1917年に「全国作業療法推進協会(the National Society for the promotion of Occupation Therapy)」(NSPOT)が結成され,作業療法が始まった.作業療法創立時の主要メンバーである,ジョージ・バートン、ウィリアム・ラッシュ・ダントン,スーザン・トレーシー,エレノア・クラーク・スレーグルという人物たちが,どのような時代背景の中で,どのように作業を用いた実践をしていたのかについてまとめる.

歴史的な背景

アメリカの1900年代の初頭は,急速な技術革新や繁栄により,手作業が工場生産となり,移民が増え,社会的弱者が急増し,精神病院では劣悪な環境で過ごす患者が増えた時代であった.そのような環境から,セツルメント運動や精神衛生運動といった社会改革を目指した運動が盛んに行われていた1).そのような時代の中で,作業が人々の健康と幸福に役に立つことを信じ,作業に参加できない病気を患った方々に対して,作業を通した治療的な取り組みを行っていた実践家が作業療法の創始者たちであった.

作業療法の組織ができた経緯

NSPOTの設立は,ジョージ・バートンの呼びかけで始まった.バートンは建築家であり,ウィリアムモリスの下でアーツアンドクラフツ運動について学び,芸術や手工芸などの作業を通して,障害者や社会的弱者を支援する経験をしていた2)3).バートンは,結核,左足の切断,ヒステリー性の左半身の麻痺など重病を患った障害の当事者でもあった.バートンは,自分の病気を治療する手段として,大工仕事や園芸といった手作業を行うことを選択し,心身が回復する経験をした.また,「慰めの家」を開き病者や障害者に対して,作業を通した支援を行い始めた.

バートンは,作業治療に関する文献や大学への聴講を行い,そこで,ウィリアム・ラッシュ・ダントンやスーザン・トレーシーといった,作業治療の実績のある方々と交流を始め,作業療法の実践家が集まる場をつくることを提案した2).

精神科医であるダントンは,バートンに同意し,作業療法の全国組織にすることを提案したことで,協会の成立につながった3).

当時の作業療法の実践

ダントンは,道徳療法を下敷きとし,当時,精神衛生運動のリーダーであった精神科医のアドルフ・マイヤーの習慣訓練の考えを取りいれた.健康は仕事,遊び,活動と休息のバランスによって成り立つと考え,精神病は人の習慣を反映したものであると考えた1).ダントンは,精神科病院の看護師に手工芸を学んでもらい作業の指導者とした.入院中の患者は,ボーリングや,運動,編み物や読書などの活動に参加できるようになっていた3)4).

看護師であったスーザン・トレーシーは看護学生の時に,休んだままの患者よりも作業をしている患者のほうが幸せように見えることに気がつき,看護師として働くようになってから,手工芸などの作業を用いた治療の実践と教育をしていた3).トレーシーは,作業療法の最初の教科書である,「Studies in Invalid occupation(病人のための作業の研究)」の著者であった.著書の中で,教育者であり哲学者でもあるジョン・デューイのoccupationの定義を引用し4),活動と興味を合わせることや能力に合わせて作業の段階づけを行ったうえで,患者が作業に取り組むことの重要性を強調した.

エレノア・クラーク・スレーグルはソーシャルワーカーであり,ジョン・デューイと関わりのあったハルハウスの中につくられた,シカゴ市民社会事業学校を卒業した.その後,アドルフ・マイヤーに招かれて精神科クリニックの作業療法主任となった.スレーグルは,マイヤーの日常生活の習慣を重視する考えに基づいて,習慣訓練を実践していた.慢性の精神病者に対して,身辺処理,作業の教室,散歩,小グループでの食事,レクリエーション活動や運動などを組み合わせた24時間のプログラムを実施していた4)5).

まとめ

作業療法の始まりにかかわった,ジョージ・バートン,ウィリアム・ラッシュ・ダントン,スーザン・トレーシー,エレノア・クラーク・スレーグルの4人を紹介した.障害の当事者,医師,看護師,ソーシャルワーカーといった,多職種の人々が作業を用いた実践を行っていた.また,貧困や精神病者など社会的に弱い立場である人々が作業に参加できないという問題に対して,人間らしい生活を取り戻そうとする社会的な運動の中で作業療法の創始者たちはつながっていた.

人が作業が行うことの重要性を強調し,①作業を行うことで心身の回復を促すこと,②健康的な生活は時間の使い方=習慣の影響をうけるため,仕事,遊び,日課,休息のバランスを保つことが重要であるという点で,作業の治療的な意義を共有していた.

【共著】 嶋田 隆一(茨城リハビリテーション病院 作業療法士)

【引用文献】 1)Barbara A, Gillen G: Willard and Spackman's Occupational Therapy 13th edition.Wolters Kluwer Health.2018. 2)Quiroga: occupational therapy: the first yeas, 1900-1930. American occupational therapy Association. 1995. 3)Peloquin SM: Looking Back.Occupational therapy service: Individual and collective understanding of the founders,part 1.American Journal of Occupational Therapy45(4):352-359,1991. 4)鎌倉矩子:作業療法の世界 第2版.三輪書店,2004. 5)Peloquin SM: Looking Back.Occupational therapy service: Individual and collective understanding of the founders,part 2.American Journal of Occupational Therapy45(8):733-744,1991.

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