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呼吸を習わなくてはいけなくなった時代に知っておきたい自律神経と呼吸

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大貫 崇 BP&CO. 代表

新型コロナウィルスによる症状の重篤化の要因の一つとして、免疫機能の働きが考えられる。この免疫機能に影響を及ぼすものとして自律神経系があげられる。今回は、交感神経と副交感神経からなる自律神経のバランス調整に関するメカニズムに関して最新のエビデンスも交えて解説する。

目次

    はじめに

    現在世界的に蔓延している新型コロナウイルスの脅威は、衰えることを知らず感染者が増え続けている状況だ。

    潜伏期間が長く、軽度な接触でも感染してしまう。また感染しても軽度な症状で済む場合や無症状の感染者もいるため、感染が広がる原因にもなった。

    1月末に中国で初めて感染者の報道があってから世界がこんなことになるなんて誰が想像しただろう?

    新型コロナウイルスは肺炎を引き起こし、重篤化すると呼吸困難となり死に至ることもあるが、基礎疾患が多い人が感染すると重篤化しやすいと言われている。

    肺炎であるから肺の炎症を引き起こすわけだが、なぜ基礎疾患が多い人が重篤化しやすいのだろうか?

    COPD(慢性閉塞性肺疾患)や肺にダメージを与える喫煙歴などはわかるが、高血圧、糖尿病、心臓病、がん治療中の患者といったあたりは直接的に繋がりがないような気がする。

    全身的な炎症が引き起こすメカニズム

    しかし、ここで「炎症」という言葉を考えて欲しい。しかも局所的な炎症ではなく、全身的なシステマチックな炎症だ。

    当然局所的に炎症が起こると、(何らかの細菌に感染した、打撲した、など)体の免疫機能が働き、その炎症を抑えようとする。

    血中には白血球を中心に免疫系のスイッチがオンとなり、それらの数値は血液検査などの結果ではCRP(C反応性蛋白)などに現れ、CRPの数値が高ければ、体は何らかの炎症と戦っているということがわかる。

    現代の医療ではどうしてもその「炎症」の原因を探り、炎症が起きている箇所に個別に局所的にアプローチをすることが多いのだ。

    それは「〇〇科」を受診して、薬をもらい、「△△科」でまた別の薬をもらい治療をするという病院のシステムを見るとよくわかる。

    しかし身体にとっては、どこで炎症が起きようが免疫系のスイッチはオンになるわけで、それが複数個所となってくれば免疫系の負担は増える。

    炎症と自律神経の関係

    何らかの原因で炎症が起きているとすれば、自律神経によって心拍数は高まり、血圧は上がる。つまり高血圧になり心臓疾患のリスクが高まるわけだ。

    糖尿病は血糖値を下げるインスリンの分泌異常とされているが、細胞が糖を取り込みエネルギーに替えるプロセスが、炎症系のサイトカイン (TNF-α)によって阻害され、血糖値が結果的に上がる(インスリン抵抗性)という現象も考えなければいけない。

    そしてTNF-αは体のどこかに炎症が引き起こされていれば血中に分泌されているわけで、さらにそれは脂肪細胞から分泌される1)ということも知られている。

    つまり生活習慣病(糖尿病・高脂血症・高血圧症など)の原因となる肥満は敵だ!というのは炎症を引き起こすから敵なのである。

    少し話が逸れたが、新型コロナウイルスの感染者で基礎疾患のある人が重篤化しやすいというのは、基礎疾患によりすでに炎症状態にあるため、新たにウイルスが身体に入ってきたときにはすでに免疫系の抵抗勢力が他に割かれており、ウイルスに抵抗しにくい、と考えられる。

    炎症と呼吸の関係

    では、炎症を抑えるためにはどうしたら良いのか?基礎疾患、つまり生活習慣病などの状況から抜け出していれば、新型コロナウイルスを含め他の感染症などにかかったとしても免疫機能が勝つ可能性だってあるわけだ。

    ここで鍵となるのが自律神経だと考えている。炎症状態にある場合、ここでは交感神経が優位となり身体は戦う準備を整える。呼吸数をあげ、心拍を上げ、血圧を上げ、免疫系のサポートをする。

    普段から何らかの原因で身体が臨戦態勢にあれば、睡眠の質は下がり、消化器系は栄養の吸収ができず、身体が回復に充てる時間がない。

    そうなると重要になるのが副交感神経だ。副交感神経優位になって睡眠の質を上げ、消化吸収能力をあげれば、回復への糸口が見えてくる。

    つまり普段から自分の身体を副交感神経優位にしておくことで、いざ炎症が起きたときにすんなりと対応できるのである。

    どのように副交感神経優位にしたら良いのか?自分の意思で心拍を下げ、血圧を下げることもできないわけで、もっと言ってしまえばTNF-αの分泌を抑制してくれ、とも身体に伝えることはできない。

    ここで活用したいのが呼吸である。呼吸器に関しては、唯一自律神経に影響を与えることができる器官と呼んでもおかしくないだろう。

    普段意識せず何気なく呼吸している傍ら、意識すれば深呼吸もできるし浅い呼吸をやってみることもできる。普段何気なく呼吸ができているということは心拍と同じように自律神経によって制御されているからだ。

