家族参加型
Morrisら5)は,家族や介助者など療法士以外の練習への参画において,Transfer Package(以下TP)のなかに介助者との契約(caregiver contract;以下CC)の概念を提唱している.
CCは,以下2つを目的に,療法士と介入する介助者間で交わされる正式な契約である.
a)治療プログラムに対する介助者の理解力を向上させること
b)介助者の適切かつ安全な介助方法を指導すること
次章から家族参加型の症例を3つ紹介する。
家族参加型の症例1
Barzelら6)は,発症後6ヶ月以上経過した慢性期の軽度から中等度の上肢麻痺を呈した患者の家族や友人に対して療法士がCI療法の指導を行い,自宅での練習において家族や友人が療法士的な立場を担うことで,生活での麻痺手の使用頻度と動作の質において臨床的に意味のある改善を認めたと報告している.
本邦で,原田ら7)は入院中の自主練習に,山本ら8)は自宅での練習において,それぞれ家族参加型の上肢集中練習により,上肢機能の改善および麻痺手の使用頻度の増加を報告している.
家族参加型の症例2
原田ら7)は,脳卒中後重度上肢麻痺を呈した患者に対し,Ⅰ期は療法士との上肢集中練習を実施,Ⅱ期からは療法士との練習に加えて,患者の妻にアプローチ内容を指導したうえで,妻が写真資料(図1A)をもとに課題を設定したり,患者の動作をモニタリングしたりなど,コーチとして自主練習を実施した.
妻の積極的・献身的な介入により,患者も意欲的に練習に取り組むことができ,実用的な使用に近しいまでの改善を示した(図1B).
また,介入終了後にも自主的に活動に挑戦する姿勢がみられた.
家族参加型の症例3
堀ら9)は,脳卒中後に前頭葉機能障害によるモニタリングの低下した患者に対し,療法士との上肢集中練習に加えて,家族参加型の自主練習およびTPを実施した.
家族による実生活での麻痺手使用状況のコーチングや,TPでの問題点抽出のモニタリング,自主練習のセッティングなどを導入し,療法士は患者および家族とディスカッションや自主練習における課題の難易度調整に努めた.
当初,麻痺手の使用状況を十分にモニタリングできず,TPが機能していなかった.
しかし,家族参加型で進めていくにつれ,Motor Activity LogのAmount of Use(以下AOU)の点数は一時的には下方修正されたが,「こんなに左手を使ってなかったね」と麻痺手の使用に関する認識がなされ,現実的な目標の再設定と積極的な麻痺手の使用が促された.
その結果,最終的にはAOUは臨床的に意味のある最小の変化値10)を超える変化を認めている.
病棟実施型
近年,療法士以外が介入する上肢集中練習として病棟実施型CI療法がいくつか報告されている11,12,13).
徳田ら12)は急性期病棟入院中の脳卒中後上肢麻痺患者に対し,看護師と協業し病棟でCI療法を実施したことで,上肢練習の時間を担保でき,介入前後にかけて上肢機能および麻痺手使用頻度が有意に改善したと報告した.
これは,急性期から阻害要因とならず効果があるとされる2時間の上肢集中練習4,13)のなかで,実生活に近い環境である病棟での練習をTPにつなげることで,生活における麻痺手の使用場面・使用方法の気づきにつながりやすいことが示唆される.
また看護師との協業において野口ら14)は,実際のTP場面をタブレット端末で動画撮影し,看護師が動画を見ながらTPを実施できるように工夫した(図2).
その結果,動画をもとにして看護師から与えられる情報が適切に症例に伝えられるとともに,「今までよりも麻痺手に対して興味を持ち,できることが増えていくことを患者と一緒に喜ぶことができるようになった」と看護師のポジティブな発言が聞かれるなど,積極的な参加につながったことを報告した.
Kellyら15)は,FMAなどの麻痺手の機能改善よりも,MALなどの麻痺手の使用に関する改善の方がQuality of lifeの改善に寄与するとしている.
山本ら13)の報告では,療法士との一対一の上肢集中練習のみの群と比較し,病棟実施型の練習を加えた群では,FMAの改善は同程度であったが,MALは優位な改善を認めた.
まとめ
家族実施型CI療法は,入院早期から,または自宅での練習に向けて、病棟実施型CI療法は入院早期から,それぞれ導入することは,より実生活に近い環境での練習,家族や看護師の積極的な介入による練習の動機づけ,など生活に即した介入として非常に重要であると思われる.
このような介入方法は特別な機器等を必要とせず,人的・環境的調整により実現可能であり,積極的に導入すべきと思われる.
【共著】
山本勝仁(北播磨総合医療センター リハビリテーション室)
【引用論文】
1) Wolf SL et al. Effect of constraint-induced movement therapy on upper extremity function 3 to 9 months after stroke: The EXCITE randomized clinical trial. JAMA. 2006;296:2095-2104
2) Takebayashi T et al. A one-year follow-up after modified constraint-induced movement therapy for chronic stroke patients with paretic arm. A prospective case series study. Top Stroke Rehabil. 2015;22:18-25
3) Page SJ et al. Stroke patients’ and the therapists’ opinions of constraint-induced movement therapy. Clin Rehabil. 2002;16:55-60
4) El-Helow MR, et al: Efficacy of modified constraint induced movement therapy in acute stroke. Eur J Phys Rehabil Med [Epub ahead of print], 2014
5) Morris DM et al. Constraint-induced movement therapy: Characterizing the intervention protocol. Eura Medicophys. 2006;42:257-268
6) Barzel A et al. Home-based constraint-induced movement therapy for patients with upper limb dysfunction after stroke (HOMECIMT): A cluster-randomised, controlled trial. Lancet Neurol. 2015;14:893-902
7) 原田 朋美 他,家族参加型の上肢集中練習により希望であった麻痺手での作業を達成できた一症例.作業療法.2017;36:437-443
8) 山本 勝仁 他,脳卒中亜急性期での家族仲介型CI療法によりADL・上肢機能に改善を認めた1例.2017;51:615-619
9) 堀 翔平 他,家族参加型の自主練習とTransfer Packageを実施し,麻痺手の使用行動に変化を認めた一例.2019;38:593-600
10) van der Lee JH et al. Forced use of the upper extremity in chronic stroke patients: Results from a single-blind randomized clinical trial. Stroke. 1999;30:2369-2375
11) 西村 翔太 他,回復期リハビリテーション病棟入院中の脳卒中患者に対する病棟実施型CI療法の試み-ケースシリーズスタディ-.作業療法.2018;37:96-103
12) 徳田 和宏 他,脳卒中急性期上肢麻痺に対する病棟実施型CI療法の試み.作業療法ジャーナル.2019;53:1009-1013
13) 山本 勝仁 他,脳卒中急性期上肢麻痺患者に対する病棟実施型CI療法の効果.作業療法.2020;39:478-485
14) 野口貴弘 他,病棟参加型Transfer packageによるCI療法が麻痺手の参加頻度へ及ぼす影響.作業療法.2021; 40: 114-119
15) Kelly KM et al. Improved quality of life following constraint-induced movement therapy is associated with gains in arm use, but not motor improvement. Top Stroke Rehabil. 2018;25:467-474
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