運動と滑り運動が主体となって複合的な運動が行われます.
※図では転がり運動が時計回りに,滑り運動が下方向に生じている.
 
 
しかし,下方軟部組織の過度な緊張やタイトネスにより骨頭が下方へ移動することができず,上方に変位します.
 
ここで注意しておきたいのが,外転時に肩峰下周囲に痛みが生じたとしても,それが石灰や骨棘などによる器質的問題や構造的破綻による症状であれば必ずしも骨頭変位が生じているというわけではありません.
 
これらの器質的,構造的要因を除外するためにも画像所見は必ず確認することをおすすめします.
 
では次に骨頭前方変位をみていきましょう.
 
 

骨頭変位を分解して考える-骨頭前方変位-

こちらは水平面から肩関節を観察している図になります.通常であれば骨頭は内旋に伴いやや後方に転がりと滑りの複合運動が生じます.しかし,後方軟部組織に過度な緊張やタイトネスが生じていると内旋に伴う後方軟部組織の許容がなくなり,骨頭が前方へと変位します[3].
 
 
おさらいになりますが骨頭中心に対して下方タイトネスが生じた場合は骨頭が上方に変位します.
 
 
骨頭中心に対して後方タイトネスが生じた場合は骨頭が前方に変位します.このように軟部組織のタイトネスと骨頭の変位を分解して考えると非常にイメージしやすいですね.
 
ということで今回はインピンジメント症候群の現象について,肩甲上腕関節の球関節構造をもとに運動解剖学的に解説させていただきました.特に挙上時の肩外側部痛を主訴としたインピンジメント症状に関しては,後下方軟部組織のタイトネスを常に念頭に入れておくことが重要かもしれません.
 
本記事をきっかけに肩関節の機能解剖や運動学に興味を持っていただけると幸いです.
 
以上,肩関節機能研究会代表の郷間でした.
 
 
【引用】
[1] 信原:肩 その機能と臨床.出典:医学書院,2012.
[2]Mitsuya Fukushima.:Analysis of Glenohumeral rhythm.日整外誌,Ⅳ,(2),199-210,1990.
[3]D T Harryman 2nd , et al.: Translation of the humeral head on the glenoid with passive glenohumeral motion.J Bone Joint Surg Am. 72(9):1334-1343.1990.

主催者への質問

この機能を利用するには、ログインが必要です。未登録の方は会員登録の上、ログインしてご利用ください。

この記事に関連するタグ

興味のあるタグをフォローしておくことで、自身のフィードに関連するセミナーやコラムを優先的に表示させることができます。 (無料会員機能。 登録はこちら )

    コラムで人気のタグ

    タグをフォローしておくことで、自身のフィードに興味のあるセミナーやコラムを優先的に表示させることができます。(無料会員機能。 登録はこちら )