前回のコラムでは,根拠に基づく医療(Evidence based medicine; EBM)の広がりを背景にした,患者と医療者の意思決定共有(Shard decision making; SDM)や意思決定支援の重要性について解説した.今回,意思決定支援を代表するツール,Decision Aids(DA)の研究とその効果について,海外の取り組みを中心に解説する.

開発の背景

医療における患者の意思決定は,歴史的にみるとまず、唯一医学的情報を有する医師が絶対的な決定権をもち,患者に代わって治療法の決定を行う「父権主義(パターナリズム)」が根強く存在していた.続いて 1970年代ごろから,医療に関する決定をするのは情報を得た患者自身であるという考え方が浸透し,近年では「インフォームドコンセントモデル」「シェアードディジションメイキングモデル」が広まっている.

しかし,医療においては,人によって治療に対する価値観が異なることや,その治療効果が不確実性の高いものであることも多く,患者にとってこの複雑な意思決定を行うことは難しい.そこで,偏りがない十分な情報量の提供と選択肢に対する価値観の明確化を支援するツール「DA」が開発された.

その研究と効果について詳しく解説する.

DA研究の概観

DAは,1990年代ごろから欧米を中心に開発されてきた.1997年にMorganらが虚血性心疾患を有した患者に対するDAの効果を報告すると1), 1998年には,O’Connorらがホルモン治療を受けるかどうかを悩む女性患者に対するDAの効果を報告2),さらに翌年,DAの治療効果に対するシステマティックレビューを発表した3).

このように,DAの研究,意思決定支援に対する効果の検討は,1990年ごろから盛んに行われている.2003年,DAの国際基準(International Patient Decision Aids Standard; IPDAS)が設立されたことで,より質の高いDAの作成と研究が行われるようになってきた.

DAの効果

先に述べたようにDAの効果に関する研究のシステマティックレビューは1999年に行われ,近年では2017年にStaceyらが,2015年までに行われた研究を対象にレビューを更新している49.

以下の表には,DAの効果をそれぞれのレビューごとに示した(表1). DAの効果として,「患者自身の治療や評価に関する知識の向上」,「意思決定に関する葛藤の軽減」は,通常の支援を受けた患者群よりも効果を示し,より高いエビデンスがあるとされている.

加えて,StaceyらのレビューではDAの副次的な効果として,それぞれの治療や評価法の選択肢に与える影響やアドヒアランス (例:治療における服薬や糖尿病患者のインスリンの自己投与の遵守)の向上などをあげている(表2). これらの副次的効果について,研究によってはDAの有無によるアウトカムの差がなかったという報告もあり,慎重に結果を考慮する必要がある.しかし,DAを用いることで患者自身の行動や生活の質(Quality of Life)を向上させる可能性はあると考えている.

疾患別DAの例

【乳がん予防および治療に対するDA】 乳がんに対する予防および治療法の選択は,選択肢のメリットとデメリット,価値観によって異なる複数の選択肢の存在などから,患者自身で選択することが複雑になる.我が国における乳がん患者の調査では,ほぼ半数の患者が医療者と治療法を「協力して決める」ことを望んでいると報告し5),意思決定支援の重要性が増している.

たとえば,乳がん予防薬については現在,選択的エストロゲン受容体モジュレーター(タモキシフェンやラロキシフェン等)とアロマターゼ阻害薬の2種類の乳がん予防薬が利用可能であるが,タモキシフェンの副作用には子宮がんや血栓塞栓症などが含まれ,患者自身の意思決定は非常に困難な可能性がある.

Staceyらは,音声ガイドの付いたブックレットと個人用のワークシート(図1)で構成されるDAを用いることで,タモキシフェンの服用に関する患者の意思決定における葛藤と心理的苦痛が軽減したと報告している6).このDAでは個人の価値観を特定し,予防薬の服用によるメリット,副作用によるデメリットを主眼に置き,乳がんの危険因子,タモキシフェンの臨床試験に関する情報が提供されている. 図1 患者の個人用ワークシート 乳がん予防薬のメリットとデメリットを提供し,個人の好みの特定や質問を書き込むためのスペースも設けられている.(文献6から引用)

【前立腺がんに対するDA】 前立腺がんにおける意思決定支援の的となるのは,前立腺がんのスクリーニング検査に関するものが多い.なかでもPSA検査は,利用できる検査の中で最も感度が高い検査であるが,前立腺がんの死亡率に対する有効性は不確実性が高い.そのため,前立腺がんのスクリーニングに関するガイドラインを公開している米国においても,前立腺がんのスクリーニング検査を行うかどうかの意思決定に患者を関与させることが推奨されている7).

