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  3. 米国小児科学会・NATA・NSCAのユーススポーツに対する姿勢

最近の動向としてLTADコンセプトの見直しと認知の広まりから、スポーツや健康に関わる団体がユーススポーツに対するそれぞれの姿勢をクリニカルレポート・安全勧告・公式声明文と形を変えて表明しています。
今回は、米国小児科学会、NATA(全米アスレティックトレーナーズ協会)、NSCA(全米ストレングス&コンディショニング協会)の3団体のそれを紹介します。共通点を意識しながら読んでいただけたらと思います。

目次

    米国小児科学会によるクリニカルレポート

    同学会はBrennerらが2016年に“Sports Specialization and Intensive Training in Young Athletes”というタイトルのクリニカルレポートを発表し、以下のトピックに対して検証やレビューを行っています。

    (1)ユーススポーツの現状と早期競技特化の背景
    (2)競技特化と激しいトレーニングによる身体的影響の懸念
    (3)18歳以下のアスリートのスポーツ専門化に関する疑問
    (4)小児科医へのガイドライン。

    (1)では、減っているものとしては、「近所の子供達だけで遊ぶ“ピックアップゲーム”」や「高校で複数スポーツをプレーするアスリート」などが挙げられ、増えているものとして、「スポーツをする目的が乖離している親子」、「早期競技特化をする子供」、そして「慢性スポーツ傷害・オーバートレーニング・燃え尽き症候群の件数」などを挙げながら、現状とその背景を述べています。


    (2)と(3)では、大きな懸念を持つ早期競技特化の文化、それに対するアンチテーゼとして「多様化(Diversification)」を推奨しています。

    スポーツサンプリングを例とする多様化の恩恵として、様々な社会的交流を経験する事を通しての将来に必要とされる感情や自己調節機能の強化、スポーツそのものからの脱退の抑制、リーダーシップスキルの養育、内在的モチベーションの形成、複数スポーツに参加する事による怪我のリスク低下などを挙げています。

    ここで、この項目で印象に残った二つの記述を引用・紹介します。

    ”Athletes who participate in a variety of sports have fewer injuries and play sports longer than those who specialize before puberty (複数のスポーツに参加するアスリートは、思春期前に単一化をしたアスリートよりも傷害が少なく、より長くプレーしている).“

    “Even when the athlete is driven to take his or her game to the next level, evidence is mounting that specialization in a single sport before puberty may not be the best way to accomplish this goal for the majority of sports (アスリート本人が高いレベルでの競技を志している場合でも、殆どの競技において思春期前の専門化はその目標を達成するための一番の方法ではないという証拠は積み重なってきている).”

    同レポートを締めくくる、(4)の小児科医へのガイドラインは以下の通りです。
    ●ユーススポーツの主な目的は、楽しむ事と人生を通しての運動スキルを身につけること
    ●思春期前に複数のスポーツをする事は、怪我・ストレス・燃え尽き症候群のリスクを減らす
    ●殆どのスポーツにおいて、遅い専門化はユースアスリートのゴール達成の確率を高める
    ●幼少期の複数スポーツ体験は、人生を通してのスポーツへの参加と健康維持に繋がる
    ●競技特化を決めたユースアスリートと、その目的が適切・現実的であり、(コーチ・親ではなく)アスリート本人のものかを話し合う
    ●子供のスポーツにとって最善とは何かを認識し、“エリート”を謳うスポーツプログラムのトレーニング・コーチング環境を注意深くモニターする
    ●特定のスポーツから、1年の内最低でも3か月は“オフ”の期間を設ける
    ●特定のスポーツから最低でも週1-2日の“オフ”を設ける事で、怪我のリスクを減らす
    ●ユースアスリートの心身の成長と成熟度、そして栄養面の状態をしっかりとモニターする

    NATAによる安全勧告

    NATAは2020年2月に発表した“ユーススポーツの早期競技特化に対する安全勧告”を発表しています。ユースアスリートと現場レベルで関わり、小児科と繋ぐ役割も担っているアスレティックトレーナーの大元が、前述した小児科学会のガイドラインとと同じ方向を向いており、それを公表している事に大きな意味を感じます。

    ●早期競技特化を出来る限り遅らせる
     -複数のスポーツ参加は総合的なフィットネス・運動能力の向上と怪我のリスク低下に繋がる
    ●1度に1つのチーム(≠スポーツ)
     -同時期に複数のチームでプレーしない (メインスポーツ+遊びで他のスポーツは良い)
    ●1年の内、8か月以内
     -1つのスポーツを管理された環境で年間8か月以上プレーしない
    ●週の合計練習時間は、子供の年齢よりも少なく
     -例:8歳の子供は週に8時間以上管理された練習に参加しない
    ●最低でも週2回の休養日
     -種目を問わず、管理されたスポーツから離れる時間を週2日以上確保する
    ●管理されたスポーツからの休養と回復期間
     -シーズンが終わったら次のスポーツに参加する前に十分な休養をとる

    この安全勧告は、アメリカ4大スポーツ(NFL, NBA, MLB, NHL)そしてMLSに所属する公認アスレチックトレーナー達で構成されるそれぞれの団体から承認を受けており、各スポーツ団体からの強いサポートを受けている事が分かります。

    NSCAが示すユース育成の10本柱

    トレーニング面で業界を代表するNSCAもまた、LTADに関する公式声明を“10本柱”という形で2016年に発表しています。ここでは10本柱の紹介にとどまりますが、公式声明にはその背景や根拠が19ページに渡って記述されています。

    ●個人差と直線ではない成長・発達過程への考慮
    ●年齢、能力、目標に関わらず、身体のフィットネスと心理社会的な健康を向上させるLTADプログラムへの参加
    ●運動機能と筋力の発達に焦点を置いた、幼少期からの身体のフィットネス向上
    ●幅広く運動機能を向上させる幼少期のサンプリング
    ●プログラムの中心は、子供の身体、精神、社会的な健康
    ●怪我のリスクを減らすコンディショニングへの参加
    ●総合的なフィットネスを向上させる幅広いトレーニング様式の提供
    ●関連性のあるモニター・アセスメントツールの使用
    ●計画的に漸進・個別化されたトレーニングプログラム
    ●有資格・適任な専門家と教育学的なアプローチ

    これらの説明として、子供は大人のミニチュア版ではないこと、競技レベルに関係なく生涯を通じてスポーツと運動を続けるベースを造るためには自尊心、自信、モチベーション、そして楽しみが育つようにサポートを提供する事が大切であること、サンプリングは長いスポーツキャリアに繋がり、運動を続けるチャンスを増加させること、精神面のモニタリングツールの例としてPOMS(the Profile of Mood States questionnaire; 気分プロフィール検査)の紹介などがされています。

    さいごに

    子どものスポーツ離れが進んでしまった米国のユーススポーツ。その要因となっているスポーツビジネスや早期競技特化に対する誤認識は根深いものがあります。これを覆すためには種目や団体の枠を超えての共通認識と共同作業が必要です。米国小児科学会、NATA、NSCAといった強い影響力を持つそれぞれの団体が科学的な根拠をもとに示した姿勢が共通している事は、健全な環境形成に向かう大きな力になっているはずです。コラボレーションしたキャンペーン等を目にする日も近いかもしれません。次回は、国を挙げて同様の活動を開始したニュージーランドの取り組みを紹介します。

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