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本邦の医療における意思決定支援ツールの実際

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竹林崇 大阪府立大学 教授

これからの医療で患者と医療者との意思決定に対する支援は非常に重要である.しかし,本邦における意思決定支援に関する研究や意思決定支援ツール(Decision Aids; DA)開発は,海外と比較し,非常に少ないのが現状である.本コラムでは意思決定支援を代表するDAに焦点を当て,その研究を紹介する.

目次

    本邦における意思決定支援

    本邦の医療においても,根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine;EBM)の普及を背景に患者自身の意思決定を尊重する動きが高まっている.そもそも,EBMとは,1991年にカナダの臨床疫学者であるGuyattによって提唱され1),ここ最近では「臨床研究によるエビデンス,医療者の熟練・専門性,患者の価値観・希望,そして患者の臨床的状況・環境を統合し,よりよい患者ケアのための意思決定を行うもの」と定義されている2).つまり,これからの医療では,臨床研究で得られるエビデンスのみではなく,患者の価値観や希望も考慮することが重要であると考えられる.

    厚生労働省の調査によると,患者やその家族の意思決定が最も重要となる終末期医療において,医療・療養を考えるために得たい情報として「医療の内容」や「相談・サポート制」について多く上がったこと,情報を受けたい情報源として「医療機関・介護施設」が最も多かったことを報告している3).

    意思決定支援は,患者の価値観や希望を考慮した質の高い意思決定を促進するために非常に重要であると考える.

    そこで,偏りがない十分な情報量の提供と選択肢に対する価値観の明確化を支援するツールとして意思決定支援ツール(Decision Aid; DA)が開発され,国際基準IPDAS(International Patient Decision Aids Standards)の作成によって質の高いDAの開発が促進されている.

    しかし,本邦における国際基準IPDASに沿って開発されたDAはまだまだ少数であり,今後さまざまな医療分野での開発が期待される.

    本邦における意思決定支援ツール(Decision Aids; DA)の研究

    上述した通り,本邦でのDA開発は欧米と比較して非常に少ない状況である.国際基準IPDASは日本語版の開発がされており4),広く汎用できるようになったものの,国際基準に沿って開発されたDAは,以下に紹介する胃瘻の造設,乳がんの術式選択などで使用されたものである4)5).

    胃瘻の造設に関する意思決定支援研究

    胃瘻の造設は,摂食障害・嚥下障害などにより独力で食事摂取ができない患者に対する治療法である.しかし,高齢者の胃瘻造設後の生存率は,経管栄養と比較しほぼ同じ結果であることが示されている6).さらに高齢者における胃瘻造設に関する意思決定は,本人の意思が明確でない場合は代理人による意思決定も考慮されるため,意思決定過程は複雑なものになる.

    倉岡らは,高齢者における胃瘻造設に関する意思決定ガイドを開発し,65歳以上の胃瘻造設を検討していた患者の家族を対象に,その支援の効果を検証した4).この研究で使用された意思決定ガイドはインターネット上で入手できる.
    http://irouishikettei.jp/dl/gideline01.pdf

    この結果,胃瘻造設の有無とその直後の意思決定に関する後悔は,6ヶ月後の代理人の意思決定に関する後悔に影響することを報告した.意思決定ガイドでは,胃瘻造設という治療法に関する情報と,治療後に起こり得る合併症のリスク,生存率などを数値として分かりやすく提示している.また,胃瘻に関する研究や意思決定のステップなどもわかりやすい表現に留意し作成されている.患者の家族は,患者本人が置かれている状態を理解し,治療法に関する情報を十分に得て,治療後の合併症のリスクや生存率を踏まえて吟味することでより価値観と一致した意思決定を行うことができると考える.

    乳がんの術式選択に関する意思決定支援研究

    乳がん手術療法には複数の選択肢が存在し,急性期においては,乳房部分的切除術に放射線治療を加えて実施した場合と,乳房切除術を実施した場合とでは生存率は同等である7).つまり,乳がん手術療法では,患者の価値観に合わせた選択が重要となる.図1には乳がんの手術療法をフローチャートで示した.

    乳がん患者は,乳房温存術か乳房切除術か,乳房切除術を受けた場合,その後の乳房再建術を行うかどうか,乳房再建術を行う場合は一期再建か二期再建かを選択する必要がある.

    大阪らは,このような治療法の選択を検討する乳がん患者に対してDAを開発し,意思決定に関する葛藤への影響を報告した8).開発されたDAは,インターネット上で入手できる.
    http://www.healthliteracy.jp/pdf/decisionaid_breastcancer_w_narrative.pdf

    このDAでは,意思決定のステップに合わせて,疾患に関する情報,各治療法のメリット,デメリット,治療にかかる費用などを表や図で分かりやすく提示している.

    このDAを使用した意思決定支援の結果,通常のケアを受けた群よりもDAを使用した支援を受けた群のほうが,意思決定に関する葛藤が軽減した.

    DA開発の広がり

    国際基準に沿って開発,効果検証がなされたDAは,本邦においては上述した研究が代表的である.今後,リハビリテーション領域の手法選択に関わる意思決定においても開発されることを期待したい.

    【引用文献】
    1)Guyatt G. Evidence-based medicine. ACP Journal Club. 1991; 114: A-16.
    2)Straus SE, et al: Evidence-Based Medicine: How to Practice and Teach It.4th ed. Chur-chill Livingstone, London, 2010
    3)厚生労働省:平成29年度 人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書.https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/saisyuiryo_a_h29.pdf
    4) Kuraoka Y, et al: Factors influencing decision regret regarding placement of a PEG among substitute decision-makers of older persons in Japan: a prospective study. BMC Geriatr17:134,2017
    5) 大坂和可子,他:乳がん手術方法の意思決定 ガイド「自分らしく“決める”ガイド(乳がん手術方法編)」『健康を決める力』. http://www.healthliteracy.jp/ kanja/nyugan.html
    6)American Geriatric Society Ethics Committee and Clinical Practice and Models of Care Committee. American geriatrics society feeding tubes in advanced dementia position statement. Journal of American Geriatrics Society 62. 1590–1593,2014
    7)日本乳癌学会乳癌診療ガイドライン.
    http://jbcs. gr.jp/guidline/
    8)Osaka W, et al: Effect of a decision aid with patient narratives in reducing decisional conflict in choice for surgery among early-stage breast cancer patients: A three-arm randomized controlled trial. Patient Education and Counseling,2016

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