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呼吸を習わなくてはいけなくなった時代に知っておきたい息を吐くということ(1)

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大貫 崇 BP&CO. 代表

自分の呼吸状態を正しく認識できている人は少ない。しかし、一般的に自分の呼吸が浅いというイメージを持っている人が多いのは事実である。今回は、ライフスタイルと呼吸の関係性や、呼吸機能を正しく理解することの重要性、確認の方法などをご紹介します。

目次

    はじめに

    呼吸に関して、どのように吸ったり吐いたりするのが正しいのか迷ったことはないだろうか?
    呼吸法というのが巷に溢れかえっている中、最近ではヨガやピラティス、マインドフルネスなどの新しい分野が開発され、それぞれ呼吸というものを大切にしている。

    しかし、正しい呼吸法というものは教科書にも載っていないし、世の中一般的に正しい呼吸というものは浸透していない。

    にもかかわらず、「どうやら浅い呼吸というのがあまり良くないようだ」という認識は世間一般に浸透している。

    以前ある場所でイベントがあった際に、私が参加者の方々に対して「自分の呼吸が浅いと思う人?」という質問を行った際、半分以上の人が手を挙げたことがある。

    これは呼吸の深さや浅さの概念が浸透していることを意味するが、「では、呼吸が浅いってどういうこと?」と聞いてみると、「呼吸が早い」「呼吸が短い」「呼吸が粗い」などまちまちの答えが返ってくる。

    この経験からわかることとしては呼吸が大切で、深い呼吸が良いと知っているが、何が正しくて、何が間違っているのかあまりよくわかっていない、ということだ。

    ちなみに自分も含めトレーナーや医療の専門職も何が正しい呼吸なのか、ということに関しては学校であまり習わない。

    呼吸が生命の維持に不可欠であることは習うし、ガス交換という意味では心臓と肺の関係性だったり、胸郭の周りの解剖学は習うのだが、どんな時にどんな呼吸をしたら良いのか?ということに関しては習わない。

    しかも呼吸に関する研究は最近のものではなく、それこそ古くは18世紀や19世紀には心拍の変動に関する文献が残っている1)し、呼吸と自律神経に関する研究は1970〜1980年代に盛んに行われていた。

    正しい呼吸を維持することは難しい

    なぜ昔から研究が行われているのに「正しい呼吸」が一般に広がらないのだろうか?
    それはそもそも正しい呼吸などない、ということがよくわかっているからだ。

    自律神経からの情報は前回のコラム「呼吸を習わなくてはいけなくなった時代に知っておきたい自律神経と呼吸」で述べたように秒単位で伝えられ、それこそ心拍と心拍の間の時間は刻一刻と「変動」している。

    人間に恒常性(ホメオスタシス)がある限り、与えられた環境に適応し、呼吸数も変われば呼吸の仕方も変わってくるのだ。

    つまり、どこかに正しい呼吸があったとしても、常にそれをキープすることはできない。それは睡眠をすれば変わるし、階段を登れば変わってしまう。変幻自在に、自分の意思が届きにくいところで自律神経によって制御されているのだ。

    では、なぜ現代の人たちは、正しい呼吸を追い求めてしまうのだろうか?という議論は一旦置いておいて、ここからはなぜ人々は、自分の呼吸に問題を抱えている、つまり呼吸が浅い、と感じることが多いのだろうか?ということに焦点を当てていく。

    そして、実は人々が「吸いすぎている」と言う事を解説し、どうやったら呼吸を正常化できるのか、実践する方法を紹介する。

    「深く吸ってー、ゆっくり吐いてー、、、」などとヨガやピラティスのレッスンなどで指導された経験がある方もいるだろうが、やはりしっかりと呼吸を繰り返した運動の後は体も気持ちもスッキリする。

    ところが、何かふとした動作をしている時に自分の呼吸が止まっていることに気づくことはないだろうか?しゃがんで何かを取ろうとしたり、高いところに手を伸ばして何かを触ろうとしたりする時なんかに多いのではないかと思う。

    ここで呼吸が止まっていることに罪悪感を感じてしまう人もいるようだが、その必要はない。大抵の場合、息を止めてしまった動作をした後に、無意識のうちに「ふぅー」と安心して息を吐いているはずだ。

    特に取りにくいものを取ろうとするときなど緊張する(交感神経優位)わけで、それが無事に取れたら体は安心して(副交感神経優位)息が吐けるのである。

    つまり息が止まってしまうことも自然だし、その証拠にその後、無意識のうちに息を大きく吐いて安定を取り戻している。

    体はいつも正常化しようとして呼吸をモニターしてくれているので(ホメオスタシス)、自分では特に気にする必要がないのかもしれない。

    しかし、ここで問題になってくるのは現代社会では「息が止まるような」ストレスフルな瞬間は朝から晩まで常に用意されているので、常に息を吸っているような交感神経優位になりやすい生活に人々が傾くと言うことだ。

    呼吸機能の変化に気づくことが大切

    朝は自らの身支度だけでなく、子供たちや家族の準備に追われ、満員電車に揺られ職場に着いたかと思うと、仕事が大量に溜まっており上司がイライラしている。

    やっと仕事が終わったかと思えば、子供達の送り迎えや夕食の準備、または上司と飲み会といったパターンで、夜はスマホで動画をチェックしてどうしても寝るのが遅くなる、、、といった日々を繰り返している人はいないだろうか?

