肩腱板断裂における保存療法について−治療成績と有効な運動療法−

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隅田涼平 福岡整形外科病院 リハビリテーション科

肩腱板断裂(Rotator cuff tear:RCT)は,加齢に伴い有病率が増し,60歳以上では約25%,70歳以上では約50%に認める事が報告されています1).
実際に臨床でも多く遭遇する疾患の一つであり,その治療において第一にリハビリテーションが選択される事が多いですが,保存療法における治療成績はどのような報告があるのでしょうか.
今回は,RCTにおける保存療法について,また有効とされる運動療法について述べさせて頂きたいと思います.

肩腱板断裂に対する保存療法の成績

肩腱板断裂に対する保存療法の成績

腱板断裂に対する保存療法に関する報告は様々な報告が散見されますが,これまではっきりとした有効性は示されていませんでした.

 

しかし,M Jeanfavr, et alらの報告したsystematic reviewによると,腱板断裂に対する運動療法により,疼痛,ROM,筋力,機能全ての項目で78%85%の改善がみられると報告されています2)

 

また,M Karasuyama,et alは,肩腱板完全断裂に対する保存療法の効果が,介入開始後12ヶ月間は継続する事を報告しています3)

 

このように,近年では腱板断裂に対する治療の第一選択として運動療法が有効である可能性が報告されています4)

 

症候性RCTと無症候性RCTの違いは?

症候性RCTと無症候性RCTの違いは?

症候性RCTと無症候RCTの違いを知っておくことは重要です.

 

RCT患者の中には,断裂していても症状を呈さない無症候性RCTが存在しており,その数は,症候性RCTの約2倍程度存在すると推定されています.

 

症候性と無症候性の違いが,症候性RCT患者の症状を改善し,無症候性に移行させるための重要な要因になってくると考えられます.

 

これら2つの違いとして,肩動作時の肩甲骨運動,筋活動の違いについて,いくつかの報告が散見されます.

 

H Ishikawa,et alは,症候性RCT患者は、無症候性と比較し、肩甲骨面挙上90°において肩甲骨上方回旋が少なく、肩甲挙筋の活動が高い事を報告しています7)

 

また,N Shinozaki, et alは,症候性RCT患者において,肩甲骨面挙上0°-90°における三角筋の筋活動が低下していた事を報告しています8)

 

そして,T Kijima, et alは,症候性RCTは肩甲骨後傾、上腕骨外旋運動が無症候性RCTや健常肩と比較し少なく,また無症候性RCTと健常肩に差はない事を報告しています.

 

これらをまとめると,症候性RCT患者は,肩の動作時に肩甲骨上方回旋・後傾,上腕骨の外旋運動が減少し,かつ三角筋の筋活動減少,肩甲挙筋の筋活動増加が見られるという事であり,症候性から無症候性に移行するためには,これらの改善が重要である可能性が考えられます.

 

有効な運動療法とは?

有効な運動療法とは?

有効とされる運動療法について上述した肩関節機能と関連し,次のような報告があります.

 

BH Christensen, et alは,RCT症例に対して肩甲骨エクササイズに加え,さらに三角筋前部線維,小円筋の筋力強化に焦点を当てた運動療法を5ヶ月間行ったところ,運動療法を行わなかった群と比較し,疼痛,筋力,QOLが有意に改善したことを報告しています10)

 

これは,三角筋前部線維と小円筋により,腱板断裂により失われた骨頭の求心性を改善する事を目的として行われています.

(具体的な運動療法に関しては,図1を参照.)

図1.三角筋・小円筋の筋力訓練

  1. 左上:坑重力下での自動介助訓練
  2. 右上:坑重力下での自動運動訓練
  3. 左中:ギャッジアップを利用した自動運動訓練
  4. 右中:重力下での自動運動訓練
  5. 左下:側臥位での外旋運動
  6. 右下:チューブなどの外的負荷を用いた外旋運動
  7. ※三角筋はad,小円筋はefのように段階的に行っていく
  8. (BH Christensen, et al.2016より改変引用)

 

特に三角筋の強化はその他の報告でも有効性が示されており11)12),また,棘下筋にまで及ぶ広範囲な断裂において小円筋の代償性肥大が観察される事も分かっています13)

 

これらのことから,破綻した肩甲骨の運動パターンを改善し,三角筋や残存腱板である小円筋の筋機能の改善を図ることが,RCT患者の症状軽減に繋がると考えられます.

 

手術適応となる症例の特徴は?

