リハビリテーションにおける意思決定支援の重要性
前回のコラムでは,本邦で報告されたDAについて述べた.いずれも患者と医師との間における治療法の意思決定状況であったが,リハビリテーション領域では,治療法そのもののエビデンスの整備が十分でなく,治療法の意思決定を取る文化そのものが存在しないことから,その状況は大きく異なる.
例えば,Jetteらは,理学療法士の治療選択においては,患者の臨床状態以外にもさまざまな要因の影響があることを報告した1).さらにKleynenらは,リハビリテーションにおける治療は,治療を進めながらその方法を変更していく特徴があることを述べている2).
つまり,リハビリテーションにおける治療選択は,患者の病態以外にも影響する因子が存在し,その治療方法もリハビリテーションの進捗によって変化することが特徴として考えられた.
しかし,一貫してリハビリテーション領域における「治療効果の不確実性」は指摘されており,患者と療法士は,複数の治療法(選択肢)が並存する中で,両者が最良と思われる選択をする必要がある.このような複雑な意思決定においては,DAの存在が非常に重要になる3).
リハビリテーション領域におけるDA
リハビリテーション領域における代表的なDAとしては,作業選択意思決定支援ソフト(Aid for Decision making in Occupational Choice; ADOC)や4),上肢の使用場面に特化したADOC for Hands(ADOC-H)がある5).ADOCは,日常生活上の活動が描かれた95枚のイラストを用いて,対象者と療法士が協議しリハビリテーションにおける目標設定を行うツールである(図1).
一方,ADOC-Hは,日常生活上の活動を16のカテゴリーに分け,130枚のイラストを用いて上肢の使用状況をわかりやすく示し,対象者と療法士とで上肢の使用状況や使用して難しかった点などを共有できるツールである(図2).
これらは,対象者の日常生活動作から余暇活動に至るまでを包括的に捉え,リハビリテーションにおける目標設定を共有,支援する目的がある.とくに,対象者の上肢の使用に関する行動変容に特化したConstraint Induced movement therapy(CI療法)とADOC-Hは親和性が高く,目標設定のみではなく,対象者自身の生活のモニタリングを通した行動変容における役割も期待される.
しかしながら,リハビリテーション領域においては,治療選択に関する意思決定支援やDA作成の取り組みはほとんどなされていない.治療選択に限れば,藤本らが,患者と医療者との意思決定支援として診療ガイドラインの重要性について述べている6).一方で,意思決定支援において,どのような役割があるのか,エビデンスを「つたえる,つかう」の側面に至る理解の不十分さも述べており,未だ研究がなされている.
リハビリテーション領域の治療選択におけるDAの展望
DAの国際基準(International Patient Decision Aids Standard;IPDAS)では,DAの作成手順を公開することを推奨している7).Osakaらも,乳がん患者に対するDAの効果を報告した論文で,DAの作成手順を明記した8). その中で,DAの作成にあたって,まず重要となるのは「意思決定の特徴」を評価することである.
先行研究では,理学療法士の治療選択に影響する要因の検討がなされ,臨床病態はもちろん,療法士の専門的知識なども治療選択に影響すること1),理学療法士が患者の自律性を促すよりも,最も効果的であると考える治療を暗黙的に決定する傾向があることが報告されている9).
しかし,リハビリテーション領域において,DAの作成に必要な,特定の疾患に対する治療選択の意思決定の特徴に関する研究は皆無である.今後は,リハビリテーションにおける治療選択や患者の意思決定の特徴について,新たな研究がなされることが望まれている.
【引用文献】 1)Jette DU, et al:Professional uncertainty and treatment choices by physical therapists. Arch Phys Med Rehabil 78, 1997. 2) Kleynen M, et al: Physiotherapists use a great variety of motor learning options in neurological rehabilitation, from which they choose through an iterative process: a retrospective think-aloud study. Disabil Rehabil 39, 2017. 3)International Patient Decision Aid Standards (IPDAS)Collaboration. What are patient decision aids? http://ipdas.ohri.ca/what.html 4)Tomori K, et al:Utilization of the iPad application: Aid for decision‐making in occupation choice. Occup Ther Int 19,2012 5)Ohno K, et al:Developmental of a tool to facilitat4 real life activity retraining in hand and arm therapy. Br J Occup Ther 80, 2017 6)藤本修平,他:患者と理学療法士の意思決定を支援する診療ガイドラインとShared decision making の重要性について.日本公衆衛生理学療法雑誌 Vol.4, 2016 7) The International Patient Decision Aid Standards (IPDAS)Collaboration. http://ipdas.ohri.ca/(accessed 01.11.12) 8) Osaka W, et al: Effect of a decision aid with patient narratives in reducing decisional conflict in choice for surgery among early-stage breast cancer patients: A three-arm randomized controlled trial. Patient Education and Counseling,2016 9) Delany CM, et al: In private practice, informed consent is interpreted as providing explanations rather than offering choices: a qualitative study. Aust J Physiother 53, 2007
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