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医療分野におけるAI活用の今〜電子カルテのAI活用事例〜

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竹林崇 大阪府立大学 教授

医療分野において、人工知能(Artificial Intelligence;AI)を用いた研究が急増しており、近い将来、医療現場にAIが入ってくることが予想される。しかしながら、AIに対するリテラシーについては十分とは言えない。本項では、人工知能について解説し、医療とAIの取り組みについて紹介する。

目次

    自然言語処理とは


    人工知能は、歩行速度や握力、脳画像など直感的な量的アウトカム以外にも医療現場で活用され始めており、電子カルテのリハビリ記録や看護記録、または、手術記録などの文章やテキストを用いて予後予測をしたという研究が散見される。テキストデータを用いた研究は、人工知能のアルゴリズムの中でも自然言語処理(Natural language processing)という手法を用いている事が多い。

    自然言語処理とは、人間が日常的に使用しているコンピュータで処理する技術である。自然言語処理を簡単に解説すると、文字を数値化することで引き算や足し算が可能になるということである。以下にイメージしやすいような例題を出題する。

    例題:王様-男+女=◯◯
    例題の答えは、「女王」である。このような文字の計算を機械が実施する。しかし、上記例題のように簡単な自然言語処理は2013年に報告されたものであり、昨今では、文脈を考慮するなど複雑な文章にも対応できる技術が向上し精度が高くなっている。

    自然言語処理による転倒予測


    電子カルテの非構造的なテキストデータは、血液データなどの客観的アウトカムと比較すると、ナラティブなテキストは、患者の病歴や評価をより詳細かつ個人的に説明し、臨床的な意思決定のためのより良い情報を提供する10)。入院患者が高齢化している現在では、院内の転倒リスクは重要なアセスメントである。転倒リスクは運動機能、尿失禁、精神状態、投薬など、日常の各リスク要因に対して複数の評価を行う必要があり、評価に時間を要する。

    Nakataniら11)は、急性期病院での看護記録を用いて転倒リスクを評価し、その精度を検証した。使用した電子カルテの情報は、患者の発言、看護師の観察、バイタルチェックや各種評価の結果、診療内容や投薬の内容(またはその計画)、患者へのメッセージや患者からのメッセージ、その他看護師のコメントであった。その結果、転倒と関連した形態素(語)を抽出している。また、看護記録と自然言語処理を用いた転倒予測のAUC(area under the curve)は83.5%、感度は76.9%、特異度は78.5%と良好であった。

    自然言語処理による術後感染の予測


    電子カルテを使用した研究事例は、看護記録だけではなく、手術記録と術後記録のテキストデータを使用して、術後の感染の発生を予測したという研究もある。Silvaら12)は、様々な診療科の手術と患者の術後記録に関するテキスト情報を取得し、術後30日間における感染予測を実施した。手術記録と術後記録は合計4万件以上あり、それらを様々な機械学習手法を用いて解析した結果、ロジスティク回帰(機械学習モデル)が最も精度が高かったと報告した。

    このロジスティック回帰(機械学習モデル)で、感染を検出できなかった割合が、4.26%であり予測モデルとして有用である。Silvaら12)の研究で使用した自然言語処理による解析は、Pythonというプログラミング言語で書かれており、その解析コードは出版社のホームページで無料公開されている13)。

    術後の感染に対する研究は他にも報告されている。Thirukumaranら4)は、整形外科患者の術後90日間の手術部位感染を予測するために、通常の構造化アウトカム(年齢や併存疾患数など)の予測モデルと構造化アウトカムに自然言語処理により電子カルテのテキストデータ(非構造化アウトカム)を加えた予測モデルの精度を比較した。

    その結果、構造化アウトカムのみの予測モデルでは、AUCが78%、感度68%、陽性的中率70%であるのに対し、構造化アウトカムに非構造化アウトカムを加えた予測モデルはAUCが96%、感度97%、陽性的中率97%であった。このように、構造化アウトカムだけでなく手術記録などの非構造化アウトカムを使用することで、予測精度が向上すると感染予防策など早期介入が可能になることが考えられる。

    自然言語処理による集中治療室患者の転機予測


    集中治療室での治療は多大な費用が必要となり、患者や家族の長期的な後遺症を伴う15)。集中治療室に入院した患者は死亡する可能性が高く16)、長期滞在は、退院後のコストや機能障害の増加と関連している17)18)。このような有害な転帰のリスクが入院中に早期に発見されれば、早期に価値の高い治療をする機会を得ることができるかもしれない。

    Weissmanら19)は、集中治療室入院患者の死亡、もしくは集中治療室入院が長期化(集中治療室入院7日以上)する患者の予測を構造化アウトカム(年齢や血液データなど)と非構造化アウトカム(電子カルテのテキストデータ)を使用した解析を実施した。解析では、同じデータセットを使用しロジスティック回帰分析やランダムフォレストなど複数の機械学習を用いて行われた。その結果は、全ての解析において、構造化データのみの予測精度に対し、構造化データに非構造化データを加えた予測モデルで6%から10%も予測精度が高いことが明らかとなった。

    また、テキスト内の予測可能な500の用語をSupplemental Dataとして無料で公開しており、用語と集中治療室入院患者の死亡、集中治療室入院の長期化のオッズ比を確認することが出来る。しかし、これらの研究は日本語で行われた研究ではないため解釈には注意が必要であると思われる。

    今回は、電子カルテのテキストデータを自然言語処理により解析し予後予測をした研究を紹介した。この分野はリハビリテーションに関連した研究は非常に乏しく今後の研究テーマとなっていくと考えられる。

    【引用】
    10)Rosenbloom ST, Denny JC, et al.: Data from clinical notes: a perspective on the tension between structure and flexible documentation. J Am Med Inform Assoc.2011;18(2):181-6.
    11)Nakatani H, Nakao M, et al.: Predicting Inpatient Falls Using Natural Language Processing of Nursing Records Obtained From Japanese Electronic Medical Records: Case-Control Study. JMIR Med Inform. 2020.22;8(4):e16970
    12)da Silva DA1, Ten Caten C, et al.: Predicting the occurrence of surgical site infections using text mining and machine learning. PLoS One. 2019.13;14(12):e0226272.
    13)Plos oneホームページ:https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0226272 (5月13日閲覧)
    14)Thirukumaran CP, Zaman A, et al.: Natural Language Processing for the Identification of Surgical Site Infections in Orthopaedics. J Bone Joint Surg Am. 2019.18;101(24):2167-2174.
    15)Elliott D, Davidson JE, et al.: Exploring the scope of post-intensive care syndrome therapy and care: engagement of non-critical care providers and survivors in a second stakeholders meeting. Crit Care Med.2014;42(12):2518-26
    16)Zimmerman JE, Kramer AA, et al.: Acute Physiology and Chronic Health Evaluation (APACHE) IV: hospital mortality assessment for today's critically ill patients. Crit Care Med. 2006;34(5):1297-310.
    17)Teno JM, Fisher E, et al.: Decision-making and outcomes of prolonged ICU stays in seriously ill patients. J Am Geriatr Soc. 2000.48(S1):S70-4.
    18)Fan E, Dowdy DW, et al.: Physical complications in acute lung injury survivors: a two-year longitudinal prospective study. Crit Care Med. 2014,42(4):849-59.
    19)Weissman GE, Hubbard RA, et al.: Inclusion of Unstructured Clinical Text Improves Early Prediction of Death or Prolonged ICU Stay. Crit Care Med. 2018;46(7):1125-1132

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