1. ホーム
  2. コラム
  3. 脳卒中後上肢麻痺におけるアウトカムの意味

脳卒中後上肢麻痺におけるアウトカムの意味

お気に入り数4
竹林崇 大阪府立大学 教授

近年、リハビリテーションを行う上で、「アウトカム」の重要性が多くの療法士に認識されている。しかし、このアウトカムが認識され始めたのは1990年代からであり、それまでは教育すら行われない時期もあったという。また、アウトカムに対する教育における本邦と海外との意外な違いがあることにも驚かされる。
今回は、アウトカムに関する国内外での違いと、脳卒中後の上肢麻痺に用いられる代表的なアウトカムを解説する.

目次

    アウトカムの捉え方の歴史的変化

    リハビリテーションにおいて,アウトカムは重要な意味を持っている.アウトカムとは,現象の状況を測定する客観的な物差しである.

    これらをしっかり理解することで,療法士の主観に頼った独りよがりでない,『改善』という事実を測ることができる.一般的に職人気質で腕に自信がある療法士の方が,『対象者のことをよく出来ない療法士は,アウトカムを学ぶのが好きだ』といった,アウトカムを学ぶことに対して揶揄する発言を散見されるが,これは本末転倒な発言である.

    『対象者のことをよくする』という事実は,一般的に妥当性・信頼性が確立されたアウトカムによって示されるものであり,療法士による独善的評価がなされたり,対象者の方の主観のみに依存し(多くの対象者の方は療法士に対して,心理的な影響によりネガティブな意見を言えない),決定する事実ではない.

    こういった療法士の思考背景もあり,1970年代から1990年代においては,アウトカムに対する教育すら行われていなかった時期があった.対象者の変化を動作分析におけるベクトルやトルクと言った生体力学的用語を用い,療法士が独自に解釈していた時期が長く続いていた.

    しかし,1990年代よりGuyatteら1のEvidence based Medicine/Practiceの概念が世界中に徐々に浸透し始めてから,エビデンスが証明されたアウトカムの使用に注目が集まるようになった.

    アウトカム教育の国内外の違いについて

    さて,次にアウトカムに関する療法士教育について,振り返っていこうと思う.
    本邦の療法士養成教育で,最も使用されている脳卒中後の上肢麻痺に関する代表例を問われれば,多くの療法士はどのようなアウトカムを挙げるであろうか?

    おそらく,多くの療法士が,『Brunnstrom Recovery Stage( BRS)』と即座に答えるのではないだろうか.実際に多くの養成校がBRSを脳卒中後の上肢麻痺に対する主要アウトカムとして教育しており,その反応も当然である.

    BRSは,脳卒中後の上肢と手指に対するアウトカムであり,それぞれ6段階の順序尺度である.基本的に麻痺手の回復過程を順に追うものであり,国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health: ICF) における心身機能・構造に分類されるアウトカムである.

    驚くことに、このBRSは日本では非常に一般的なアウトカムであるものの,実は世界ではほとんど使用されていない.実際,筆者らも各国において,研究者と議論をして来たが,BRSを理解している研究者はほとんどいなかった.

    このように世界と本邦では大きな違いがある.では,実際に世界ではどのようなアウトカムが使用されているのであろうか.Santisteban ら²⁾は,脳卒中後の上肢麻痺に関わる研究を調査し,48 の異なる評価を抽出した(下図).

    本項に置いては,それらに従い,世界で特に使用されているICFにおける心身機能・構造,活動レベルのアウトカムをいくつか紹介し,その意味について解説する.



    ※文献2より引用

    心身機能・構造に関するアウトカム

    1)Fugl-Meyer Assessment(FMA)
    FMA の上肢機能項目は,Fugl-Meyer らが1975 年に公表し,Brunnstrom Recovery Stage の基準を用いつつ,より細分化がなされた評価である.点数は全 33 項目で各項目3件法 (0: 廃用,1: 一部機能的,2:十分機能的),66点満点で構成されている.日本語版は Amano ら3が作成している.

    2)Ashworth scale およびModified Ashworth scale
    Modified Ashworth Scale(MAS)は,Bohannon らが,上肢麻痺に併発する痙縮の評価として,1987 年に発表した評価である.この評価は,評価者が対象者の麻痺手を他動的に全可動域動かした際に,評価者が主観的に感じた抵抗の大きさや質によって,0 から 4 までの6 件法(0, 1, 1+, 2, 3, 4)によって示す評価である.

    活動に関するアウトカム

    1)Action Research Arm Test(ARAT)
    ARATは,Lyleらが公表した上肢に関する評 価である.ARATは,つかむ(Grasp),握り(Grip),つまみ(Pinch),粗大動作(Gross Movement)といった 4 つの大項目からなる評価である.4 つの大項目の中に,19 個の下位項目がある.それぞれを 4 件法(0 点から 3 点)で評価を行い,総合点は 57 点に設定されている.評価項目と,4件法の順序尺度である.

    2)Motor Activity Log
    Motor Activity Log は日常生活における対象者の主観的な麻痺手の使用量(Amount of use: AOU)と使用の質(Quality of Movement: QOM)を測るための評価である.それぞれに対して 6 項目の順序尺度を0.5点刻みで評価する 12 件法の評価であり,最低点は0点,最高点は5.0点とされている.

    活動レベルのアウトカムの変化が重要視されている


    これらの代表的なアウトカムの中で,従来BRSやFMAといった心身機能・構造のアウトカムの変化が重要視されて来た.しかしながら,近年の研究では,その解釈が少しずつ変化している.

    例えば,Kellyら4は,Quality of lifeの改善には,上肢における心身機能・構造のアウトカムの変化よりも,活動レベルのアウトカム(MAL)の変化の方が,より寄与率が高いと報告している.これらの結果から,近年ではより活動レベルのアウトカムの変化が重要視されており,そのアウトカムに影響を与えうるアプローチの必要性が高まっていることを理解しておく必要がある.

    【謝辞】
    本コラムは,当方が主催する卒後学習を目的としたTKBオンラインサロンの堀本拓究氏,高瀬駿氏,朋成畠氏,中島薫平氏,須藤淳氏,山本勝仁氏,河村健太氏,原口平磨氏,森屋崇史氏,佐藤恵美氏,石川弘明氏,に校正のご協力をいただきました。心より感謝申し上げます。

    【引用文献】
    1.Guyatt GH; Evidence-based medicine. ACP J Club 114: AA-16, 1991
    2.Santisteban L, et al: Upper limb outcome measure used in stroke rehabilitation studies: A systematic literature review. PLos One11: e0154792, 2016
    3.Amano S, et al: Clinimetric properties of the Fugl-Meyer Assessment with adapted guidelines for the assessment of arm function in hemiparetic patients after stroke. Top stroke rehabil 25: 500-508, 2018
    4.Kelly KM, et al: Improved quality of life following constraint-induced movement therapy is associated with gains in arm use, but not motor improvement. Top in stroke rehabil 25: 467-474, 2018

    【本講義の動画解説】

    この記事に関連するタグ

    興味のあるタグをフォローしておくことで、自身のフィードに関連するセミナーやコラムを優先的に表示させることができます。(無料会員機能。登録はこちら)

    人気コラム

    もっと見る

    コラムで人気のタグ

    タグをフォローしておくことで、自身のフィードに興味のあるセミナーやコラムを優先的に表示させることができます。(無料会員機能。登録はこちら)

    注目執筆者

    もっと見る

    コラムカテゴリ