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  3. 現在の作業療法パラダイム

医学モデルに偏重した時代から,徐々に作業療法は何をするものなのかを説明するような動きが作業療法内部からみられるようになっていった.以下に,その発端となった作業行動理論の考え方とその後の作業療法理論の中心となった考え方をまとめていく.

作業行動理論

1960年代からアメリカの作業療法士Mary Reillyらは,作業療法の最初のパラダイムへの回帰を求めはじめた.それは「人は作業を希求する存在だ」と考えることであり,その概念は作業行動と呼ばれた1).作業行動の概念は,その後,アメリカの作業療法士のキールホフナーの「人間作業モデル」やクラークらによる「作業科学」を通して広がっていった.

作業療法全体を説明する理論の普及

1980年代から2000年代にかけて,作業療法を説明する理論が広がっていった.1990年にAmericans with Disabilities Act(ADA)が制定され,患者の選択やヘルスケアに対しての意思決定への参加,自己決定の概念や消費者の権利,地域社会への参加などが認められるようになっていった.病気ではなく人全体を捉えるような考え方が作業療法の世界で広がっていった2).

アメリカの作業療法士であるKielhofnerは,Reillyの作業行動の考えを継承し,人間作業モデルを開発した.1985年に「人間作業モデル-理論と応用」を出版し,それ以後,現在までに5回改訂されている.人間作業モデル3)は,人の作業を意志,習慣化,遂行能力に構成される心理社会的特性と環境との相互作用によって生じるものとして考えた.本人が興味,価値を置いている作業を習慣として遂行することで,その人らしさを形成していくとした.

カナダの作業療法士協会は,1979年に作業療法実践に関するガイドラインの開発を開始した.1997年には「Canadian Model of Occupational Performance」(CMOP)となり,2007年には「Canadian Model of Occupational Performance and Engagement」(CMOP-E)と改訂されていった4).カナダモデルの特徴の1つとして,「クライエント中心主義」がある.対象者は主体性をもつ意志決定者とみなし,作業療法実践は作業療法士と対象者の協業(collaboration)により成り立つとする考え方である.

また,カナダモデルでは,クライエント中心の成果測定としてカナダ作業遂行測定(COPM)を開発した.COPMはクライエントが選んだ作業の問題に対して,クライエント自信がうまくできていると思うか(遂行度),満足しているか(満足度)を10段階で選択してもらう尺度である.

これらの作業療法の理論の特徴について田島5)は, ①人を作業的存在として全体的・システム論的に捉える ②「クライエント中心主義」を採用し,実践はセラピストの協業で行う ③対象者の価値観,自己選択を重視して,自己実現や社会参加を目指す と整理している.

このような作業に焦点を当てた実践を通して,対象者の健康や幸福に寄与するような考え方が,現在は広まってきている.

作業療法のエビデンス

1990年代から,根拠に基づいた医療(Evidence-based-medicine: EBM)が注目され始めた.アメリカでは,政府と民間の医療保険がコストの抑制とエビデンスに基づいた実践を重視するようになったことで,作業療法内での研究がより重視されるようになっている2).また,世界作業療法士連盟(WFOT)による「作業療法士教育の最低基準」が2016年に改訂され,エビデンスに基づいた実践が追加されている6).

カナダの作業療法士であるPolatajokはクライエント中心の作業遂行に対する問題解決アプローチとしてCognitive Orientation to daily Occupational Performance(CO-OP)を開発した。Wolfら7)は,地域在住の発症3か月未満の脳卒中患者35名を対象に,ブロックランダム化によりCO-OPを行った群と機能練習を中心に行った群とに分けて介入を行った.最大10セッション実施した結果,Stroke Impairment ScaleとAction Research Arm Testで有意な改善があったと報告している.

また,Sinoharaら8)は,介護老人保健施設に入所している慢性脳卒中患者36名をMOHOベースの介入と通常の作業療法士の群に振り分け,12週間の介入を行った.その結果,MOHO群のほうが,ADL,QOL-26の改善が有意に高かったと報告している.このように,作業療法の介入効果に対してのエビデンスが少しずつ出てきている状況である.

作業療法の実践として個人の意味や価値など主観的な様相を重視することに加えて,先人たちが築き上げてきた作業療法の考え方を丁寧に検証をしていくことが,現代の作業療法士達の1つの仕事になりうると考える.

【共著】 嶋田 隆一(茨城リハビリテーション病院 作業療法士)

【引用文献】 1)鎌倉矩子:作業療法の世界 第2版.三輪書店,2004. 2)Barbara A, Gillen G: :Willard and Spackman's Occupational Therapy 13th edition.Wolters Kluwer Health.2018. 3)Taylor RR(編著)(山田孝 監訳):キールホフナーの人間作業モデル 改訂第5版.協同医書出版社,2019. 4)Townsent EA,Polatajko HJ(吉川ひろみ,吉野英子 監訳):続 作業療法の視点-作業を通しての健康と公正,大学教育出版,2011 5)田島明子:日本における作業療法の現代史-対象者の「存在を肯定する」作業療法学の構築に向けて,生活書院,2013. 6)吉川ひろみ(編集):作業療法の話をしよう-作業の力に気づくための歴史・理論・実践,医学書院,2019. 7)Wolf, Timothy J., et al.: Combined cognitive-strategy and task-specific training affects cognition and upper-extremity function in subacute stroke: an exploratory randomized controlled trial, American Journal of Occupational Therapy 70.2 : 7002290010p1,2016. 8)Shinohara, K., Yamada, T., Kobayashi, N., & Forsyth, K. :The model of human occupation-based intervention for patients with stroke: A randomised trial. Hong Kong Journal of Occupational Therapy, 22(2), 60-69.2012.

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