脳卒中後の上肢に関わるアウトカムに対する振動刺激に関する知見
Caliandro1)らは慢性期脳卒中の上肢麻痺を呈した対象者に対してプラセボ群と比較し,痙縮筋に対して振動刺激を用いた介入が上肢の運動機能に与える影響をパイロットランダム化比較試験にて報告している.
介入群は100Hzの振動刺激を小胸筋,上腕三頭筋に実施し,同じ日の別時間に尺骨手根屈筋に対して10分間の3セッション(1分間間隔を空けている)を3日連続で実施.対照群は実際には行わずバイブレーターの音のみのプラセボ群で介入群同様に3日間実施.
メインアウトカムとしてはWolf Motor Function Test (以下,WMFT)を用いており,Modified Ashworth Scale(以下,MAS)も合わせて評価している.
結果,MASは両群の有意差は認めなかったが,介入群の方がWMFTのminimal detectable change(MDC)を超えた割合が1週間後,1ヶ月後で多かったことを報告しており,運動機能の向上を認めている.
また,Mortazaら2)は亜急性期および慢性期(本論文では発症から3ヶ月以上と定義)に対して上肢の筋および腱に対する振動刺激(80-120Hz)が安静,偽振動,従来の理学療法と比較して上肢の運動能力を効果的に改善するかどうかシステマティックレビューにて報告している.
なお,二次的なアウトカムとして運動到達時間や上肢の痙縮に関する指標が含まれている.
8件のランダム化比較試験が抽出され,アウトカムとしては上肢機能を測定するWMFT,Box and Block Test等が用いられている.
また痙縮の程度を測定するMASを肩,肘,手関節を対象に使用している.
フォレストプロットでは上肢機能に関して6件中1件は統計学的に有意な結果が得られたが,各々の論文の統合結果において95%信頼区間が0をまたいでいることから,全体として統計的に有意な結果は得られていない.
MAS(肩,肘,手関節)も同様の結果で95%信頼区間が0をまたいでおり,運動機能および痙縮への影響に関して今後多くのデータから検討する必要性を報告している.
脳卒中後の下肢に関わるアウトカムに対する振動刺激の知見
Schröderら3)は脳卒中に対する末梢体性感覚刺激に関するシステマティックレビューを報告している.
その中で脳卒中後の下肢に対して振動刺激を用いた報告4)ではアキレス腱に対する振動刺激が偽振動と比較して10m歩行や静的安定性の指標として用いられている足底圧中心center of pressure(以下,COP)の開眼および閉眼時の揺れの変位および揺れの速さが改善したことを報告している.
次に全身振動刺激が下肢に関わるアウトカムにどのような影響を与えているのか記載していく.
Liaoら5)は脳卒中に対する全身振動刺激におけるシステマティックレビューを報告している.
全身振動刺激による介入の有無およびその他の介入と比較されており,なおかつアウトカムとして国際生活機能分類として用いられている身体機能(MASや筋力等),活動(10m歩行,6分間歩行等),参加(Stroke Impact Scale)に関与した指標を用いたランダム化比較試験を対象としている.
その中でTimed Up and Go test(以下,TUG)や等尺性膝伸展トルクの改善がいくつかの研究で報告されている.
しかし,研究全体から結果をふまえると各々での全身振動刺激のプロトコルで大きな違い(周波数,振幅,振動時間)が認められており,また結果においても全体として有益な結果を得ることができていないとの見解を示している.
Luら6)は慢性期脳卒中に対してYangら7)は亜急性および慢性期脳卒中に対するトレーニングに全身振動刺激の追加の有無の影響または偽振動や音楽療法と比較したシステマティックレビューおよびメタアナリシスを報告している.
アウトカムとしてBorg Balance scale,歩行パフォーマンス(TUG,歩行速度),モビリティ(6分間歩行,10m歩行)を用いている.
一部TUGでの統計学的有意差を示しているものの,グループ間の統計学的不均一性の高さが指摘されている.
また,その他項目においても対照群と比較して統計学的に有意な結果を示すことができておらず,全身振動刺激の使用を支持するエビデンスが乏しいことを示唆している.
最後にHuangら8)は中枢神経系障害を有する対象者(3つが脳性麻痺,1つは多発性硬化症,1つは脊髄小脳失調症,4つが脳卒中を対象とした研究)に全身振動刺激を用いて痙縮に対する影響をシステマティックレビューで報告している.
脳性麻痺や脳卒中を有する対象者の下肢のMASの改善が示されているが,多発性硬化症や脊髄小脳失調症に対しては有意な結果は認められなかったと報告している.
まとめ
本稿では脳卒中後の上肢および下肢に関わるアウトカムに対して振動刺激がどのような影響を与えるのかをシステマティックレビューやメタアナリシスを交えて解説した.
一部有用性は示唆されてはいるものの,全体として局部への振動刺激および全身振動刺激ともに有意な結果は得られておらず,有用性に関しては疑義が残る.
しかし,各々の論文で共通してサンプル数の少なさや振動刺激のプロトコルの違いが指摘されており,これらが修正されることで新たな振動刺激に関する有用性が発見されるかもしれない.
【共著】
横山 広樹(関西医科大学くずは病院 リハビリテーション科 理学療法士)
【引用文献】
1) Caliandro P,Celletti C, Padua L,et al:Focal muscle vibration in the treatment of upper limb spasticity:a pilot randomized controlled trial in patients with chronic stroke. Arch Phys Med Rehabil .93(9):1656-61,2012.
2) Mortaza N,Abou-Setta AM,et al:Upper limb tendon/muscle vibration in persons with subacute and chronic stroke: a systematic review and meta-analysis.Eur J Phys Rehabil Med. 55(5):558-569,2019.
3) Schröder J,Truijen S,et al:Peripheral somatosensory stimulation and postural recovery after stroke ― a systematic review.Top Stroke Rehabil.25(4):312―320,2018
4) Lee SW,Cho KH,et al: Effect of a local vibration stimulus training programme on postural sway and gait in chronic stroke patients:a randomized controlled trial. Clin Rehabil.27(10):921―31,2013.
5) Liao LR,Huang M,et al: Effects of whole―body vibration therapy on body functions and structures,activity, and participation poststroke:a systematic review.Phys Ther.94(9):1232―51,2014.
6) Lu J,Xu G,et al: Effects of whole body vibration training on people with chronic stroke: a systematic review and meta―analysis.Top Stroke Rehabil.22(3):161―8,2015.
7) Yang X,Wang P,et al:The effect of whole body vibration on balance,gait performance and mobility in people with stroke::a systematic review and meta―analysis.Clin Rehabil.29(7):627―38,2015.
8) Huang M,Liao LR,et al:Effects of whole body vibration on muscle spasticity for people with central nervous system disorders:a systematic review.Clin Rehabil.31(1):23-33,2017.
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