脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチ:Constraint-induced movement therapy

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竹林崇 大阪府立大学 教授

これまでのコラム(世界の脳卒中後上肢のリハビリテーションのエビデンス(1),(2))において,世界の脳卒中後上肢麻痺に対する様々な手法のエビデンスについて論述した.しかしながら,この分野でエビデンス構築が飛躍的に進んだのは2000年前後と最近のことである.その躍進のきっかけがConstraint-induced movement therapyの台頭である.

本コラムと併せて、「世界の脳卒中後上肢のリハビリテーションのエビデンス(1)(2)」をお読み下さい。

CI療法の歴史

CI療法はアラバマ大学バーミンガム校のTaubによって開発された手法である.その起源は,1910年代の基礎研究にまで遡る.

1917年にOgdenら¹⁾が,1940年にTowerら²⁾が,1963年にKnappら³⁾が,錐体路に障害を持ち片側の前肢に麻痺を呈したサルにおいて,非麻痺側の前肢の拘束を行ったところ,作業活動における麻痺側の前肢による餌の摂取等の頻度が向上し,前肢の機能も弧状した.

その後,それらの先行研究を参考に,Taubらもリスザルに対する行動実験を行った.彼らは,リスザルの前肢に相当する脊髄レベルの後根を片側のみ切断し,リスザルの片側の前肢に重度の感覚障害を作った.そして,その後のリスザルの行動がどのように変化するかについて観察を行った.

すると,後根を切断されたリスザルは,切断側前肢の使用頻度を徐々に落とし,最終的には切断側前肢を全く使用しない状況となった.その際,生活は非切断側の前肢のみで代償的に行われていた.

この負の行動変容について,Taubらは「学習性不使用(learned non use)」と名付け,その行動を適切に変容するために,上記の先行研究にあるように,非遮断側前肢を拘束具で固定し,遮断側前肢を強制的に生活で使用するよう環境設定を施した.

その結果,リスザルは遮断側前肢を用い,餌を摂取するなどの行動変容を見せたと報告している.これらの変化について,Taubら⁴⁾は,図1のような行動変容モデルを提唱し,これらがCI療法の心理学的モデルであると後に報告している.

Taubらが基礎実験を終えた頃,臨床では,1981年にOstendorfら⁵⁾がヒトに対して同様の手法を試行していた.彼らは,まず基礎実験と同様に,脳卒中患者の非麻痺手に拘束具を装着した状況で実生活を過ごすよう促した.その結果,上肢機能の改善を認めたと報告している.

これらの手法は『Forced use therapy』と名付けられ,臨床における検証作業が進められた.1993年にTaubら⁶⁾が,構造化された課題指向型アプローチと麻痺手の機能改善を実生活に反映させるための行動学的手法(Transfer package)を含むプロトコルを開発し, CI療法と名付けた.その後,多くのランダム化比較試験を通して,エビデンス構築がなされた.

CI療法のコンポーネント

出所)TBI REHABILITATION

2006年にMorrisら⁷⁾が,CI療法の重要なコンポーネントとして,

①反復的課題指向型アプローチ(repetitive task-oriented training) ②練習によって獲得した麻痺手の機能改善を実生活に反映させるための行動戦略(Transfer package)(Adherence-enhance behavioral strategy) ③麻痺手のみを使用すること(Constraining use of more affected upper-extremity)

の3つを挙げている.

MorrisやTaubら⁷⁾は,「CI療法の本質的な目的の一つは,対象者の麻痺手を利用した目標を達し,実生活における麻痺手の使用を改善すること」と述べている.

いくつかの比較研究においても,ICFの心身機能・構造におけるアウトカムの変化は,ボバースコンセプト等の他の手法に比べても有意な効果は示していないものの,ICFにおける活動レベルのアウトカムの変化(実生活における麻痺手の使用: Motor Activity Log)に関しては,有意な効果を示すことが報告されている⁸⁾⁹⁾.

前回のコラム(脳卒中後上肢麻痺におけるアウトカムの意味)でも,脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチにおいては,ICFにおける心身機能・構造よりも活動におけるアウトカムの方がQuality of Lifeに直結することを述べた.

従って,CI療法は他療法に比べ,現時点では,対象者の幸福や生命の質に影響を与えうる手法と言えるかもしれない.よって,作業療法士が知っておくべき脳卒中後の上肢機能アプローチの一つと言えるだろう.

【謝辞】 本コラムは,当方が主催する卒後学習を目的としたTKBオンラインサロンの田中卓氏,佐藤恵美氏,山本勝仁氏,堀翔平氏,森屋崇史氏,高瀬駿氏,高野大貴氏,河村健太氏,藤井和正氏に校正のご協力をいただきました。心より感謝申し上げます。

引用文献 1)Oden R, et al: On cerebral motor control: the recovery from experimentally produced hemiplegia. Psychobiology 1: 33-49, 1917 2)Tower SS: Pyramidal lesions in the monkey. Brain 63: 36-90, 1940 3)Knapp HD, et al: Movements in monkeys with deafferented forelimbs. Exp Neurol 7: 305-315, 1963 4)Taub E, et al: New treatments in neurorehabilitation founded on basic research. Nat Rev Neurosci 3: 228-236, 2002 5)Ostendorf CG, et al: Effect of forced use of the upper extremity of a hemiplegic patients on changes in function. Phys ther 1022-1028, 1981 6)Taub E, et al: Technique to improve chronic motor deficit. Arch Ohys Med Rehabil 74: 347-354, 1993 7)Morris D, et al: ” Constraint-induced movement therapy: characterizing the intervention protocol, Eura Medicophys 42: 257-268, 2006 8)Huseyinsinoglu BE, et al. Bobath concept versus constraint-induced movement therapy to improve arm function recovery in stroke patients: a randomized controlled trial. Clin Reha 26: 705-715, 2012 9)Barzel, A., Ketels, G., Stark, A., Tetzlaff, B., Daubmann, A., et al.:Home-based constraint-induced movement therapy for patients with upper limb dysfunction after stroke (HOMECIMT): a cluster-randomized, controlled trial. The Lancet Neurology, 14(9), 893-902, 2015.

【本コラムの動画解説です】

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