前回のコラムで紹介した、The Aspen Instituteによるユーススポーツ環境の改善を目指すProject Play。同プロジェクトが設定した8つの障壁の一つが、“Sameness and Specialization(単一・専門化)”です。ここに“Early (早期)” を加えた “Early Sports Specialization(スポーツの早期専門化)” がアメリカのユーススポーツ環境では大きく問題視されています。特に、怪我のリスクとの関わりを調査した研究は多く行われており、ユースアスリートのスポーツ傷害の増加に大きく関与している事が報告されています。

スポーツの早期専門化とは

最もよく使われている定義が、”Year round participation in a single sport at the exclusion of other sports (他のスポーツをせずに、単一のスポーツに年中参加していること)”です。この定義に関する議論は現在進行形で行われており、期間や練習時間といった外的要素や、年齢やスキルレベルといった内的要素を含むべきだという考えや、早期専門化をしている/していないという2択ではなく、その度合いによってカテゴリー分けをして調査・研究をしていくべきだという意見もあります。個人的には、子供がどのような気持ちでそのスポーツと向き合っているかという精神面も考慮に入れるべきだと思っています。

早期専門化が台頭した背景

アメリカのスポーツ文化の特徴として、季節ごとに異なるスポーツをプレーする、シーズンスポーツ・マルチ―スポーツがあります。幼少期に複数のスポーツを経験して育った経験が競技を専門化した後でも役に立っていると公言するオリンピック・プロアスリートは多数存在します。

ところが、スポーツビジネスの巨大化に伴い、大学へ奨学金付きで進学する事やプロアスリートを目指すために早くから専門的なトレーニングを開始するトレンドが生まれました。上記に定義を紹介した、スポーツの早期専門化です。アメリカのユースを含むアマチュアスポーツの土台とも言える、もともとは”Sports for All, Forever (スポーツを全ての人に、永遠に)”を掲げて始まったAAU(Amateur Athletic Union)にもビジネスと勝利至上主義が介入されるようになり、大手ブランドからスポンサーを受けているような強豪AAUチームでプレーする事=プロへの道というイメージが定着し、いかに自分の子供をそのようなチームに入れるかに躍起になる大人が増えました。

この風潮を、ノートルダム大学女子バスケットボールチームの名将Muffett McGrewは、“変わってしまったのは親”と強く批判しています。また、AAUにおける子供の成長や健康を度外視した試合スケジュールや、特定のスキル獲得だけに焦点を置いた指導を行うコーチ達に対しても、NBAスターLeBron Jamesをはじめとするプロアスリートからも懸念・批判の声が上がっています。Malcolm Gladwellが2008年に提唱した、10,000時間ルールもこの風潮を後押ししたとして、研究論文で言及されることがあります。

このようなスポーツの早期専門化による競技力の優位性をサポートする根拠は乏しく、むしろ後述する怪我のリスク増加といった弊害を示す研究報告や、Project Playをはじめとする啓蒙活動にも関わらず、ビジネスと親・保護者を原動力としてスポーツの早期専門化の流れは今も続いています。

早期専門化による問題:スポーツ傷害のリスク増加

第一回のコラムでも紹介しましたが、2000人を超えるユースアスリートを対象とした研究論文(Post et al.2017)は、思春期前から単一のスポーツを行っているアスリートは、そうでないアスリートに比べて過去の怪我をレポートする傾向が高く(約1.6倍、P<001; OR 1.59; 95%CI 1.26-2.02)、オーバーユースの怪我においても同様に約1.5倍(P=.011; OR 1.45; 95%CI 1.07-1.99)と報告しています。

また、複数のスポーツをプレーしていても、メインスポーツに参加している時間が長すぎる事も、怪我のリスクを上げることになります。同研究では、1年間で8か月以上メインスポーツに参加しているユースアスリートは、上半身・下半身の両方において、オーバーユースの怪我をレポートする傾向が約1.7倍高い事を報告しています(P=.04; OR 1.68; 95%CI 1.06-2.80, P=.001; OR 1.66; 95%CI 1.22-2.30)。

上記のPostらによる論文を含む、2018年に発表されたBellらによるシステマティックレビューは、スポーツの早期専門化の度合いが強いユースアスリートは、専門化が弱度と中度のユースアスリートに比べてオーバーユースによるスポーツ傷害のリスクが有意に高い事を報告しています(pooled RR ratio: 1.81; 95%CI: 1.26–2.60、pooled RR: 1.18; 95% CI: 1.05–1.33)。このレビューに使われた研究論文の総数が少ない点は指摘されるべきですが、早期専門化の定義が固まり、年齢・スキルレベル・性別などをコントロールした質の高い研究の数が増えるにつれて、より精度の高い情報が得られるようになるでしょう。

スポーツサンプリング

スポーツの早期専門化と真逆の考え方が、「スポーツサンプリング」です。名前から察しがつくかと思いますが、スーパーマーケットで食品サンプルを試すように、複数のスポーツを試す事です。Coteらが提唱し、LTADモデルを補填するとも言われるDevelopment Model of Sport Participation (DMSP)では、6歳から12歳をサンプリング期間としています。その後、13歳から15歳を専門化期間、16歳以上を投資期間と位置付けています。(添付図)

The Aspen Instituteは、Project Playのスポーツサンプリング啓蒙ビデオの中で120種類ものスポーツを色々試してみる事を推奨し、その体験から得られる利益を説いています。僕が考えるスポーツサンプリングの一番の魅力は、早期専門化による怪我のリスクを防ぐだけではなく、Diversity of Opportunity(機会の多様性)です。

1人1人に向いている、1人1人が夢中になれるスポーツに出会える可能性を増やすことは、LTADのゴールであるActive for Life (人生を通して活動的であること)を達成する大きな力になります。

日本のユーススポーツ環境

日本の部活文化や、一つの事への集中を美徳とする考え方は、スポーツの早期専門化が根付きやすい環境と言えます。だからこそ、データに裏付けられた、子供の人生を第一に考えたユーススポーツ環境を整備していく必要があります。今回紹介したデータは海外のものですが、日本における現状を把する為にも、国内でも研究が進んでほしい分野です。

LTADが掲げるActive for Lifeの価値が浸透し、エリートパフォーマンスを目指す場合にも早期専門化ではなくDMSPが示すサンプリングからの道を辿れるように、情報発信を続けていきたいと思います。

次回のコラムは、キーワードである “Deliberate Play”と“Deliberate Practice”の説明を含めながら、DMSPを詳しく紹介します。

関連サイト

TMG athletics × LTAD

主催者への質問

この機能を利用するには、ログインが必要です。未登録の方は会員登録の上、ログインしてご利用ください。

この記事に関連するタグ

興味のあるタグをフォローしておくことで、自身のフィードに関連するセミナーやコラムを優先的に表示させることができます。 (無料会員機能。 登録はこちら )

    コラムで人気のタグ

    タグをフォローしておくことで、自身のフィードに興味のあるセミナーやコラムを優先的に表示させることができます。(無料会員機能。 登録はこちら )