パーキンソン病とは
中脳にある黒質が変性することにより、ドーパミンが欠如し、大脳基底核による運動のアクセルとブレーキが円滑に切り替えられなくなった状態をさします(錐体外路症状)。
発症は40歳〜80歳前後で、特に50歳〜70歳代が好発しやすいと言われています。
厚生労働省の『平成17年患者調査の概況』によると、患者数は、人口10万人あたりに対して100〜150人と推定。パーキンソン病は、神経変性疾患の中では特に多い患者数です。
原因
パーキンソン病の発症原因は、前述したように中脳にある黒質の変性です。しかし、黒質が変性する具体的な原因は現在も不明であり、遺伝子異常や環境因子による仮説が唱えられています。
パーキンソン病の症状
パーキンソン病には、4大症状と言われる以下4つが代表的です。
- 1.安静時振戦
- 2.動作緩慢
- 3.姿勢反射障害
- 4.筋固縮
それぞれの症状について、詳しく見ていきましょう。
安静時振戦
振戦とは、筋肉の不随意かつリズム性のある震えをさします。そして、パーキンソン病の場合には、動作中よりも比較的安静時に振戦が強くなるという特徴があります。
日常生活の中で、テレビを見ていたり椅子に座って会話をしていたりする際に手が震えており、運動することにより消失する場合には、安静時振戦の可能性があります。
動作緩慢
パーキンソン病になると、運動を司る大脳基底核が障害されるため円滑な動作が難しくなります。そのため、全体的に動作がゆっくり(緩慢)となるのです。また、動作緩慢に伴って文字が徐々に小さくなる小字症も出現します。
姿勢反射障害
パーキンソン病でADLに大きな影響を及ぼす要因の一つが、姿勢反射障害です。姿勢反射とは、身体のバランスの崩れに対して倒れないように無意識に筋肉を収縮・弛緩させてバランスを保持する能力をさします。
パーキンソン病では、姿勢反射が障害されることにより、前傾姿勢が強くなったりすくみ足が著明になったりし、前方へと転倒することが多く見られます。
筋固縮
筋固縮は、筋肉の収縮と弛緩のバランスが崩れ、関節運動に対して抵抗するようになる症状です。特にパーキンソン病では、鉛管様固縮と呼ばれる症状が著名となり、鉛の棒を伸ばすようにジワジワとゆっくりとした抵抗が感じられます。
自律神経症状も著明となる
パーキンソン病では、これまでに紹介してきた錐体外路系の症状以外にも自律神経障害も著明となります。
自律神経障害では、以下の症状が見られる場合が多いです。
- 便秘
- 排尿障害
- 起立性低血圧
- 脂漏性皮膚
このほかにも、抑うつなどの精神症状を呈する場合もあるので、患者の言動や雰囲気にも十分に注意をはらう必要があります。
予後
パーキンソン病の予後には、個人差はありますが、決して良いものとは言えません。
発症初期では、一側の上下肢に振戦や筋固縮が出現し、数ヶ月後には両側へと症状が広がり、5年〜10年で姿勢反射障害やすくみ足、精神症状、自律神経症状が著明となっていきます。
そして、15年以上でADL能力は大きく低下し、寝たきりや全ての動作に介助を要する状態となります。
医学的治療
パーキンソン病の主な治療方法は、薬物療法と手術療法の2つがあります。
それぞれの治療方法について確認して行きましょう。
薬物療法では、主に以下のものがあります。
- L-dopa
- ドパミンアゴニスト
- 抗コリン薬
- アマンタジン
- MAO-B阻害薬
- COMT阻害薬
- ゾニサミド
手術療法には、脳深部刺激療法(DBS)がありますが、基本的には、薬物療法を用いてもあまり効果が得られない場合に行われます。
パーキンソン病によく用いられる3つの理学療法評価
ここまで、パーキンソン病の概要や医学的治療方法について解説してきました。ここからは、パーキンソン病に対する理学料法評価(検査・測定)について紹介して行きます。
今回紹介する理学料法評価は、あくまでも基礎となるものなので、患者のADLや症状、問題点をもとに最適な内容を選択するようにしてみてください。
よく用いられる理学療法評価は以下の3点です。
- Hoehn & Yahr(ホーンヤール)の重症度分類
- UPDRS
- 歩行評価
もちろん上記以外にも動作分析など数多くの検査・測定が必要になりますが、まずは今回紹介する3種類をきちんと覚えておきましょう!
