世界の脳卒中後上肢のリハビリテーションのエビデンス(2)

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竹林崇 大阪府立大学 教授

前回のコラム『世界の脳卒中後上肢のリハビリテーションのエビデンス(1)』では、本邦における作業療法にて利用されている脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチの推移について示した。本コラムでは、前回の内容に引き続き、アメリカ心臓/脳卒中学会が行うことを推奨している脳卒中後の上肢麻痺に対する手法、1)課題指向型アプローチ、2)CI療法、3)ロボット療法、4)電気刺激療法、5)メンタルプラクティス、について引き続き解説を加えていく。

本コラムは「世界の脳卒中後上肢のリハビリテーションのエビデンス(1)」の続きとなります。

4)電気刺激療法

American Heart/Stroke Association(アメリカ心臓/脳卒中学会)のガイドラインでは電気刺激療法はNeuromuscler electrical stimulation(神経筋電気刺激)と記載されているが、本稿においては、電気刺激療法と記載することとする。

電気刺激療法は、僅かに随意性が保たれている脳卒中後の上肢麻痺を呈した対象者(重度から中等度例)に有用だと考えられている。なお、課題指向型アプローチやConstraint-induced movement therapy(CI療法)と併用して用いられることが非常に多く、従来の課題指向型アプローチやCI療法の効果を修飾する(単体でアプローチする際と比較し、より効率的に麻痺手の機能・運動障害の改善を促す)と報告されている¹⁻³⁾。

本邦においても、Hybrid Assistive Neuromuscular Dynamic Stimulation Therapy(HANDS療法)と呼ばれるアプローチが近年広く使用されている。HANDS療法とは、1日8時間3週間、随意運動介助型電気刺激装置(MUROソリューション:パシフィックサプライ株式会社製、IVES:OG技研株式会社製)と掌側カックアップスプリントを装着した状態で、練習および実生活を実施するアプローチ方法である。

このアプローチは代償的に電気刺激を用いて、他動的に特定かつ単純な動作を実施するような機能的電気刺激とは異なり、あくまでも対象者自身の随意運動に連動した動きの学習の中で、麻痺手の機能・運動障害を改善することを目的としたアプローチである。

このアプローチの効果については、Shindoら⁴⁾の報告等、研究の実施本数は少ないがランダム化比較試験によっても証明されている。

また、近年では、肩関節に生じる亜脱臼に対して、補正・修正効果を認めるとも報告されており、亜脱臼に対するアプローチとしてもエビデンスレベルA(強く推奨する)とされている⁵⁻⁷⁾。亜脱臼に対しては、作業療法場面においても、スリングや三角巾による固定など、亜脱臼の補正効果やアプローチの効果も不十分なものが横行していた。従って、現在のエビデンスを鑑みると、亜脱臼に対するアプローチとしては、電気刺激療法の利用がファーストチョイスになると考えている。

5)メンタルプラクティス(ミラー療法を含む)

メンタルプラクティス、メンタルイメージ、ミラー療法などがこのカテゴリに含まれる。メンタルプラクティス等のエビデンスは、これらを単体で実施するというよりは、課題指向型アプローチおよびCI療法といったエビデンスが既に確立されているアプローチと併用することを念頭に置いている。

つまり、上記の電気刺激療法と同様、課題指向型アプローチおよびCI療法の効果を修飾する(単体でアプローチする際と比較し、より効率的に麻痺手の機能・運動障害の改善を促す)ことが証明されている⁸⁻¹²⁾。

加えて、課題指向型アプローチやCI療法等の介入を行う直前に、メンタルプラクティス、メンタルイメージ、ミラー療法などを実施することで、より良い効果を残す可能性が上記に引用した論文内でも示唆されている。

また、基本的にできるだけ長時間イメージに没入できる環境を作った方が、より良い麻痺手の機能・運動障害の改善につながるといった報告もされている¹³⁾。従って、これらの知見を鑑みると、実際の作業療法における診療場面では療法士が1対1で行う介入時間以外の自主練習として提示することが現実的な運用となる可能性もある。

