前回までに侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛について取り上げました。今回は侵害可塑性疼痛(Nociplastic pain)について取り上げます。また、これまで用いられていた原因不明の疼痛「心因性疼痛」を「第3の疼痛(認知性疼痛)」と呼ぶようになっている流れについても解説いたします。

1.侵害可塑性疼痛の定義

前回までに侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛について取り上げました。今回は侵害可塑性疼痛(Nociplastic pain)について取り上げます。

図1. 国際疼痛学会による発生機序による痛みの分類

侵害可塑性疼痛とは「痛みの信号に関与している脊髄・脳内のネットワークにおいて生じた神経可塑性によって増強する、あるいは生じる痛み」と定義されています(International Association for the Study of Pain, 2017)。 神経は外からの刺激によって、絶えず機能的あるいは構造的な変化を生じています。 このような性質を可塑性と表現します。 しかし、慢性的な痛みを有する人では、痛みが持続することで神経系の歪みが元に戻らなくなってしまいます。 そうすると、痛み刺激がない状態でも痛みを感じてしまうという悪循環に陥ってしまいます(図2)。

このような「可塑性が痛みを生み出す」という概念が、国際疼痛学会によって公的に支持されました(Aydede M、Shriver A:Pain. 159:1176-1177、 2018)。 まだまだ十分に解明されていない部分もありますが、臨床にいる者としては、このような概念を知っておくことが重要になります。

図2. 神経系の可塑的変化と慢性疼痛 (松原貴子・他:痛みのメカニズムと理学療法〜痛みの可塑性と慢性疼痛. 愛知県理学療法士会誌、 19(2):81-87、 2007. より引用)

2.心因性疼痛から認知性疼痛へ

また、日本疼痛学会でも類似した定義が昨年出されました。 言葉が違うため、混乱するかもしれませんが、私個人としては、侵害可塑性疼痛と同義のものとして捉えています。 これまでは、身体に器質的な異常がなく、原因のよく分からない痛みを総じて「心因性疼痛」と表現されることが多かったと思います。 日本疼痛学会は、この原因のよく分からない痛みのことを心因性疼痛と表現するのではなく「第3の疼痛(認知性疼痛)」と表現しませんか?ということを提唱しています(図3)。

下の図をみてください。赤・青・黄色の3つの円があります。 背景が黒と白のものを見比べると、黒い背景のほうが同じ円を見ているのに、なんとなく重たい印象を受けませんか? 心因性疼痛という言葉は、医療者だけでなく、相手(患者さん)に対しても重たい印象を与えてしまいます。 そういった観点からも、原因の分からない痛みを心因性疼痛という言葉で片付けずに、認知性疼痛という言葉として表現することが推奨されています。 この認知性疼痛とは「身体認知失調性疼痛や精神機能失調性疼痛の総称で、脳になんらかの機能的あるいは器質的な変化(異常)が生じることによって起こる痛み」と定義されています。

図3. 第3の疼痛=認知性疼痛 (牛田享宏・他 :心因性疼痛を考える. 用語としての認知性疼痛の提案. PAIN RESEARCH, 33 (2018): 183-192. より引用)

3.脳と痛みの関係

痛みの伝導路のコラムでも紹介しましたが、痛みの情報を最終的に識別しているのは「脳」です。 つまり、身体に起因した痛みであれ、心因的な要因によって作られた痛みであれ、そのような痛みの情報(刺激)が入り続けると、脳はその情報を正しく認知できなくなってしまいます。 そうなると、痛みの刺激がなくなっても痛みを感じてしまうという状態が作り上げられてしまいます。 では、そのような方に対して、どのように評価を進めていけばよいか?という点については、次回のコラムの中で紹介していきたいと思います。

================================================== 【セミナー案内】 「痛み」に関するセミナーを開催いたします。基礎から実践まで学べるセミナーです。 医療従事者だけでなく、トレーナー、インストラクターの方にもおススメです! 是非ご参加ください。

テーマ:痛みの基礎と臨床展開 〜メカニズムの理解から実践展開まで〜 講師:田中創 氏 日時:10月20日(日) 場所:福岡 料金:¥8,640 (税込) 詳細、お申し込みはXPERTよりお願いいたします。 https://xpert.link/197/

企業への質問

この機能を利用するには、ログインが必要です。未登録の方は会員登録の上、ログインしてご利用ください。

この記事に関連するタグ

興味のあるタグをフォローしておくことで、自身のフィードに関連するセミナーやコラムを優先的に表示させることができます。 (無料会員機能。 登録はこちら )

執筆者の他のコラム