ボバースコンセプトの歴史と痙縮に対する良好なエビデンス

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竹林崇 大阪府立大学 教授

脳卒中のリハビリテーションが日々更新されていく中で、2000年以降はConstraint-induced movement therapy(C I療法)や促通反復療法などの治療が開発された。
その中でエビデンス構築の為に様々な研究がされているが、その比較対象になるのが神経筋促通術である。神経筋促通術はボバースコンセプトやproprioceptive Neuromuscular Facilitation(PNF)といった手法が対象となる。
今回はボバースコンセプトについて、誕生になった経緯とこれまでの歴史、また昨今物議を醸しているエビデンスについて記述する。
※本コラムではボバースコンセプトで用語を統一する。

歴史

歴史

1940年代、当時の英国王室の画家が脳卒中後遺症で右片麻痺となり、右上肢は痙縮によって絵を描くことが出来なかった。

そこで理学療法士のベルタ・ボバースは温熱療法や寒冷療法、振動刺激を試みたが良い結果を齎すことができなかった。

   

徒手的な介入を行なっている中でゆっくり、他動的・自動的に動かすことで痙縮の減弱を図れた。

またこの練習が上手く達成できるように体幹の姿勢に注意を払った。

   

その結果、痙縮は減弱し、右上肢の随意運動が成功した。結果的に右上肢で絵を描くことはできなかったが、左上肢で絵を描くことに取り組むことが始まり、画家への復帰に至った。

またその絵は以前の作品よりも評判が良くなったとされている。

   

この経験をベルタ・ボバースは「中枢神経系患者の表面を覆っている過緊張や痙直を、姿勢変換する操作で軽減または除去すれば、患者自身には莫大な自発運動能力が潜んでいる」と仮説立て、その臨床報告を論文化した。1234

   

この報告を紐解いてみると、ボバースコンセプトの治療のもとは痙縮であったということである。

姿勢変換による痙縮の減弱を図ることで随意運動を引き出すことが出来たという文脈が重要であると考えられる。

   

その為、ボバースコンセプトについては、痙縮がキーワードになる可能性がある。

  

   

痙縮に対するエビデンス

痙縮に対するエビデンス

痙縮の治療におけるボバースコンセプトのエビデンスは2007年にAnsari5が報告している。

1990年のベルタ・ボバース著書を参考に背臥位、側臥位、座位、立位での治療を週3日間、隔日、11時間の治療を10セッション、10人(男性5名、女性5名、右麻痺8人、左麻痺2人)の慢性期の片麻痺患者に対して行った。

   

その結果、足関節背屈のmodified Ashworth scaleMAS)、Active range of motionpassive range of motionH/M波ともにそれぞれ統計学的に有意な改善を認めたと報告している。

   

また2008年のAmir6の報告では、9分間の神経筋電気刺激と15分間のボバースコンセプトによる治療を行なった併用群17名と15分間のボバースコンセプトによる治療のみを行なった単独群18名に分け、20日間の治療を行なった。

   

アウトカムはMAS、足関節背屈の関節可動域検査、徒手筋力テスト、ヒラメ筋のH反射振幅を用いた。

その結果、全てのアウトカムで,併用群の方が有意な改善を認めたと報告している。

   

さらに2012年にMikołajewska7の報告では、片麻痺患者60名(右麻痺30名、左麻痺30名)を対象に国際的なボバースコンセプトのコースを修了したセラピストによって2週間で10セッション(1セッション30分)治療を行なった。

   

アウトカムは、肘関節屈曲もしくは伸展におけるMASを用いた。

評価時にMASがグレード0であったものが35人いた為、25人の対象者が対象となった。結果は、16人が改善、1人が悪化、8人が不変で、統計学的に有意な改善を認め、痙縮を軽減させる効果を示唆した。

   

今回紹介した痙縮の評価スケールであるMASH/M波は、理学療法ガイドラインでも推奨グレードBで明記されている。

またMASは痙縮の評価で信頼性と妥当性が高いことが示されている89

   

また、H波、F波は脊髄前角細胞の興奮性を表す指標であり、脳卒中患者においてH波振幅,F波振幅の増大は痙縮の程度を意味するといわれている。

  

以上より、個々の研究を鑑みると、ボバースコンセプトによる介入は、痙縮の治療に対して良好な結果が示されていた。

しかしながら、良好なデザインの試験が少なすぎることもあり、現状では、未だ議論できる状況にない。

   

  

【共著】

森屋 崇史(医療法人社団六心会 恒生病院 リハビリテーション課)

  

  

【引用文献】

1)梶浦一郎他:脳卒中の治療・実践神経リハビリテーション、市村出版、pp7-202010.
2)(著)Bente E、(監)新保松雄:近代ボバース概念理論と実践成人中枢神経疾患に対する治療GAIA BOOKSpp1-32011.
3)(著)Bettina Paeth Rohlfs、(監)新保松雄、大橋和行:ボバースコンセプト実践編基礎、治療、症例GAIA BOOKSppⅩⅡⅩⅥ2013.
4)鈴木恒彦他:脳卒中の臨床神経リハビリテーション理論と実践、市村出版、pp37-532016.
5AnsariNN,NaghdiS:The effect of Bobath approach on the excitability of the spinal alpha motor neurones in stroke patients with muscle spasticity. Electromyogr Clin Neurophysiol 47: 29-36, 2007.
6AmirHB,Elham F:Does electrical stimulation reduce spasticity after stroke? A randomized controlled study. Clinical Rehabilitation 2008; 22: 418–425
7Mikołajewska E. NDT-Bobath method in normalization of muscle tone in post-stroke patients. Adv Clin Exp Med. 2012;21(4):513-517.
8Blackburn M, van Vliet P, Mockett SP. Reliability of measurements obtained with the modified Ashworth scale in the lower extremities of people with stroke. Phys Ther. 2002 Jan;82(1):25-34. 
9) Mehrholz J, Wagner K, Meissner D, Grundmann K, Zange C, Koch R, Pohl M. Reliability of the Modified Tardieu Scale and the Modified Ashworth Scale in adult patients with severe brain injury: a comparison study. Clin Rehabil. 2005 Oct;19(7):751-9. 

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