脳卒中を呈した患者のADLと麻痺手の関係
脳卒中では高頻度に上肢機能障害を呈し1)、それにより脳卒中患者のQuality of life(以下:QOL)は大きく低下する2)。QOLに影響を与えるのは、麻痺手の機能改善ではなく、麻痺手の使用頻度の改善であるとされる3)。
また、Rudigerら4)は、脳卒中発症後に麻痺手の活動量が増加しなかった患者は、増加した患者と比較し3カ月後のADLの回復が乏しかったと報告した。これらのことから、麻痺手の機能改善と並行して使用頻度の改善が重要である。
麻痺手の評価尺度Motor Activity Log
現在、脳卒中患者の麻痺手の使用頻度を評価する尺度として、Motor Activity Log(以下:MAL)が汎用されている5,6)。
しかし、MALは、対象者の主観に頼る評価であり、言語機能や記憶機能など認知機能に障害を有する患者の場合は用いにくいとされる7)。
また、主観的評価は、望ましい行動や良い結果を過剰に報告するなどの「社会的望ましさ」や、肯定的な反応を得ようとする「社会的承認」により、結果に偏りが生じやすいとされる8,9)。
これらの問題を解決する方法として、近年リストバンド型の加速度計を用いた上肢活動量測定による客観的評価がいくつか報告されている10,11)。本稿では、脳卒中上肢麻痺患者に対する、活動量計を用いた上肢活動量の客観的評価とCI療法の関連について述べる。
活動量計を用いた上肢活動量の客観的評価とCI療法の関連
Heldら12)は、脳卒中後に上肢麻痺を呈した患者に対し、麻痺手に腕時計型感覚刺激デバイスを、非麻痺手に感覚刺激フィードバックのない同デバイスを装着し、上肢機能、麻痺手の使用頻度、QOLを評価する無作為化比較試験のプロトコル論文を報告した。
このデバイスは、3軸加速度計により上肢の活動量を監視し、30分の活動停止により振動刺激とLED点灯の視覚刺激のフィードバックにより、上肢の使用を促す。
また、あらかじめ設定した目標の活動量を下回った場合も、振動刺激と視覚刺激によりフィードバックが与えられる(図1)。
被検者はスマートフォンなどにダウンロードされたアプリから、上肢の活動量や目標の進展、過去の履歴などをチェックすることができる。
このプロトコルにおける活動数の目標は、前日の活動数から3%増加させるよう設定しており、被検者にADLでの麻痺手の活動を増やすように挑戦を求めた。Popvicら13)は、活動と同期したフィードバックや結果の知識、明示的なフィードバックは、脳卒中患者のリハビリテーションの動機づけとして有効であり、患者の転帰にプラスの影響を与えると報告した。
これらのことから、振動刺激やLEDによる視覚刺激、アプリによる結果の知識など、多様な形式のフィードバックを組み合わせることにより、ADLにおける麻痺手の活動量の増加に寄与することが予測される。
本邦における活動量計を用いた上肢使用頻度の症例報告
本邦においても、脳卒中片麻痺患者を対象に、活動量計を用いて上肢の使用頻度を測定した横断研究および症例報告がなされている14,15,16)。竹林ら14)は、株式会社日立システムズ製のライフ顕微鏡を(図2)、花田ら15)、勝山ら16)は、ActiGraph社製のActiGraph Link gt9Xを(図3)用いて実施した。
彼らはいずれも、非麻痺手・麻痺手の活動量を計測するために、活動量計を手首に装着した。さらに、先行研究17,18)の方法に従い、同じ活動量計を前胸部に装着し、各々の手から測定した値を前胸部で測定した値を減じる3点計測法を用いた。
結果①
竹林ら14)、勝山ら16)は、Transfer Packageを含むCI療法を実施し、介入前後の上肢活動量を計測した。その結果、上肢機能および麻痺手の使用頻度や主観的な使用感に十分な改善を認めた。
また、左右手の活動量を1分あたりの平均値で示したActivity count(図4上)では、介入前後で非麻痺手は大きな変化はなかった。一方で麻痺手のActivity countは向上しており、非麻痺手の使用減少による見かけ上の改善ではなく、麻痺手の使用増加による改善であったことが示された(図4下)。
結果②
花田ら15)は、活動量計を用いて麻痺手使用頻度を計測するにあたり、両手首に活動量計を装着し、非麻痺手と比較し麻痺手がどの程度活動しているかを計測する2点計測法と3点計測法のどちらが妥当な手法であるかを検討した。
その結果、2点計測法と3点計測法のどちらにおいても、両手動作時における左右手の活動比(以下:Magnitude Ratio)、全体における左右手の活動時間比(以下:Use Ratio)、全体における左右手の活動量比(以下:Laterality Index)は、上肢機能と有意な相関関係を示し、両者の計測法に有意な差はなかったことを示した。
まとめ
脳卒中上肢麻痺患者のQOL向上に寄与する因子は、麻痺手の使用頻度3)であり、上肢機能改善と並行して麻痺手の使用頻度に焦点を当てた介入が、患者のQOLに強い影響を与える可能性が示唆される。
活動量計による上肢活動量の可視化は、明示的なフィードバックとなり、麻痺手の使用に対する動機づけとなり、麻痺手の使用の行動変容およびQOLの改善に繋がることが予測される。
【共著】
北播磨総合医療センター リハビリテーション室 山本勝仁
【引用論文】
1) Wolf SL et al. Effect of constraint-induced movement therapy on upper extremity function 3 to 9 months after stroke: The EXCITE randomized clinical trial. JAMA. 2006;296:2095-2104
