=表=
=図1=
ロボット療法
AHA/ASAでは,中等度~重度の上肢麻痺に対しては推奨グレードA,手指機能障害に対しては推奨グレードBが示されており,それぞれReoGo-J4)やHand of Hope5)を用いた介入において効果が報告されている.
本邦では,庵本ら6),松嶌ら7),埴岡ら8)が脳卒中後重度上肢麻痺患者に対し,ReoGo-J,HOHの段階的なロボット療法とTransfer Packageを含むCI療法との複合的な介入による効果を報告した.
詳細は,「CI療法とロボット療法」において触れている.
電気刺激療法
電気刺激療法は,脳卒中後の重度上肢麻痺患者に対するアプローチとして有用であるとされている.実際に使用する際は電気刺激療法単体でなく,CI療法やミラーセラピーなどガイドラインにおいてエビデンスが示されているものと併用することでの効果が示されている.
小渕ら9)は,急性期脳卒中の上肢麻痺患者に対し,Transfer packageを含むCI療法に電気刺激療法,装具,振動刺激などを併用したアプローチを実施した.その結果,介入前と比較し,介入後・1年後にかけてFMA,MALの有意な改善を認めたことを報告した.
Fujiwaraら10)は通常のリハビリテーションに加えて,随意運動介助型電気刺激(Integrated volitional control electrical stimulation; IVES)と上肢装具を使用し,課題指向型アプローチを実施し,麻痺手の機能改善および使用行動を効率的に促すことを目的としたHybrid Assistive Neuromuscular Dynamic Stimulation (HANDS)療法(図2)を提唱した.
HANDS療法では,IVESを用いることで手指伸展企図時に伸筋群から筋電の導出が可能であれば適応となるため,より重度な症例まで実施することが可能である.
HANDS療法を用いたpilot RCT11)では,上肢機能評価であるFMA,麻痺手参加の評価であるMALにおいて統計的に有意な改善を認めているものの,MALに関しては臨床上意味のある最小変化量(Minimal Clinically Important Difference; MCID)12)である0.5点を超えていない.
そこで,石垣ら13)はHANDS療法に加え,麻痺手の使用頻度を向上させることを目的に簡略化したTransfer Packageを追加して実施した.その結果,MALの変化量はMCIDを超え,麻痺手の使用行動を促進できる可能性を報告した.
ミラーセラピー/メンタルプラクティス
ミラーセラピー(メンタルプラクティス)は,単独でもある程度のエビデンスが確立されている1)が,CI療法など確固たるエビデンスの示されたアプローチと併用することで,より効率的な機能改善を得られるとされる.
麻痺側上肢へのアプローチの直後にメンタルプラクティスを実施することで,メンタルプラクティスを実施しなかった対照群と比較して上肢機能の効率的な改善に繋がるとされる14).
Aryaら15)は,麻痺側上肢の機能に合わせて実施課題の難易度を調整した,課題指向型ミラーセラピー(Task-Based Mirror Therapy; TBMT)のpilot RCTを実施した.標準的なリハビリテーションを受けた対照群と比較し,TBMT群ではFMAの有意な改善を報告し,ミラーセラピーを課題指向的に実施することは,脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチの補助的手段として有用であることを示唆した.
ミラーセラピーやメンタルプラクティスは,脳卒中後の運動機能の改善を示すが,感覚障害や半側空間無視の改善は限定的とされる.また,脳卒中後急性期,亜急性期,慢性期において効果的で実行可能なアプローチであるが,その長期的効果と日常生活動作への汎化については実証が不十分である16).
CI療法連携パス
上記のように,CI療法および併用療法により麻痺側上肢機能や使用行動など,エビデンスに沿った効果が報告されているが,長期的・継続的な改善,効果の持続のためには,急性期以降,生活期にかけてのシームレスなリハビリテーションの提供が重要である.
脳卒中のリハビリテーションを円滑に効率的にすすめるために,脳卒中地域連携パスが導入されている.しかし,急性期・回復期・生活期でそれぞれ異なるアプローチ方法が選択される可能性があり,獲得や達成が期待される機能や目標に向けての道のりは非効率的となることが示唆される.
そこで堀本ら17)は,急性期病院において実施したCI療法の詳細を,回復期病院に提供するCI療法連携表を作成し,脳卒中地域連携パスに付属する形で運用した.回復期退院時には,状態を記載して急性期病院へ戻してもらうように働きかけたことで,急性期からの予後予測を検証する上で極めて重要な情報となり,その精度を高めることができると示唆した.
CI療法は,脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチにおいて確固たるエビデンスが示されているが,その限定された適応を拡大および効率的な効果の獲得のために様々な併用療法が示されている.
各々のアプローチ方法の特徴を捉え,患者に合った方法を選択し,重度例でもより効率的な機能改善へ繋げていきたい.また,患者の設定した目標やリハビリテーションへの意欲を,急性期から回復期・生活期へと持続・増幅させ,獲得した機能を実生活へ汎化させるための連携表などの方略も,合わせて積極的に取り入れたいところである.
【共著】
山本 勝仁(北播磨総合医療センター リハビリテーション室)
【引用論文】
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- 松嶌 ありさ他.脳卒中後の重度上肢機能障害に対して手指および上肢のロボット療法を含む複合的な介入を実施した一例.作業療法.2019;38:78-86
- 埴岡 大輝他.脳卒中後の重度上肢機能障害に対してMirror Therapyを含む複合的な介入を実施した一症例.作業療法.2020;39:333-340
- 小渕 浩平他.急性期脳卒中後の上肢麻痺に対する複合的な上肢集中練習の長期経過-ケースシリーズ-.作業療法.2020; 39: 757-764
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