1. ホーム
  2. コラム
  3. 痙縮シリーズvol3:痙縮に対する電気刺激療法の実際
学会・人材交流会・その他

痙縮シリーズvol3:痙縮に対する電気刺激療法の実際

脳卒中後の痙縮に対する電気刺激療法は,目的に応じて刺激時間や周波数といったパラメーターを設定する必要がある.
本コラムでは,痙縮の改善を目的とした電気刺激療法のパラメーターの違いによる効果に関して解説を行う.

【前回のコラム】

痙縮シリーズvol.2:痙縮に対する電気刺激療法の概要

 

 

電気刺激療法の実施時間について

電気刺激療法の実施時間について

脳卒中後の痙縮改善を目的とした電気刺激療法を実践する場合,その実施時間は刺激部位によって異なることが報告されている.

足関節の痙縮に対する経皮的末梢神経電気刺激(TENS:Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation)の実施時間を検討した報告では,発症から3か月以上が経過した脳卒中者30名を対象としてランダム化比較試験が行われている1)

この報告における対象者は「課題指向型訓練を中心とした運動療法の開始前に30分のTENSを実施した実験群」「課題指向型訓練を中心とした運動療法の開始前に60分のTENSを実施した実験群」と「課題指向型訓練を中心とした運動療法のみを60分実施した対照群」の3群に分けられ,週5回,計6週間の期間で介入が行われた.

電極位置は総腓骨神経の腓骨頭部と脛骨近位部外側に位置する前脛骨筋のモーターポイント上に設置され,周波数は100Hz,パルス幅は50ms,刺激強度は感覚閾値の2~3倍の強度に設定し,触知可能な筋収縮を確認した.

アウトカム指標としてModified Composite Spasticity Scale:MCSS(足関節底屈筋に対する痙縮の評価),足関節の他動関節可動域,Timed up and go test,The four-point clonus scaleをベースライン,3週後,6週後で調査した結果,全群でアウトカムの改善が示された.

特に,TENS実施群では痙縮の評価であるMCSSが有意に改善し,実施時間が長い程効果量が高くなっていたと報告されている.

 

  

電気刺激療法の周波数について

電気刺激療法の周波数について

脳卒中後の上肢運動障害に対する電気刺激療法のシステマティックレビューによると,電気刺激療法は筋力の向上,活動性の改善に効果はあるが,パラメーターが異なる場合の効果についてエビデンスを示すデータはないとしている2)

しかし,手指の巧緻運動障害を呈した脳卒中者に対して電気刺激療法を実施した研究では,介入前のFugl-Meyer Assessment:FMAが60点以上の場合,40Hzの刺激群で握力,ピンチ力,母子内転筋のElectromyography:EMGによる振幅の増加,20 Hzの刺激群でMinnesota Manual Dexterity Test(手指の巧緻性・協調性に使用される評価)の有意な向上を示したと報告されている3)

 

また,痙縮と運動麻痺を呈した脳卒中者に対して,異なる周波数による電気刺激療法の効果を比較した報告もある.

Sentandreuら4)は,脳卒中後の痙縮と運動麻痺により手の運動障害を呈した高齢者を対象に,電気刺激療法の周波数の違い(35Hzと50Hz)による刺激効果を比較した単盲検ランダム化比較試験を実施している.

この研究では,発症より1~15か月が経過した脳卒中高齢者61人を「コントロール群」「50HzのNMES実施群」「35HzのNMES実施群」の3群に分類し,コントロール群はストレッチ,筋力訓練,歩行訓練,エルゴメーターなどの標準的なリハビリテーション介入,実験群はNMES+標準的なリハビリテーション介入を週3回8週間の頻度で介入を実施している.

NMESの電極は指関節・手関節の伸筋群(長橈側手根伸筋・短橈側手根伸筋・総指伸筋)に貼付され,パラメーターはパルス幅300㎲,運動強度は対象者が不快なく最大関節可動域の運動ができる程度とし,刺激時間は2~30分とした.

さらに,参加者は電気刺激を感じ,関節運動に応じて積極的に随意収縮を行うよう指示されていた.

アウトカムは手関節・中手指節関節のModified Ashworth Scale:MAS,関節可動域,握力,ピンチ力,Box and Block Test:BBT,Barthel Index:BI,拮抗筋のEMGが設定され,ベースライン,1か月,2か月,フォローアップで比較を実施した.

結果,NMES実施群はコントロール群と比較して可動域・握力・ピンチ力・MASに有意な改善を認めた.

さらに35Hzの刺激群は50Hzの刺激群よりも,可動域・MAS・BIが有意に改善したと報告されている.

これらの報告から,痙縮に対する電気刺激療法は実施部位や周波数などのパラメーター設定により効果の変動があると予測されるが,痙縮の改善に寄与した因子が電気刺激であるとの判断は困難であり,自然回復やその他運動機能の改善が影響していた可能性がある.

痙縮の改善に向けて電気刺激療法を実施する場合には,先行研究で使用されているパラメーターを参考にしながら,発症からの期間や運動障害の病態に応じて介入計画を検討する必要があると考えられた.

【次回のコラム】

痙縮シリーズvol4:痙縮に対する振動刺激療法

【共著】

宝田 光(医療法人 札幌麻生脳神経外科病院)

【参考論文】

1)Laddha D, Ganesh GS, Pattnaik M, Mohanty P, Mishra C. Effect of Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation on Plantar Flexor Muscle Spasticity and Walking Speed in Stroke Patients. Physiother Res Int 21(4):247-256,2016.
2)Nascimento, L. R. et al. Cyclical electrical stimulation increases strength and improves activity afer stroke: A systematic review. J. Physiother. 60(1), 22–30,2014.
3)Doucet BM, Griffin L. High-versus low-frequency stimulation effects on fine motor control in chronic hemiplegia: a pilot study. Top Stroke Rehabil 20(4),299-307,2013.
4)Sentandreu-Mano T, Tomas JM, Ricardo Salom Terradez J. A randomised clinical trial comparing 35 Hz versus 50 Hz frequency stimulation effects on hand motor recovery in older adults after stroke. Sci Rep 11(1),9131,2021.

XPERTに登録しませんか?

XPERTでは、臨床の最前線で活躍する専門家の
知識やノウハウを学べます

この記事に関連するセミナー

この記事に関連するタグ

この記事に関連する求人情報