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  3. 呼吸を習わなくてはいけなくなった時代に知っておきたい息を吐くということ(2)

呼吸を改善することで、副交感神経が優位になることはこれまでのコラムで解説した。今回は具体的にどのようにすれば正しい呼吸を実践できるのか、そして、機能解剖学的な根拠は何なのかについて具体的に解説する。

目次

    はじめに

    前回のコラム「呼吸を習わなくてはいけなくなった時代に知っておきたい息を吐くということ(1)」に続き、今回はどのように副交感神経優位な状態に持っていくのかについて解説する。

    第1回2回のコラムでも取り上げたように、自律神経の調節に大きく関わっているのは「呼吸」である。

    3〜4秒の間に一度吸ったり吐いたり動作している呼吸器系からの情報は脳に伝わり、そして心臓に向かう副交感神経が伝えることができるのだが、この周期で入ってくる情報を交感神経はシナプスで使われる神経伝達物質の再取り込み時間の差で伝えることができない。

    副交感神経優位な状態するためには、やはり呼吸からの介入が必要だと考える。

    現に、一分間に6回のペースで呼吸をしたグループにおいて優位に血圧が下がったという報告もあり³⁾、一分間に8回の呼吸で、副交感神経優位(迷走神経)になったという報告もされている⁴⁾。

    さらにゆっくりとした横隔膜呼吸を1年間通して行うことで心疾患患者で糖尿病を持つ患者のHbA1cと血糖値が優位に下がったという報告もあり⁵⁾、呼吸による介入が単に呼吸だけでなく、循環器系や糖尿病といった問題に対してまでも影響があることが示唆されている。

    呼吸のポイントは息を「吐く」こと

    ここまで、息を吸っている状態や交感神経優位のまま抜け出せないという状態が、肩こりや腰痛の原因になっているだけでなく、様々な疾患とも結びついていることを見てきた。

    では、どうしたら呼吸を正常化させて副交感神経優位な状態に戻れるのか?ヒントは当然息を「吐くこと」にあり、ポイントが3つある。

    1) 呼吸の時間
    2) シンクロ呼吸
    3) 体幹

    [呼吸の時間]

    順番に見ていこう。呼吸は常に吸って、吐いてを繰り返す。
    問題となっているのは吸っている状態で身体が留まっていることだ。

    当然吸ったまま固まっている人はいないが、1日のうちに吸う回数が増え、吸っている時間が吐いている時間よりも長くなれば、体は交感神経優位に傾いてくる。
    現に息を吸っている時間に心拍が集まる傾向にあることが知られている⁶⁾。

    つまり副交感神経優位に体を持って行きたければ、息を吐いている時間を長くし、呼吸をする回数を減らすことが重要なのである。

    先述の研究結果も含め1分間に4回〜10回までという回数が「ゆっくりとした呼吸」と言え⁷⁾、1分間に6回の呼吸が最も副交感神経優位な状態になると言われている⁸⁾。

    また、息を吸っている時間より吐いている時間を長くすることはもちろん、吐いた後しばらくそのままで静止していることも望ましい。

    長く交感神経優位のまま抜け出せなかった人は、横隔膜のポジションが平らになったままになっており、せっかく息を吐いてドーム状の形に横隔膜がなったとして、すぐに息を吸ってしまってはもったいない。

    本人にとっては楽なポジションは息を吸った状態なのだ。斜角筋や脊柱起立筋、広背筋などの大きな筋肉で息を吸った方が楽なのは想像がつくし、血中二酸化炭素量に敏感になっているので、すぐに吸いたいのだ。

    こういった場合は、息を吐いたまましばらく静止することは、ドーム状の横隔膜のポジションを維持することを覚え、そして同時に二酸化炭素の量にも慣れることができる。

    吸って吐いて止めるという呼吸を1:2:1の割合で行えたら良いだろうし、できれば、1:3:1の割合で行えたらなお良い。

    [シンクロ呼吸]

    では長く息を吐き、横隔膜のポジションをドーム状に持っていくためには何が必要なのだろうか?

    横隔膜自体に受容体が少ないというのは前述の通りなので、ご自身で試してもらってもわかると思うが、横隔膜を自分で自由に動かすというのは実感しにくい。

    しかも、横隔膜を動かそうとするとスイッチをオンにするので、吸う方向に働き平らになってしまうのだ。

    だから敢えて息を吐くことが重要なのだが、どの筋肉が息を吐かせてくれているのであろうか?

    それは腹横筋と内腹斜筋の優先度が高い。横隔膜が裏に付着している肋骨の表面に付着し、下に引き下げてくれる役割を担う腹壁の筋肉だ。

    つまり肋骨が引き下げることができれば、自動的に横隔膜はドーム状のポジションに戻ることができるのだ。

    これまた前述のリブフレアはこれら腹横筋と内腹斜筋が肋骨をコントロールできなくなった状態を示し、肋骨が上がってしまった状態(=リブフレア)ではしっかりと横隔膜をドーム状の形に戻し、息を吐くことは難しくなる。

