認知症では原因疾患に伴う病巣に応じた複数の認知機能障害を合併することがある.認知症に起因する認知機能障害(表1)は記憶障害,注意障害,行為障害,視空間認知障害など多岐に渡ることから,各種スクリーニングテストが用いられる.検査者は実施された認知機能評価の結果から対象者の認知機能障害を客観的に把握し,生活場面でどのような問題点に繋がる可能性があるのかを推測する必要性がある.また,認知症の重症度や疾患特性に応じた評価を組み合わせて実施することが求められる.

目次

    表1:認知症に基づく認知機能障害
     
     

    認知機能評価

    【MMSE】
    認知機能障害のスクリーニングとして使用されるMini Mental States(MMSE)は国際的に使用されており(1),日本版であるMMSE-Jにおける認知症者の重症度は,MMSEの認知障害重症度分類に基づき,「正常:27-30」「軽度認知障害:21-26点」「中等度認知障害:11-20」「重度認知障害:0~10」とされている(2).
     
    また,杉下らの報告ではMMSE-Jにおける基準関連妥当性と再検査信頼性は優れており,MMSE-Jが認知症のスクリーニング検査として十分に使用可能であることが示されている(3).さらに,MMSE-JにおけるAlzheimer's disease(AD)群とMild cognitive impairment(MCI)ではReceiver Operating Characteristic(ROC)分析により,AD群とMCI群のカットオフ値は23/24点で感度は68.7%,特異度は78.8%,AD群と健常者群のカットオフ値は27/28点で感度は83.9%,特異度は83.5%であったことが報告されている(3).
     
    検査結果の判定に関して留意すべき点として,MMSE は教育歴や年齢の影響を受けることが明らかにされている(4).
     
     
    【改訂版長谷川式簡易知能評価スケール】
    改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)はMMSEと同様に日本国内で広く使用されており,加藤らによって信頼性と妥当性の検討がなされている.認知症鑑別のためのカットオフポイントとして21点以上を認知症の疑いなし,20点以下を疑いありとした場合,感度は0.93,特異度は0.86で感度が高い(5).
     
    また,脳血管障害後の脳血管性認知症(VaD)に対する認知機能スクリーニングにおいては注意すべき点がある.神経心理学的検査は一定範囲の神経心理学的要因を評価する目的で作られているため,障害が重複している場合などでは目的としている神経心理学的検査の結果に他の神経心理学的要因が影響する可能性が少なからずある(6).
     
    久納らは回復期リハビリテーション病棟に入院する474名の高齢者に対しHDS-R,レーヴン色彩マトリックス検査,Trail Making Test-A・B(TMT),Apathy Scale,Verbal Fluency test(VFT),WHO-5精神的健康状態表を行い,HDS-Rを従属変数,その他の評価項目を説明変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を実施した.
     
    結果, HDS-Rに影響する神経心理学的要因として,前頭葉機能に関連するTMT,VFTが抽出されたことから,前頭葉機能低下がHDS-Rの得点全体に影響を及ぼす可能性があることを考慮する必要がある (7).
     
    このため,認知機能評価のスクリーニングテストの実施時には,複数の神経心理学的検査や日常生活の行動所見などから包括的に解釈を行う必要がある.
     
     

    軽度認知障害(Mild Cognitive Inpairment)

    【Montreal Cognitive Assessment】
    Montreal Cognitive Assessment(MoCA)はカナダのNasreddineらによって作成された認知機能評価であり,MMSEでは健常範囲の得点に収まるMild Cognitive Inpairment(MCI)をスクリーニングすることを目的に開発されている(8).
     
    MCIのカットオフポイントを26点/25点に設定した際の感度は90%,特異度は87%であり,軽度AD群ではMMSEの感度は78%であったが,MoCA-Jは100%を検出していた(9).
     
    検査項目はTrail Making,視空間認知機能(立方体),視空間認知機能(時計描画),命名,記憶,注意,復唱,語想起,抽象的思考,遅延再生,見当識の11項目30点満点であり,MMSEやHDS-Rといったスクリーニングテストの難易度を高くした構成となっている(10).
     
    MoCA-J,MMSE,Frontal Assessment Battery(FAB)との結果を比較した研究では,FABで認められる前頭葉機能の低下をMoCA-Jにおいても検出することができるなど,より早期のスクリーニングとして有用であることが報告されている(11).
     
     

    重度認知症(Severe Dementia)

    【Cognitive Test for Severe Dementia】
    Cognitive Test for Severe Dementia(CTSD)はTanakaらによって開発された最重度認知症者の認知機能評価であり(12),13項目で記憶,見当識,言語,視空間認知,行為,前頭葉機能,社会交流の7領域を評価できる.総得点は30点で,実施時間は10分程度である.
     
