前十字靭帯再建術の再建グラフトの靭帯化 “Ligamentization”〜成熟過程・成熟時期〜

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藤田 慎矢 福岡整形外科病院 リハビリテーション科 主任

今回は,前十字靭帯再建術(Anterior Cruciate Ligament Reconstruction:ACLR)に用いられている再建グラフト(再建材料)の成熟過程と成熟時期ついて触れたいと思います.患者さんやクライアントへ説明する上で,再建グラフトはどのような過程で靭帯化“Ligamentization” していくのか,どのような時期に成熟していくかといった説明をすると思います.今回の内容は,臨床場面の一助になればと思っております.

再建グラフトの修復過程

まず再建グラフト(再建材料)の修復過程について解説していきます.

前十字靭帯再建術(ACLR)に使用される代表的な再建グラフトは,ハムストリングス腱(Semitendinosus:ST)や骨付き膝蓋腱(bone patellar tendon bone:BTB)が主に使用されています.

 

再建グラフトの治癒プロセスは,炎症反応,グラフト壊死,血行再建,細胞再増殖,骨統合,コラーゲンリモデリング,靭帯化など,いくつかの生物学的事象の組み合わせであると定義されています1)

 

Yao S, et al. は,生物学的事象は『初期治癒期』,『増殖期』,『成熟期』の3つの治癒期に分類できるとされ2),成熟過程を分かりやすく図を用いて説明してくれています(図1).

1. 再建グラフトの成熟過程(Yao S, et al. より引用改変)

 

次章からは,『初期治癒期』,『増殖期』,『成熟期』3つの特徴について詳しくみていきましょう.

 

初期治癒期(Early healing phase)

再建グラフトを外科的に移植した後の細胞反応には,炎症性細胞の集積が含まれます.

同時に再建グラフトは,主にその中央部で血管壊死を起こすと言われています.

  

増殖期(Proliferation phase)

この時期は,再建グラフト内に血管新生(血行再建)が起こり,血液供給が始まります.また,同時に細胞の増殖が起こる時期でもあります.

  

成熟期(Maturation phase)

再建グラフトが成熟しつつ,トンネルの閉鎖が起こる時期でもあります.

再建グラフトは正常前十字靭帯に組織学的に近づいていくと言われています.

 

 

再建グラフトの靭帯化 “Ligamentization

次に再建グラフトの成熟時期について説明していきます.

Claes S, et al. は,systematic reviewにてACLR後の「靭帯化(Ligamentization)」のプロセスについて報告しています3)

 

この内容は,生検にて血管の形成,細胞の性質,細胞外マトリックスの性質に関して調査している内容です.

 

再建グラフトの強化のプロセスは必ずしも統一されたものではなく,まだ明確なものとは言えませんが,これらの段階は時系列的に「初期」,「リモデリング」,「成熟」と分かれています(図2)

2. ヒトの再建グラフトの靭帯形成の時間枠の違いについて(Claes S, et al. より引用改変)

Early: 早期 Remodeling: リモデリング Maturation: 成熟 Quiescent: 静止期

 

ここで注視したい箇所は,成熟の時期です.成熟時期は術後早くても9ヵ月以降であると示されています.

 

また,Yao S, et al. は,Magnetic Resonance Imaging(MRI)で調査しているヒトの再建グラフトにおける治癒時間枠を図3のように示しています2)

3. MRIで示されたヒトのグラフトにおける治癒時間枠(Yao S, et al. より引用)

Early: 早期 Proliferation: 増殖期 Maturation: 成熟

 

MRIでの調査によると,増殖期がACLR3ヵ月から開始し12ヵ月まで生じると示されており,再建グラフトの成熟は12ヵ月以降であったと報告されています.

 

MRIでの報告は参考までに挙げましたが,生検での再建グラフトの成熟時期で報告が最も早いのはAbe S, et al. の術後9ヵ月であります.

 

スポーツ復帰の基準として,再建グラフトが成熟してからの方が安全・安心してスポーツ復帰が可能と思われます.

スポーツ復帰を許可する時期を術後9ヵ月〜12ヵ月に設定している施設が多いのもこれらの要因もあるかと思われます.

 

 

まとめ

今回は,前十字靭帯再建術の再建グラフトの靭帯化 “Ligamentization” について解説してきました.

成熟過程には,大きく分けて初期治癒期,増殖期,成熟期と3期に分かれます.

 

成熟時期は,先行研究によるとACLR後,最低でも9ヵ月以降になることが明らかにされており,スポーツ復帰の時期をこの時期に目標設定している施設が多いのも納得がいくかと思います.

 

今回の内容が少しでも,患者さんやクライアントに説明する上で一助となれば幸いです.

 

 

【参考文献】

1) Menetrey J, Duthon V B, Laumonier T, et al. "“Biological failure” of the anterior cruciate ligament graft." Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy 16.3: 224-231, 2008.
2) Yao S, Bruma S-C Fu, Patrick S-H. "Graft healing after anterior cruciate ligament reconstruction (ACLR)." Asia-Pacific journal of sports medicine, arthroscopy, rehabilitation and technology 25: 8-15, 2021.
3) Claes S, Verdonk P, Forsyth R, et al. "The “ligamentization” process in anterior cruciate ligament reconstruction: what happens to the human graft? A systematic review of the literature." The American journal of sports medicine 39.11: 2476-2483, 2011.
4) Rougraff B, Shelbourne K D, Gerth P K, et al. "Arthroscopic and histologic analysis of human patellar tendon autografts used for anterior cruciate ligament reconstruction." The American journal of sports medicine 21.2: 277-284, 1993.
5) Abe S, Kurosaka M, Iguchi T, et al. "Light and electron microscopic study of remodeling and maturation process in autogenous graft for anterior cruciate ligament reconstruction." Arthroscopy: The Journal of Arthroscopic & Related Surgery 9.4: 394-405, 1993.
6) Falconiero R P, DiStefano V J, Cook T M. "Revascularization and ligamentization of autogenous anterior cruciate ligament grafts in humans." Arthroscopy: The Journal of Arthroscopic & Related Surgery 14.2: 197-205, 1998.
7) Sánchez M, Anitua E, Azofra J, et al. "Ligamentization of tendon grafts treated with an endogenous preparation rich in growth factors: gross morphology and histology." Arthroscopy: The Journal of Arthroscopic & Related Surgery 26.4: 470-480, 2010.
8) Howell S M, Clark J A, Blasier R D. "Serial magnetic resonance imaging of hamstring anterior cruciate ligament autografts during the first year of implantation: a preliminary study." The American journal of sports medicine 19.1: 42-47, 1991.
9) Li H, Chen S, Tao H, et al. "Correlation analysis of potential factors influencing graft maturity after anterior cruciate ligament reconstruction." Orthopaedic journal of sports medicine 2.10: 2325967114553552, 2014.
10)Chu C R, Ashley A W. "Quantitative MRI UTE-T2* and T2* show progressive and continued graft maturation over 2 years in human patients after anterior cruciate ligament reconstruction." Orthopaedic journal of sports medicine7.8: 2325967119863056, 2019.

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