    非常にストレスフルであり、息を吐く暇すらもないといった日常だ。(これが新型コロナ禍で少し落ち着いた生活を取り戻すきっかけになることを願う)

    こうなってしまえば、体の恒常性も少しずつ変化し、歳とともに体も変化してくる。「歳だから」と言えばそれまでだが、交感神経優位でずっと戦っている体はストレスにさらされ疲弊し、本来の機能を徐々に失っていくし、呼吸機能の低下はその大きな一面を占める。

    問題なのは、人は呼吸機能の低下、もしくは変化に気付きにくいと言うことだ。主呼吸筋である横隔膜には、筋肉の伸張や短縮を検知する受容体が少ない。

    つまりいつ息を吸っていて、息を吐いているのかわかりにくいのだ。逆に1日約2万回するとされる呼吸動作でいちいち、「吸っている」「吐いている」と言う情報が脳に上がってきたら少し厄介なのはわかる気がする。

    そこでお勧めしたいのが、肋骨のポジションを確認することである。シャワーを浴びる前に自分の姿を鏡で見てみると、胸の下あたりにボコッと出ている肋骨が確認できるのではないだろうか?

    いわゆるリブフレアと呼ばれるものだが、みぞおちから横にハの字に開いている肋骨の角度が90度以上あったら要注意だ。それは息を吸いすぎたまま固まっている状態を表している。

    このように肋骨が開いてしまっている状態というのは、その時点で既に息を吸っている状態であり、息を吸おうが吐こうが肋骨が動かない人はさらに要注意だ。

    息を吸っている状態というのは横隔膜が平らになっている状態なので、リブフレアの人はこれ以上は息は吸えないということになる。

    しかし、例えば首や腰、背中など体の様々な副呼吸筋が収縮することでやっと息が吸える。これを1日約2万回繰り返し、数年がたてば肩こりや首・腰の痛みにつながるだろうということは想像に難くない。

    さらに、吸った状態で固まっているということは、常に交感神経優位になっているということでもある。

    ストレスが溜まって、眠れなくなる、果てには精神的な疾患につながっていく、、、というシナリオはどこかで聞いたことがあるはずだ。

    つまり、眠れなくなるほど交感神経をオフにできず、副交感神経をオンにできなくなっているということになる。吸った状態から抜け出せなくなってしまうことは、肩こりや腰痛だけでなく精神的にもダメージを与えると言える。

    自律神経のバランスの乱れが引き起こす心身への影響

    交感神経優位なまま暮らしていれば、心拍数は増え、血圧は上がる。このリスクは計り知れない。
    心臓疾患や脳梗塞などのリスクが高まり、ストレスによる肥満や、それによる高脂血症など、いわゆる生活習慣病とのリンクは忘れないでおきたい。

    また生活習慣病やメタボリックシンドロームと高い相関性を持つ糖尿病に関しては、自律神経障害を合併することが指摘されており、糖尿病患者の交感神経優位な状態が心疾患と結びつくこともある²⁾。

    ここで述べたいことは、前述の筋骨格系の問題や精神疾患の問題、そして生活習慣病など全身の臓器やシステムに、交感神経優位から抜け出せないことが大きな影響を及ぼすということだ。

    そして、やもすると表層に現れてきた各々の問題に対して、我々はどうしても局所的に対応することが多いのだ。

    肩こりがあれば湿布を貼り、糖尿病があればインスリンを投与し、精神疾患があれば投薬で治療をする、といった具合に。

    しかし、よくよく考えてみれば、体というのは常に1つであり、筋骨格系を含めた全身の臓器は神経細胞から送られてくる信号がオンになるかオフになるか、という2種類だけで動いているのだ。

    つまり、何か疾患があれば局所的に考えることは非常に大切であるが、反対に全身的に考えることも必要であるということだ。

    そのヒントになるのが全身の臓器に張り巡らされた自律神経であり、特に副交感神経である。

    副交感神経優位に体のシステムを持っていくことで、様々な炎症を引き起こす交感神経優位から抜け出せない状態を改善する、もしくは交感神経優位になっているからさらに炎症が亢進するという負のループを断ち切る必要があるのだ。

    次回は交感神経優位なライフスタイルから脱却するための副交感神経を活性化させるための呼吸法とそのメカニズムについて解説します。

    【Reference】
    1.Billman GE. Heart rate variability - a historical perspective. Front Physiol. 2011;2:86. Published 2011 Nov 29. doi:10.3389/fphys.2011.00086
    2.坂本、井内ら. 糖尿病、代謝異常と交感神経、副交感神経. 循環制御 2017; 38(1), 2-4.

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