医療・介護領域における外部性の問題#1 「自分だけがよくても良い結果は生まれない ー受診行動と外部性の問題を考えるー」

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八木 麻衣子 聖マリアンナ医科大学東横病院 技術課長補佐

外部性とは、ある個人や組織の意思決定や行動が、他の個人や組織の意思決定や行動に与える影響のことを表した概念です.この外部性には、影響を受ける人にとっての好影響である「正の外部性」と、悪影響である「負の外部性」の2つがあります.医療・介護領域においては、通常から患者の受診行動などによる外部性が指摘されています.一方、COVID-19による多大な影響を受けている有事ともとれる現在、その概念を理解して私たちの行動に結び付ける必要性がこれまで以上に大切になってきています.

みなさん、こんにちは.医療・介護領域で働く人と経営学・経済学をBridgeするコラムにようこそ.今回のテーマは「外部性」です.Covid-19による影響が広い範囲において色濃い現在ほど、この外部性による問題を考えることが大切に感じる時はありません.そこでこのコラムでは、外部性による医療・介護領域における影響について、平時と有事に分けて考えてみようと思います.

外部性とは何か

外部性とは、ある個人や組織の意思決定、行動・行為・活動が、他の個人や組織の意思決定、行動・行為・活動に与える影響のことを言います.複雑な経済活動が行われている現代、どんな人や組織においても、意志決定や行動選択には多かれ少なかれ他者の行動が反映されます.外部性は、そんな自分以外の個人や組織から受ける影響を表した概念です.

この外部性は、「正の外部性」と「負の外部性」の2つのパターンに分けて考えることができます.いわゆる、影響を受ける人にとっての「好影響」と「悪影響」です.

正の外部性の例としては、住民が地域ぐるみで景観保護に取り組み、その町全体の価値をあげるようなことがあげられます.観光地でも住宅地でも、街並みがきれいで安全なほうが、多くの人の興味を引きつけることができ、結果的にその地域全体の付加価値があがります.また、きれいに手入れされた庭も、近隣住民や通行人の目を楽しませるなどするため、正の外部性をもたらすものとして考えられます.

一方、負の外部性の代表的な例としては公害があげられます.ある企業が、大気中や河川などの自然環境に汚染物質を放出して公害を引き起こし、健康被害や生態系の破壊などをもたらした例は過去に数多く観察されています.近隣住民にとっては、自分の意志や行動とは関係のないこのような企業の行動により、もともとの生活環境や場合によっては仕事が奪われるなど、好ましくない影響がもたらされます.この悪影響が負の外部性です.

医療・介護における外部性の実際

さて、この外部性による医療・介護の現場に当てはめてみましょう.平時においてよく例に挙げられるのが受診行動の問題です.通常、ちょっとした風邪や腰痛が長引いたときなど、症状が軽いときに訪れるのは診療所やクリニックであり、大学病院のような大規模な医療機関ではありません.みなさんもご存知のように、原則として地域の医療提供体制においては、まずはゲートキーパーでもあるかかりつけ医を受診し、そこで行うことのできない検査、処置、治療が必要な場合には、かかりつけ医の判断で適切な医療機関に紹介する、という流れが存在します.

一方、日本の医療制度では、医療機関を選ぶことができる「フリーアクセス」の権利が患者側に保障されています.つまりは、医療の消費者である患者さんが、どの医療機関に行くかを決めることができるのです.そのため、前述のような地域医療提供体制における原則を無視し、症状が軽い多くの人が、「大きな医療機関のほうが安心だから」、「他の所に行かなくても、ひとつの医療機関ですぐ検査を受けることができるから」、などの利己的な理由で地域の中核病院にダイレクトにアクセスするようなことが増えてしまうと、本当にその医療を必要としている人が、適切なタイミングで検査や治療を受けることができない状況が発生します.

これは、まさに他の人の受診行動によって及ぼされた「負の外部性」と言えるでしょう.このほかにも、一部の人が救急車をタクシー代わりに利用したため、救急車で運ぶべき重症な患者さんの搬送が遅れてしまう、なども負の外部性の事象として考えられます.そもそも、医療資源は有限であり、余剰は潤沢でないため、「誰かが利用すれば、他の人が利用できない」という状況が往々にして生まれやすいのです.

このように、患者の権利としてフリーアクセスが保障されている日本では、一人ひとりの(利己的ともいえる)受診行動によってマイナスの外部性が働いてしまうと、それは時として需給ギャップを発生させ、他の人の医療を受ける権利を奪ってしまう可能性があります.そのため、私たちは普段の受診行動について、現状の医療提供体制を考慮した行動の「自制」を求められているともいえるのです(しかし、前回のコラムで紹介した情報の非対称性や、実際の情報開示状況などを考えると、そのための情報提供が十分に行われているかについては多少の疑問が残りますが…).

<前回のコラム> ・医療・介護領域における情報の非対称性とその影響① ~医療・介護の世界は「情報の非対称性」であふれている~医療・介護領域における情報の非対称性とその影響② ~情報の非対称性への対応はヘルスケアプロバイダー全体の問題である~医療・介護領域における情報の非対称性とその影響③ ~情報開示における目的適合性の大切さを考える~

さらに言えば、COVID-19のような「感染症」により多大なる影響をうけている「有事」な現在においては、これまで以上に外部性について考える必要性が増していると考えられます.次回のコラムではこの感染症と外部性の問題についてお伝えしたいと思います.

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