脳卒中後上肢のリハビリテーションのエビデンス(1)(2)のまとめ

さて、今回、世界の脳卒中後上肢のリハビリテーションのエビデンス(1)(2)を通して世界の脳卒中後上肢麻痺のエビデンスに触れた。この流れを鑑みると、本邦でもエビデンスを基盤とした世界のエビデンスに準じた変化が見られていることがよくわかる。また、これらエビデンスだけが作業療法におけるアプローチの全てではないものの、これらの証拠が示されたアプローチを軸に対象者中心の脳卒中後の上肢麻痺に対する作業療法を展開することがEvidence based practiceを実践していく上でも基本となると思われる。よって,作業療法士であるならば,闇雲にエビデンス が確立されていないアプローチを学ぶ以前にこれら5つのアプローチについては、理解をしておくことが重要になると思われる。

【謝辞】 本コラムは当方が主催する卒後学習を目的としたTKBオンラインサロンの高瀬駿氏、井本裕堂氏、横山広樹氏、前田正憲氏、甲斐慎介氏、有時由晋氏、田中卓氏、金子高雄氏に校正のご協力をいただきました。心より感謝申し上げます。

1.Pomeroy VM, King LM, Pollock A, Baily Hallam A, Langhorne P. Electrostimulation for promoting recovery of movement or functional ability after stroke: systematic review and meta-analysis. Cochrane Database Syst Rev 2: CD003241, 2008 2.Alon G, Levitt AF, McCarthy PA. Functional electrical stimulation (FES) may modify the poor prognosis of stroke survivors with severe motor loss of the upper extremity: a preliminary study. Am J Phys Med Rehabil 87:627–636, 2008 3.Hara Y, Ogawa S, Tsujiuchi K, Muraoka Y. A home-based rehabilitation program for the hemiplegic upper extremity by power-assisted functional electrical stimulation. Disabil Rehabil. 30:296–304, 2008 4.Shindo K, Fujiwara T, Hara J, Oba H, Hotta F, Tsuji T, Hase K, Liu M: Effecctiveness of hybrid assistive neuromuscular dynamic stimulation therapy in patients with subacute stroke: A randomized controlled pilot trial. Neuro rehabil Neural Repair 25: 830-837, 2011 5.Price CI, Pandyan AD. Electrical stimulation for preventing and treating post-stroke shoulder pain: a systematic Cochrane review. Clin Rehabil 15:5–19, 2001 6.Chae J, Yu DT, Walker ME, Kirsteins A, Elovic EP, Flanagan SR, Harvey RL, Zorowitz RD, Frost FS, Grill JH, Fang ZP. Intramuscular electrical stimulation for hemiplegic shoulder pain: a 12-month follow-up of a multiple-center, randomized clinical trial. Am J Phys Med Rehabil. 84:832–842, 2005 7.Van Peppen RP, Kwakkel G, Wood-Dauphinee S, Hendriks HJ, Van der Wees PJ, Dekker J. The impact of physical therapy on functional outcomes after stroke: what’s the evidence? Clin Rehabil. 18:833–862, 2004 8.Butler AJ, Page SJ. Mental practice with motor imagery: evidence for motor recovery and cortical reorganization after stroke. Arch Phys Med Rehabil 87(suppl 2), 2006 9.Page SJ, Levine P, Leonard A. Mental practice in chronic stroke: results of a randomized, placebo-controlled trial. Stroke 38:1293–1297, 2007 10.Page SJ, Levine P, Sisto SA, Johnston MV. Mental practice combined with physical practice for upper-limb motor deficit in subacute stroke. Phys Ther 81:1455–1462, 2001 11.Liu KP, Chan CC, Lee TM, Hui-Chan CW. Mental imagery for promoting relearning for people after stroke: a randomized controlled trial. Arch Phys Med Rehabil 85:1403–1408, 2004 12.Liu KP, Chan CC, Wong RS, Kwan IW, Yau CS, Li LS, Lee TM. A randomized controlled trial of mental imagery augment generalization of learning in acute poststroke patients. Stroke 40:2222–2225, 2009 13.Page SJ, Dunning K, Hermann V, Leonard A, Levine P. Longer versus shorter mental practice sessions for affected upper extremity movement after stroke: a randomized controlled trial. Clin Rehabil 25:627– 637, 2011

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