Partinらは,前立腺がんのスクリーニング検査における,ビデオ,パンフレットをベースとしたDAを利用することで,疾患に対する知識が向上したと報告した8).この研究のDAは,スクリーニング検査の不確実な利点とその潜在的なリスクを,わかりやすい表現とバランスのとれた情報に留意し構成された.ビデオをベースとしたDAは23分間の動画として,パンフレットをベースとしたDAは郵送して対象者に提供された.結果として,ビデオとパンフレット,どちらをベースにしたDAだったかで検査に対する知識の向上に差はなかったとした.

【変形性膝関節痛に対するDA】 変形性膝関節症の代表的な治療法としては,人工膝関節全置換術(TKA)があり,大幅な疼痛の緩和と機能改善に対する効果が期待できる.しかし,TKAには周術期の合併症が発生する可能性や外科的修正が必要な場合もあり,患者はこのようなリスクを考慮し慎重に意思決定をする必要がある.加えてStaceyらは,患者がTKAを選択した場合,手術の相談から実施までの患者の待機時間が長くなることや,より高い費用がかかることを治療の特徴として述べており9),時間・金銭的効率の側面からも,患者の価値観と一致した意思決定を行うことは重要である.

そのため,Staceyらの研究では,50分のビデオと非薬物療法,鎮痛薬,注射,補完療法など手術療法以外のさまざまな治療法に関する情報を提供する付属のブックレットで構成されたDAが利用され,意思決定の質が向上することを報告している.

リハビリテーション領域におけるDA

DAは,より詳細な情報とより慎重な検討が必要となる複雑な意思決定で重要となり,複雑な意思決定とは,人によって評価が異なる複数の選択肢からなる意思決定であるとされることを前回のコラムでも述べた10).

リハビリテーション領域で治療法の選択について考えると,そもそもその治療効果は不確実性が高い.つまり,複数の治療法(選択肢)が並存する中で,患者と療法士が選択する必要があるということである.このような複雑な意思決定が存在するリハビリテーション領域では,DAの存在が非常に重要になってくると考えている.

【引用文献】 1)Morgan MW: A randomized trial of the ischemic heart disease shared decision-making program: an evaluation of a decision aid [Master's thesis]. Toronto: University of Toronto, 1997 2)Annette M O’Connor,et al : A decision aid for women considering hormone therapy after menopause: decision support framework and evaluation. Patient Education and Counseling, 1998 3)Annette M O’Connor,et al : Decision aids for patients facing health treatment or screening decisions: systematic review. BMJ, 1999 4)Stacey D, et al: Decision aids for people facing health treatment or screening decisions. Cochrane Database Syst Rev 1: CD001431, 2017 5)Yamauchi K, et al: Congruence between Preferred and Actual Participation Roles Increases Satisfaction with Treatment Decision Making among Japanese Women with Breast Cancer. Asian Pac J Cancer Prev18, 2017 6)D Stacey, et al: Development and evaluation of a breast cancer prevention decision aid for higher-risk women. Blackwell Publishing Ltd 2003 Health Expectations 6, 2003 7)American College of Physicians: Clinical guideline: screening for prostate cancer. Annals of Internal Medicine, 1997 8)Partin MR, et al: Who uses decision aids? Subgroup analyses from a randomized controlled effectiveness trial of two prostate cancer screening decision support interventions. Health Expectations, 2006 9)Stacey D, et al: Decision aid for patients considering total knee arthroplasty with preference report for surgeons: a pilot randomized controlled trial. BMC Musculoskeletal Disorders volume 15, 2014 10)International Patient Decision Aid Standards (IPDAS)Collaboration. What are patient decision aids? http://ipdas.ohri.ca/what.html

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