作業療法とは何かを考えるときに,そのルーツから考えることが重要と思われる.作業療法の起源には,道徳療法といわれる18世紀の精神病者に行われた人道的な支援や,アーツアンドクラフツ運動といった社会運動の影響を受けているといわれており,以下に解説をする.

道徳療法

作業療法はアメリカで始まったが,18・19世紀の道徳療法(moral treatment)に起源をもつとみられてる1).作業療法と道徳療法の類似点として,対象者のために,適切な環境を設定し,特定の作業を通して社会への適応を促すことに共通点があるといわれている2).

道徳療法以前には,精神障害者に対して拷問的な方法がとられていた.

その中には,患者を鎖でつないだり,冷や水を浴びさせるような非人道的な行為が行われていた. 18世紀より,理性から無知を開放する啓蒙主義といわれる社会運動が西欧文明の中で勃興した.啓蒙主義の流れの中で,精神障害者に対して人間性を尊重するような支援がヨーロッパから始まった2).

道徳療法を始めた代表者として,フランスの医師であるフィリップ・ピネル(1745~1826)やイギリスのクエーカー教徒にウィリアム・テュークが挙げられる2).ピネルは,精神病者を鎖から解放した人として名高い.ピネルは,監護人のピュサンの行う人道的な処遇によって,病が回復するさまをみたことで,精神病者に対する治療には人道的な処遇が行われなければならないという認識が出来上がった3).ピネルは,精神病者が余暇活動や仕事などの作業活動を行うことを通して心身の健康を育むこと,規律正しい作業生活を送ることで回復を促すことなどの価値を認めていた.

フランスやイギリスではじまった道徳療法は,アメリカの精神医療関係者がイギリスのヨーク・リクルートを訪れたことで広がった.小規模の病院では,70~75%の回復が報告され,初期の米国の道徳療法は成功を収めていた2).

しかしながら,1861年からの南北戦争後,それまで治療の対象ではなかった貧困に苦しむ移民が急激に増大したことで,外国人移民への差別的な目が向けられ,精神病者に対しても同様の態度が向けられるようになった.また,精神病に関して,人を取り巻く環境の問題ではなく,脳の器質的な変化を起因とする病気であるという見方が主流となり,その中から薬物療法や手術による治療が発展したことにより道徳療法は衰退していった4).

アーツアンドクラフツ運動

アーツ・アンド・クラフツ運動は,1880年頃にイギリスでウィリアム・モリスらが起こした,芸術を通した社会変革活動である.産業革命の影響による過酷な労働環境や社会不安に対して,モリスは人間の尊厳を取り戻すために手仕事によるものづくりの重要性を唱えた5).

モリスは詩人であり,批評家であり,献身的な社会主義者であったが,彼の聴衆は彼の社会批判よりも,彼の職人技と美的なセンスに魅了させられた.モリスは,家具,布地,タペストリー,ステンドグラスの窓,手製本や照明をデザインし製作したが,モリスの社会改革思想は,イギリスでは広がらずに,アメリカで急速な広がりをみせるようになった.

多くのアメリカ人はアーツアンドクラフツ運動に興味をもち,1895年から1920年にかけて,アメリカの各地でアーツアンドクラフツ運動の組織がつくられるようになった.アメリカのアーツ・アンド・クラフツ運動のメンバーたちは、社会を改善する方法を模索し、アート、クラフツ、音楽、ダンスなどを使って、障害者、精神障害者、貧困者、社会的弱者など、社会にあまり受け入れられていない人たちを社会参加するためのプログラムを開発した5)。

このような作業を治療に役立てるような考え方は,作業治療(occupation cure)と呼ばれた.1890年から1920年にかけて,作業治療には2つのアイディアが形成されていた.1つは,よりよい作品をつくることに重点を置いた考え方であり,2つ目は,能力を感じる作業に参加するという段階的な治療プロセスに焦点を当てたものであった5).この後者の作業の治療的な側面に焦点を当てた者が,作業療法の創始者たちであった3).

まとめ

作業療法の起源は道徳療法といわれる人道的な支援が起源といわれている.道徳療法やアーツアンドクラフツ運動では,適切な作業をすることで,心身の回復を促したり,作業を通して人間性を回復させるという点で,作業療法との繋がりがみられた.

【共著】 嶋田 隆一(茨城リハビリテーション病院 作業療法士)

【引用文献】 1)Bing RK: Occupational therapy revisited: A paraphrastic journey. American Journal of OccupationalTherapy35(8):499-518,1981 2)Peloquin SM :Moral treatment: Context considered. American Journal of Occupational Therapy43(8):537-544,1989 3)鎌倉矩子:作業療法の世界 第2版.三輪書店,2004 4)Peloquin SM :moral Treatment: How a Caring Practice lost Its Relation.American Journal of Occupational Therapy 48(2):167-173,1994 5)Schemm RL: Bridging conflicting ideologies: The origins of American and British occupational therapy.American Journal of Occupational Therapy48(11):1082-1088,1994

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