Hoehn & Yahr(ホーンヤール)の重症度分類
パーキンソン病には、症状の進行度合いによって以下5つの重症度に分類されます。
臨床でよく用いられる重症度分類で、リハビリ内容を決定する際の指標にもなるので、ぜひ覚えておきましょう。
UPDRS
UPDRSは、「Unified Parkinson's Disease Rating Scale」の略称で、以下4つのパートの合計42評価項目によって構成されるパーキンソン病の評価スケールです。
エーザイの公式ホームページから評価用紙を確認できるので、ぜひ活用してみてください。
歩行評価
パーキンソン病では、錐体外路障害により歩行能力が著しく低下します。そこで、定期的に歩行状態を評価していく必要があります。
中でも、TUG(timed up&go test)は、パーキンソン病のすくみ足や動作緩慢などの、歩行スピード以外の質的な症状に関しても複合的に評価可能なため、測定しておくことをおすすめします。
また、5m歩行は簡便に測定可能であり、数値で経過を追えるため合わせて測定するようにしましょう。
パーキンソン病に対する理学療法(運動療法)
パーキンソン病に対する理学料法は、前述したHoehn & Yahr(ホーンヤール)の重症度分類など病期に応じて異なってきます。
ですが、基本的には以下の4種類を中心とした理学療法を実施することが多くなります。
- 1.関節可動域訓練
- 2.筋力トレーニング
- 3.バランス保持訓練
- 4.歩行訓練
それぞれの理学療法の目的と、ポイントについて確認して行きましょう。
関節可動域訓練
パーキンソンの場合は、症状の進行に伴い関節拘縮が出現します。そのため、関節の可動域を維持し衣服の着脱や食事動作といった日常動作を円滑に行う機能を維持することが必要となります。
また、脊柱の回旋可動域も低下しやすく、寝返り動作が丸太様になってしまったり、歩行効率の低下にともない転倒につながったりしやすくなります。
したがって、パーキンソン病に対する関節可動域訓練では、上下肢・体幹を含めた全身へとアプローチすることが重要となり、機能維持できるかがADLおよびQOLに直結してくると考えても良いでしょう。
筋力トレーニング
パーキンソン病の場合は、病期の進行に伴って活動量が低下し必然的に筋力が低下していきます。
可能なうちは平行棒内などでCKCの運動などを積極的に行い、立位が困難になってきた場合には、ベッド上での筋力強化運動に切り替えるなど、患者の状態に合わせて実施方法や負荷量を検討していくことが重要となります。
また、筋力強化運動もただ下肢の筋力を鍛えるなど抽象的に行うのではなく、「トイレでの更衣動作を安全に行えるために下肢筋力を鍛える」など、具体的な目的をもって行うことで、患者自身のモチベーションにもつながり、訓練の効果も高くなります。
バランス保持訓練
前述したHoehn & Yahr(ホーンヤール)の重症度分類では、Stage3に病期が進行すると姿勢反射障害が生じてきます。
そのため、パーキンソン病の診断がついた段階からバランス能力を維持する目的でプログラムを実施する必要があるのです。
初めは、立位など難易度の高いものから開始し、身体状態や病期にあわせて端座位や車椅子座位など難易度を調整していくようにしましょう。
歩行訓練
歩行能力は、患者のQOLやリハビリに対する意欲などのモチベーションにも直結してきます。初期の段階では、補助具を使用しなくても歩行可能ですが、徐々にバランス障害や動作の緩慢さが出現し、歩行器使用へと移行していきます。
パーキンソン病の歩行では、すくみ足が出現しますが、階段や床に目印がある場合には比較的スムーズに歩行ができる特徴があります。したがって、歩行練習の際には、ラダーを設置したりリズムをとってみたりといった工夫をしてみましょう。
まとめ
今回は、パーキンソン病の基礎情報から検査・測定内容、リハビリ内容について解説してきました。
パーキンソン病は、中脳にある黒質が変性することにより、ドーパミンが欠如し、運動が円滑に行えなくなる疾患です。
病期に応じて以下の4つの症状が強く出現します。
- 1.安静時振戦
- 2.動作緩慢
- 3.姿勢反射障害
- 4.筋固縮
主な治療法には薬物療法と手術療法があり、上記の症状を含めたさまざまな機能障害に対したリハビリテーションが必須となってきます。
パーキンソン病は、難病にも指定される疾患で、罹患した患者の精神面へのアプローチも重要となります。「患者を見ずに病気を見る」と、ならないようにこの記事を参考にリハビリを行っていただければ幸いです。
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