    つまり肋骨は常に下がった状態にあってその中で横隔膜が上下することができれば、平常時呼吸としては問題がない。

    呼吸を習わなくてはいけなくなった現代では肋骨が下がった状態で呼吸ができている人はすでに少なく、これはすでに理想形とすら言える。

    そして、注目すべきなのは腹壁の筋肉である腹横筋と横隔膜の関係性が「あべこべ」ということだ。
    これにより胸郭と腹腔の関係性は「シンクロ」している。

    どういうことかというと、横隔膜が収縮して息を吸えば、腹横筋は遠心性の収縮をする。つまり息を吸った時、腹腔は膨らむ。また横隔膜がリラックスしてドーム状の形に戻れば、腹横筋は求心性の収縮をして、腹腔はしぼむ⁹⁾。横隔膜と腹横筋はあべこべに収縮していることがわかる。

    よく考えてみると息を吸った時は胸郭に空気が入ってくるため膨らんでおり、同時に腹横筋も膨らみながら収縮しているので、胸郭と腹腔は「シンクロ」していることになる。

    息を吐けば、胸郭から空気が出ていくのでしぼみ、お腹も腹横筋の求心性収縮によりしぼむのだ。胸とお腹がシンクロしているというのは、呼吸をシンプルに考える上で必須だ。

    要するに、肋骨が下がった(リブフレアがない)状態で、胸とお腹が同時に膨らんだりしぼんだりしていれば、正常な呼吸と言えるだろう。

    [体幹]

    ここまでくれば呼吸を習わなくてはいけなくなった時代に、人間本来あるべき呼吸をある程度取り戻すことができるのではないだろうか。

    しっかりと息が吐けている状態を保てるということは副交感神経優位な状態を維持できるということであるし、横隔膜もドーム状の形を取り戻し、副呼吸筋に頼らずとも呼吸ができそうだ。

    ただ忘れてはならないのは、人間息を吸わないと生きていけない、という事実だ。しっかりと息が吐けた後は、やはり、しっかりと息を吸わないといけないのである。

    では、どのように「しっかりと」息を吸ったたら良いのだろうか?ヒントは、先述の腹横筋と内腹斜筋の使い方にある。

    横隔膜と腹横筋はあべこべの関係性で、胸郭と腹腔はシンクロすると前項で述べたが、息を吸うときは横隔膜は、ドーム状の形から(=息をしっかりと吐けている状態から)平らになり、腹横筋は遠心性の収縮で持って膨らむ。

    この膨らむ、という言葉が時に誤解を生むのだが、これは世間一般で言われているような腹式呼吸とは異なる。腹「式」と呼ばれている時点で何か特殊な呼吸法であるわけだが、この一般的な腹式呼吸はまさに前方にお腹を膨らませるようなイメージだ。

    しかし考えてみたら、息を吸って横隔膜が下がってくるのに、お腹だけ前に膨らむというのはどうも矛盾している。腹圧は均等に横にも後ろにもかかってくるのだ。こうしたお腹が前に膨らむ呼吸というのは、圧力を前に逃がしている呼吸であると考えて良いだろう。その呼吸が良い悪いと判断する訳ではなく、あくまで一種の呼吸法として捉えたら良い。

    しかし、人間本来あるべき呼吸を考えた時、圧力が前に漏れるというのは、胸郭とのシンクロを失い、圧力が保てないため体幹としての機能を失っている。

    本来あるべきなのは、息を吸った際、脊柱から腹部まで横に覆っている腹横筋は全体的に遠心性の収縮で膨らむという状態なので、実際には360度圧力が外側に向かい、どこか1箇所が過剰に膨らむということはないはずなのである。

    やってみるとわかると思うが、腹部の横や後ろを膨らませるというのはなかなか難しい。これくらいの範囲でお腹が膨らめば十分であり、これがいわゆる腹腔内圧が高い状態なのである。

    胸郭と腹腔をシリンダーや寸胴に例えることがあるが、まさにどこか1箇所膨らんでいたり凹んでいたりする形状を持つシリンダーや寸胴はおそらく存在しないだろう。

    そして内部にある横隔膜というピストンが上下を繰り返すことで、シリンダー内部の圧力交換が行われており、まさにポンプ機能である¹⁰,¹¹⁾、と考えると丁度良い。

    そして、これが本来あるべき体幹だと考えている。体幹機能は得てして、幹の側面にある筋肉ばかり考えられがちだが、それは体幹機能を捉えきれていない。

    「フタ」や「底」があって初めて3次元で考えられ、体幹内部の圧力を無視することはできない。

    逆に言えば、腹腔と胸郭がシンクロしていて、内部の圧力交換が保てていれば、脊柱の安定化につながり¹²⁾、このポンプ機能の低下は、腰痛や腰部の怪我に繋がる¹³⁾のだ。

    腕や脚を動かすためには欠かせない体幹の安定は、ポンプ機能に担保されていて、そしてそれはどのように息を吐き、息を吸うか、という事に密接に関わっていることがわかる。

    まとめ

    ここまで、副交感神経優位になるために欠かせない、息を吐くときに重要な3つのポイントを見てきた。

    これまで一般に言われてきた深呼吸だったり腹式呼吸のイメージが、人間本来あるべき呼吸とは少しずれていたことがお分かりいただけただろうか?

    そして、誰しもが呼吸をしているから問題ないと感じていることも、現代の高いストレスレベルを生き抜いているうちに吸う方に偏り、抜け出せなくなってしまったうちに、肩こりや腰痛だけでなく様々な疾患と結びついていく、、、このような状況から抜け出すヒントがあるとしたらそれは呼吸であり、特に息を吐くことなのである。

    1日に約2万回行われる呼吸という動作とあなたはどう付き合っていきますか?

    【Reference】
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