手術適応となる症例の特徴は?

保存療法が有効である事は明らかになってきましたが,12割の症例は保存療法を行っても改善がみられず,外科的手術に移行することも分かっています.

 

保存療法を行っても臨床的に改善がみられず手術に至った症例にはどのような特徴があるのでしょうか.

 

M Tanaka, et alは,保存療法を行った後に手術に至った症例の初診時の特徴として,以下4つを報告しています5).

  1. (1)外旋可動域の低下
  2. (2)インピンジメント徴候陽性
  3. (3)棘上筋の筋萎縮
  4. (4)棘上筋の筋内腱の消失が多くみられた

 

また,関口らは,保存療法に対する治療の抵抗性が高い症例の特徴として,治療時または治療中における拘縮の合併,内旋制限であると報告しています6)

 

つまり,これらをまとめると,腱板断裂に伴いインピンジメント症状を呈している,下垂位での内外旋制限など拘縮を合併している,棘上筋の筋萎縮があり筋内腱が断裂している症例では,保存療法を行っても手術に至るケースが多いという事になります.

 

棘上筋の筋内腱に関しては,前回のコラム「棘上筋・棘下筋の解剖と機能」に記載していますのでそちらを参考にして頂けますと幸いです.

 

おわりに

おわりに

今回は,RCT患者に対する保存療法について,その治療成績と具体的な運動療法についてまとめました.

 

RCT症例における肩甲骨運動に関しては,適応として起きているのか問題となるものなのか,まだ明らかになっていない部分はありますが,肩運動時の肩甲挙筋による下方回旋を抑制し,残存機能の向上を図る事は保存治療において重要であると考えられます.

 

この内容が少しでも皆様の臨床における一助になれば幸いです.

 

【参考文献】

1) A Yamamoto, et al. Prevalence and risk factors of a rotator cuff tear in the general population. J Shoulder Elbow Surg. 19;116-120,2010.
2) M Jeanfavr, et al. EXERCISE THERAPY IN THE NON-OPERATIVE TREATMENT OF FULL-THICKNESS ROTATOR CUFF TEARS: A SYSTEMATIC REVIEW. The International Journal of Sports Physical Therapy. 13(3);335-378,2018
3) M Karasuyama, et al. Clinical results of conservative management in patients with full-thickness rotator cuff tear: a meta-analysis. Clin Shoulder Elbow. 23(2):86-93,2020. 
4) P Edwards, et al. EXERCISE REHABILITATION IN THE NON-OPERATIVE  MANAGEMENT OF ROTATOR CUFF TEARS: A REVIEW OF THE LITERATUREThe International Journal of Sports Physical Therapy. 11(2);279-301,2016
5) M Tanaka, et al. Factors related to successful outcome of conservative treatment for rotator cuff tears. Upsala Journal of Medical Sciences.115;193-200,2010.
6) 関口 拓矢ら.腱板断裂の様式・サイズ別の保存治療成績および治療前後の病態変化.肩関節.38(3):956-961,2014.
7) H Ishikawa, et al. Differences in scapular motion and parascapular muscle activities among patients with symptomatic and asymptomatic rotator cuff tears, and healthy individuals.JSES international 5;238-246,2021.
8) N Shinozaki, et al. Differences in muscle activities during shoulder elevation in patients with symptomatic and asymptomatic rotator cuff tears: analysis by positron emission tomography. J Shoulder Elbow Surg 23, e61-e67,2014. 
9) T Kijima, et al. In vivo 3-dimensional analysis of scapular and glenohumeral kinematics: comparison of symptomatic or asymptomatic shoulders with rotator cuff tears and healthy shoulders. J Shoulder Elbow Surg 24,1817-1826,2015. 
10) BH Christensen, et al. Enhanced function and quality of life following 5 months of exercise therapy for patients with irreparable rotator cuff tears–an intervention study. BMC Musculoskeletal Disorders 17:252,2016.
11) R Ainsworth, et al. A prospective randomized placebo controlled clinical trial of a rehabilitation programme for patients with a diagnosis of massive rotator cuff tears of the shoulder. Shoulder & Elbow.1:55-60,2009.
12) O Levy, et al. The role of anterior deltoid reeducation in patients with massive irreparable degenerative rotator cuff tears.JSES 17(6);863-870,2008.
13) K Kikukawa, et al. Hypertrophic changes of the teres minor muscle in rotator cuff tears: quantitative evaluation by magnetic resonance imaging.JSES 23;1800-1805,2014.

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