2) Nichols-Larsen DS et al. Factors influencing stroke survivors’ quality of life durig subacute recovery. Stroke. 2005;36:1480-1484
3) Kelly KM et al. Improved quality of life following constraint-induced movement therapy is associated with gains in arm, but not motor improvement. Top Stroke Rehabil. 2018;25:467-474
4) Rudiger JS et al. Spontaneous arm movement activity assessed by accelerometry is a marker for early recovery after stroke. J Neurol. 2011;258:457-463
5) Taub E et al. Technique to improve chronic motor deficit after stroke. Arch Phys Med Rehabil. 1993;74:347-354
6) 高橋 香代子 他.新しい上肢運動機能評価法・日本語版Motor Activity Logの信頼性と妥当性の検討.作業療法.2009;28:628-636
7) Tatemichi TK et al. Cognitive impairment after stroke: frequency, patterns, and relationship to functional abilities. J Neurol Neurosurg Psychiatr. 1994;57:202-207
8) Warnecke RB et al. Improving question wording in surveys of culturally diverse populations. Ann Epidemiol. 1997;7:334-342
9) Adams SA et al. The effect of social desirability and social approval on self-reports of physical activity. Am J Epidemol. 2005;161:389-398
10) Bailey RR et al. Quantifying real-world upper limb activity in nondisabled adults and adults with chronic stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2015;29:969-978
11) Hayward KS et al. Exploring the role of accelerometers in the measurement of real world upper-limb use after stroke. Brain Impairment. 2015;17:16-33
12) Held JPO et al. Encouragement-induced real-world upper limb use after stroke by a tracking and feedback device: A study protocol for a multi-center, assessor-blinded, randomized controlled trial. Front Neurol. 2018;9:10.3389/fneur. 2018. 00013
13) Popvic MD et al. Feedback-Mediated Upper Extremities Exercise: Increasing Patient Motivation in Poststroke Rehabilitation. Biomed Res Int. 2014;520374. Doi: 10.1155/2014/520374
14) 竹林 崇,他.慢性期の脳卒中後上肢麻痺を呈した患者の麻痺手の使用頻度を定量化する試み-事例報告-.作業療法.2017;36:74-80
15) 花田 恵介,他.脳卒中片麻痺患者を対象とした加速度計(ActiGraph Link GT9X)による上肢活動量計測と活動量可視化の試み-3点計測法の妥当性の検討-.作業療法.2019;38:550-558
16) 勝山 美海,他.リストバンド型活動量計を用いた経時的な上肢活動量計測によって日常生活における麻痺手使用が促進された脳梗塞後右片麻痺の1例.作業療法.2020;39:733-741
17) Godfrey A et al. Activity classification using a single chest mounted tri-axial accelerometer. Med Eng Phys. 2011;33:1127-1135
18) Najafi B et al. Ambulatory system for human motion analysis using a kinematic sensor: Monitoring of daily physical activity in the elderly. IEEE Trans Biomed Eng. 2003;50:711-723
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