    TanakaらはCTSDを123人の認知症者に実施しところ,MMSEで低得点領域に偏りが見られた対象者において,CTSDでは各得点領域に分散して幅広く分布していたことから,最重度の認知症まで床効果を呈さずに幅広い認知機能を測定することができるとされている(13).
     
    CTSDの臨床的有用性を研究した報告では,CTSDのminimal detectable change (MDC)は4点で,MMSEと比較して高い感度を示したとされている.これらの結果から,CTSDはMMSEよりも重度認知症者の認知機能を詳細に評価することができ,個別介入の効果判定にも利用できることが示唆されている(13).
     
    さらに,療養型病院に入院する重度認知症者161人を対象に,6か月ごとにMMSEとCTSDを実施し,認知機能の縦断的変化を1年間の期間で調査した結果,4名がMDC4点を超える改善が認められた.MMSEではMDC3点を超える改善は認められなかったことから,CTSDはMMSEよりも鋭敏に認知機能の変化を捉えることができ,重度認知症であっても機能改善を示す可能性があることが示唆されている(14).
     
     
    【共著】
    宝田 光(医療法人 札幌麻生脳神経外科病院)
     
     
    【参考文献】
    (1) 杉下守弘,腰塚洋介,須藤慎治,杉下和行,逸見功,唐澤秀治,猪原匡史,朝田隆,美原盤:MMSE-J(精神状態短時間検査-日本版)原法の妥当性と信頼性.認知神経科学20(2)91-110.2018.
    (2) Marshal F.Folstein,Susan E.Folstein,Paul R.McHugh,et al. (2012) 精神状態短時間検査-日本版(MMSE-J).日本文化科学社,東京.
    (3) 杉下守弘,逸見功,竹内具子:精神状態短時間検査-日本版(MMSE-J)の妥当性と信頼性に関する再検討.認知神経科学18(3+4)168-183,2016.
    (4)Sid E O'Bryant, Joy D Humphreys, Glenn E Smith, Robert J Ivnik, Neill R Graff-Radford, Ronald C Petersen, John A Lucas: Detecting dementia with the mini-mental state examination in highly educated individuals. Arch Neurol, 65: 963–967,2008.
    (5)加藤伸司, 下垣光, 小野寺敦志, 植田宏樹, 老川賢三, 池田一彦, 小坂敦二, 今井幸充, 長谷川和夫:改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の作成.老年精神医学雑誌 2巻11号1339-1347,1991.
    (6)石合純夫:高次脳機能障害学 第2版.医歯薬出版社,pp1-21,2012.
    (7)久納 健太, 豊田 みのり, 備前 宏紀, 藤井 啓介, 木村 大介:改訂長谷川式知能評価スケール(HDS-R)の結果に影響する神経心理学的要因の検討,日本臨床作業療法研究7巻1号 26-30,2020.
    (8)Nasreddine ZS, Phillips NA, Bédirian V, Charbonneau S, et al. The Montreal Cognitive Assessment (MoCA): A Brief Screening Tool For Mild Cognitive Impairment. J Am Geriatr Soc 53:695–699, 2005.
    (9)鈴木宏幸,藤原佳典:Montreal Cognitive Assessment (MoCA)の日本語版作成とその有効性について 老年精神医学雑誌,第 21 巻 2 号:198-202,2010
    (10)Fujiwara Y., Suzuki H., Yasunaga M., et al. Brief screening tool for mild cognitive impairment in older Japanese:Validation of the Japanese version of the Montreal Cognitive Assessment. Geriatrics & Gerontology International10. 225-232,2010.
    (11)大谷尭広,松本裕美,岡久杏菜,岡恵子,石田光代,中村和己,宮本亮介,和泉唯信,野寺敦子,西田善彦:MMSE正常例に対しMoCA-Jを用いた認知症早期診断の検討.日本早期認知症学会誌第10巻第2号,27-34,2017.
    (12)Hiroyuki Tanaka, Yuma Nagata, Masayasu Uematsu, Takashi Takebayashi, Keisuke Hanada, Maki Inokawa, Keita Fukuhara, Yasuhiro Ogawa, Daisuke Haga, Yasuro Kakegawa, Takashi Nishikawa:Development of the Cognitive Test for Severe Dementia.Dement Geriatr Cogn Disord40:94-106. 2015
    (13)Hiroyuki Tanaka , Yuma Nagata , Daiki Ishimaru , Yasuhiro Ogawa, Keita Fukuhara , Takashi Nishikawa:Clinical Utility of the Cognitive Test for Severe Dementia: Factor Analysis, Minimal Detectable Change, and Longitudinal Changes.Dementia Geriatic Cognitive Disorder Extra 8:214-225,2018.
    (14)田平隆行,田中寛之:Evidence Basedで考える認知症リハビリテーション.P47-48.医学書院,2019.

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