【第8報】身体障害領域での認知症~運動器疾患~

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竹林崇 大阪府立大学 教授

高齢者は転倒骨折などの運動器疾患を受傷することが多いが,認知症を既往に持つ場合は受傷リスクが高いことなどが知られている.
そこで本コラムでは、大腿骨近位部骨折を受傷した認知症者に関する有病率や予後に関しての解説を行う.

大腿骨頸部骨折者の認知症有病率について

大腿骨頸部骨折者の認知症有病率について

大腿骨近位部骨折は骨粗鬆症に伴う骨折であり,大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドラインによると,年間約15万人が受傷していると推定されている()

 

特に,認知症はリスク要因とされ,術後せん妄や行動・心理症状(Behavioral and psychological symptoms of dementiaBPSD)の出現により,栄養状態の悪化や,機能・活動(Activities of Daily LivingADL)の予後が不良であるとされている(2)

 

受傷原因である転倒の危険因子として認知症の有無が挙げられている(3)

65歳以上の高齢者179人中,高齢者群39人,認知症群140人{アルツハイマー型認知症(Alzheimer-type dementia)38人,脳血管性認知症(Vascular Dementia:VD)32人,レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodiesDLB30人,認知症を伴うパーキンソン病(Parkinsonʼs disease with dementiaPDD40人}の転倒に関する調査では,認知症群は65.7%が少なくとも1回の転倒歴があったのに対し,対照群の転倒歴は35.9%であった.

 

認知症の中でもDLBおよびPDDの患者が最もリスクが高く,DLBは対照群の6PDD20倍の転倒数であった.

 

股関節骨折後の認知症(認知機能障害を含む)の有病率に関する前向きコホート研究では,65歳以上の股関節骨折患者674名に対し,受傷前のMini-Mental State Examination(MMSE),入院時・術後のMMSE,せん妄の有無を調査した(4)

 

結果,28%が骨折前に認知症の既往があり、8%が入院時に,14%が術後に認知機能障害を認めた.

入院後に認知機能障害が明らかとなった高齢者の追跡調査では,40%以上が2ヵ月後および12ヵ月後も認知機能障害が持続していた.

 

Seitz(5)が調査した股関節骨折患者の認知症有病率においても,受傷前に認知症の診断を受けていた高齢者は19%で,その他に42%が何らかの認知機能が低下している状態であったと報告している.

 

 

認知症を有する大腿骨近位部骨折者の予後について

認知症を有する大腿骨近位部骨折者の予後について

大腿骨近位部骨折者の予後に関する報告は,認知症の有無により予後が異なるとされている.

大腿骨転子部骨折術後2週時点で,車椅子移乗の自立度を調査した報告では,大腿骨転子部骨折患者60例中,正常群13例,認知症群47例を比較した結果,認知症群は介助量が多く,認知症の有無により自立度に有意差が見られていた(6)

また,大腿骨頸部骨折者224例(219例は外科的治療を実施)に対し,退院時の歩行状況を調査した報告では,認知症を有していた割合(6)69例(30.8%)で,機能予後である歩行再獲得率は,認知症群で35.6%,非認知症群では71%であった.認知症群の歩行獲得率は有意に低下していた(7)

 

さらに,急性期病院で外科的治療を実施し,高齢者施設に退院した大腿骨近位部骨折患者の術後 3ヶ月の生命予後,および歩行能力の予後を調査した報告では,認知症の重症度により機能予後が異なっていた(8)

 

術前に歩行自立であった大腿骨近位部骨折患者59例の内,認知症者は53例で,改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)10点以下の重度者は40例であった.

認知症が重度になるほど歩行能力の予後が不良で,術後三か月に歩行能力が維持できた割合は15名(38%)であった.

 

したがって,重度認知症者は大腿骨近位部骨折術後の機能予後や歩行獲得率が低下することが示唆された.

 

しかし,認知症が重症であっても,高齢骨折患者の在宅復帰率は低下していないことが,単一病院の調査により明らかとなっている(9)

回復期リハビリテーション病棟にて高齢骨折患者の退院転帰と要因を調査した報告では,認知症の進行と共に ADL及び自宅退院率は低下したが,重度認知症では,ADL が低下しているにもかかわらず,自宅退院率は中等度認知症と比較して高値であった(図1)

 

加えて,重度認知症は,3人以上の家族構成が多く,介護保険の利用率が高かった.

これらの要因により自宅退院率が維持されていたと考えられた.

 

 

【共著】

宝田 光(医療法人 札幌麻生脳神経外科病院)

 

 

【文献】

(1)日本整形外科学会:大腿骨頚部/転子部骨折の疫学.大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2011
(2)田中智大,駒澤伸泰,山村典子,立石和也,斎藤みどり, 佐々木典子,藤本智美,南敏明:大腿骨頚部骨折患者における周術期譫妄および認知症周辺症状発生に対する栄養関連因子の後方視的検討.日本静脈経腸栄養学会雑誌 3(20):717-720,2015.
(3)Louise M. Allan,Clive G. Ballard,Elise N. Rowan,and Rose Anne Kenny:Incidence and Prediction of Falls in Dementia: A Prospective Study in Older People.PLoS One 4(5):e5521,2009.
(4) Ann L Gruber-Baldini,Sheryl Zimmerman, R Sean Morrison, Lynn M Grattan, J Richard Hebel, Melissa M Dolan, William Hawkes, Jay Magaziner:Cognitive impairment in hip fracture patients: timing of detection and longitudinal follow-up.J Am Geriatr Soc 51(9):1227-1236,2003.
(5)Seitz DP, Adunuri N, Gill SS, Rochon PA. Prevalence of dementia and cognitive impairment among older adults with hip fractures. Journal of the American Medical Directors Association 12(8):556‐64,2011.
(6)白野誠,佐久間杏子,渡邊牧人,二宮宗:重度認知症の大腿骨転子部骨折術後成績への影響.骨折 42(2) 564566,2020.
(7)藤井裕之,白倉祥晴,守屋淳詞:軽微な外力による大腿骨頸部骨折後の歩行能力:影響を与える因子と予防についての考察.中部日本整形外科災害外科学会雑誌 49(6)11371138,2006
(8)福田文雄,飯山俊成,原夏樹,林豪毅,江副賢生:急性期病院から老人施設に直接退院した大腿骨近位部骨折患者の予後.骨折 42(1),177-179,2020.
(9)西村博行,浦上泰成:回復期リハビリテーションを行った高齢骨折患者の退院転帰-家族構成および介護保険からの検討-.整形外科と災害外科 69:(2)303-310,2020.

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