    自律神経による制御は、主に頸動脈にある化学受容器(頸動脈体)で血中の二酸化炭素濃度をモニターしつつ、その変動が延髄にある呼吸中枢に伝わることで、胸郭に刺激が伝わり横隔膜や肋間筋などの収縮につながる2,3)というメカニズムである。

    また心臓にある洞房結節が心臓の筋肉に信号を出して、心拍を調整しているペースメーカーの役割を果たしているのだが、この洞房結節に指令を出すのが交感神経と副交感神経なのである。

    ちなみに自律神経の測定は心拍変動と言って心拍と心拍の間の時間がどのように変動するか、もしくは「揺らぐ」かを計測する。

    そして交感神経と副交感神経がどのように調節されているかと言うと、

    1)血圧の上下を頸動脈や大動脈にある圧受容体で検出された情報
    2)呼吸を状態を肺にある伸展受容体で検出された情報

    これらの情報を元に全身の交感神経、もしくは副交感神経に信号が行くようになっている。

    つまり血圧が下がってしまっていることがわかれば、交感神経が働き心拍を上げ、血圧が上がっていれば、副交感神経が心拍を下げると言う仕組みだ。

    また息を吸いすぎて、肺が伸ばされてしまっていたら、副交感神経が働き息を吐くことができる。

    副交感神経を優位にするための呼吸と血圧の役割

    ここで重要になってくるのがメイヤー波と呼吸の間隔である。メイヤー波とは血圧の約10秒周期の変動で、心拍の「上の血圧(収縮期血圧)」と「下の血圧(拡張期血圧)」の他に10秒程度の周期で血圧が変わると言うことがわかっている4)。これも圧受容体が感知して10秒に1度ほど脳に伝えてくれる。

    変わって呼吸の間隔は1分間に約10回から20回とされ、吸っても吐いても肺の伸展受容体から信号が送られる為、だいたい3〜4秒に一度信号が送られていることになる。

    この信号の間隔が重要で実は交感神経と副交感神経の伝達周期と関わってくる。

    シナプスで放出される神経伝達物質に違いがあることから、結果的に心臓に伝わる情報が変わってくるのだ。

    詳しく説明すると、神経伝達物質にノルアドレナリンを使う交感神経は、次の神経伝達の際ノルアドレナリンを放出するまでに約6~7秒かかり、アセチルコリンを使う副交感神経は再取り込みまでに約1秒かかる5)。

    心拍に関する交感神経の情報伝達の時間は、副交感神経(迷走神経)のそれより圧倒的に長い6)のだ。この時間の差が、伝えられる情報に違いを生む。

    10秒に1度変動が出る(メイヤー波)血圧に関しては、交感神経も副交感神経も心臓に情報を送れるが、3〜4秒に1度変動が出る呼吸に関しては、交感神経では神経伝達物質の再取り込みが進まず情報を送れない。1秒で再取り込みができる副交感神経のみ心臓に情報を送ることができるのだ。

    心拍変動の計測には様々なやり方や計算方法があるが、基本的には心拍と心拍の時間を計測、それらの変動を解析する。

    交感神経優位になると早く短い一定の心拍を刻み、変動は小さくなるが、副交感神経優位の場合は遅く長い一定ではない心拍を刻むことになる。

    これは交感神経が約10秒に一度情報を送ってくる波形(低周波:Low Frequency)と3〜4秒に一度副交感神経が情報を送ってくる波形(高周波:High Frequency)が混ざるため、結果的に副交感神経優位の場合、波形は「揺らぐ」のである。

    副交感神経優位になりたければ、呼吸からの情報を脳に伝達することで、交感神経を抑制し、心拍を下げる。そうすれば血圧も下がり、さらに血圧受容体からの情報で副交感神経優位に持っていくということができるはずだ。

    次節では、身体を副交感神経優位に持っていくために重要な「息を吐くこと」に着目していく

    【Reference】
    1.Hotamisligil GS, Shargill NS, Spiegelman BM : Adipose expression of tumor necrosis factor-α : direct role in obesity-linked insulin resistance. Science 1993 ; 259 : 87―91.
    2.小林, 山口. がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン(2016年度版). 2章. 1 呼吸困難のメカニズム. オンライン閲覧最終日2020年4月14日 https://www.jspm.ne.jp/guidelines/respira/2016/pdf/02_01.pdf
    3.Bruera E, et al. Management of dyspnea. Principles and Practice of Palliative Care and Supportive Oncology, 2nd ed, Lippincott Williams & Wilkins, 2002; p358
    4.Mayer, S. (1876). Studien zur physiologie des herzens und der blutgefässe 5. Abhandlung: über spontane blutdruckschwankungen. Sitzungsberichte akademie der wissenschaften in wien. Math. Naturwiss. Classe Anat. 74, 281–307.
    5.ストレスと自律神経の科学 自律神経活動が心拍変動を発生させる仕組み その3. オンライン閲覧最終日 2020年5月2日. http://hclab.sakura.ne.jp/stress_novice_jiritsushinkei.html
    6.Berntson GG, Cacioppo JT, Quigley KS. Respiratory sinus arrhythmia: autonomic origins, physiological mechanisms, and psychophysiological implications. Psychophysiology 1993; 30: 183–196.

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