神経筋促通術とボバースコンセプトの位置づけ
ボバースコンセプトの始まりは、ベルタ・ボバースが行ったリハビリテーションである。
1958年から国際的に研修会が開催され、学術誌論文や刊行本によって、ボバースコンセプトが世界中に認知されていき、1966年に米国でNorthwestern University Special Therapeutic Exercise Projectによって、神経生理学的アプローチやファシリテーションテクニックの1つに列挙され、理学療法士や作業療法士の教育カリキュラムに盛り込むよう推奨された。
このように脳卒中に対するリハビリテーションの基盤となった神経筋促通術として広まった背景が読み取れる。
そんな中、これまでの反省と修正批判を加えながら日進月歩に進化するロンドンボバースセンター実践モデルと言われるボバースコンセプトと1950年代~60年代に伝承されたままのボバースコンセプト(ボバース体操やNDTと呼称されている場合あり)という2つのスタイルが存在していると言われている。1)2)3)
また2009年にKollenら4)の報告したsystematic reviewで、レビュー検索を読み解くと、「ボバース」だけでなく、「NDT」や「ボバース概念に基づいた従来法」などのワードが含まれている。
Kollenらの考察4)では「レビューされた研究の多くは方法論的な欠点がある。今後、治療内容を分析し、達成されたアウトカムに関連して介入の強度を検討する必要である。ボバースコンセプトを評価するための研究には、訓練を受けたボバースセラピストを用いた最新のボバース理論と実践を取り入れるように注意する必要がある。」と明記されている。
このようにボバースという名前が独り歩きしてしまい、理論や方法論には様々なバリエーションが潜んでいる可能性が考えられる。
したがって、理論や方法論に関する背景からもエビデンスが構築できないていない現状も考えられる。
これはベルタ・ボバースをはじめとしたボバースに携わるリハビリテーション従事者の本位ではないかもしれないが、現代ではエビデンスを構築させ、evidence-based medicine(EBM)実践がベーシックになっており、研究が進められていく中で新たなエビデンスが構築していく必要があるかもしれない。
さて,前述した研究の多くは方法論的な欠点がある中で,前述したMikołajewskaら5)の研究では、International Bobath Instructor Training AssociationやEuropean Bobath Tutors Association が認めたセラピストによる介入で差異(バイアス)を排除するよう設定されている。
また、論文内ではNeuro Developmental Treatment(NDT)という言葉が並列で記載されている。
NDTについては、「米国で呼称されているボバースコンセプトがNDTであり、ヨーロッパではボバースコンセプトとして知られている」と論文内で違いについて明記されている。
この報告であるように名称や介入者の統制が図れ、Kollenら4)が指摘した問題点を少なからず改善しており、ボバースコンセプトのエビデンスが構築され、有効な選択肢の一つになり得ると考えられる。
また痙縮だけではない。
もとの画家の歴史へ戻ると、結果的に麻痺手で絵を描くまでの機能改善には至らなかったと考えられるが、非麻痺手による代償を獲得する事が出来、この行動変容が患者のQOLに繋がったと見てとれる。
ここで考えられる要素として、体幹の姿勢に注意を払った点である。約80年が経過した現行のボバースコンセプトでも体幹へのアプローチが基本1)2)3)となっている。
ボバースコンセプトによる体幹機能のエビデンス
2016年にKılınçら6)が報告している。ボバースコンセプトの治療12名と個別トレーニングプログラム(筋力トレーニング、ストレッチ、関節可動域練習、マット運動)10名が12週間、週3日、1時間の理学療法プログラムが行われた。
アウトカムはTrunk Impairment Scale(TIS)、Stroke Rehabilitation Assessment of Movement、berg balance scale、functional reach test、Time Up Go test、10m歩行テストが選択された。
結果、体幹機能評価であるTISを始め、両群ともに優位な介入前後の変化を認めたものの、群間比較で有意差は認めなかった。
したがって,この論文の結果からは,ボバースコンセプトによる体幹機能への影響は,他療法と大きな差がないという結論とされている。
TISは信頼性や妥当性が担保されているアウトカムであり、体幹の協調性評価だけでなく、静的座位と動的座位の評価対象とされている7)。
今後もこの評価を用いた研究により、ボバースコンセプトが体幹機能と座位機能に与える影響を,調べることができるかもしれない。
最後に
以上、ボバースコンセプトのエビデンスを一部紹介した。
次回は、最新のsystematic reviewを紐解き、これまでに紹介した痙縮や体幹機能以外のアウトカムについて記載していく。
【共著】
森屋 崇史(医療法人社団六心会 恒生病院 リハビリテーション課)
【文献】
1) 梶浦一郎他:脳卒中の治療・実践神経リハビリテーション、市村出版、pp7-20、2010.
2)(著)Bente E、(監)新保松雄:近代ボバース概念理論と実践―成人中枢神経疾患に対する治療―、GAIA BOOKS、pp1-3、2011.
3)(著)Bettina Paeth Rohlfs、(監)新保松雄、大橋和行:ボバースコンセプト実践編―基礎、治療、症例―、GAIA BOOKS、ppⅩⅡ-ⅩⅥ、2013.
4) Kollen BJ, Lennon S, Lyons B, et al. The effectiveness of the Bobath concept in stroke rehabilitation:what is the evidence?. Stroke. 2009;40(4):e89-e97.
5) Mikołajewska E. NDT-Bobath method in normalization of muscle tone in post-stroke patients. Adv Clin Exp Med. 2012;21(4):513-517.
6) Kılınç M, Avcu F, Onursal O, Ayvat E, Savcun Demirci C, Aksu Yildirim S. The effects of Bobath-based trunk exercises on trunk control, functional capacity, balance, and gait: a pilot randomized controlled trial. Top Stroke Rehabil. 2016;23(1):50-58.
7) Verheyden G, Nieuwboer A, Mertin J, Preger R, Kiekens C, De Weerdt W. The Trunk Impairment Scale: a new tool to measure motor impairment of the trunk after stroke. Clin Rehabil. 2004 May;18(3):326-34.
企業への質問
この機能を利用するには、ログインが必要です。未登録の方は会員登録の上、ログインしてご利用ください。