小胸筋は烏口突起に付着するだけではない
小胸筋は、第2-5肋骨から起始し烏口突起に停止する単関節筋とされていますが、すべてのヒトが烏口突起に付着するわけではありません。
小胸筋は、一部のヒトでは烏口突起にのみならず烏口上腕靭帯と同様の走行で上腕骨側まで付着するといわれています[1]。
このような一部のヒトに発生している身体構造などを総称して“破格例”といいます。ちなみに小胸筋の破格例のことを”小胸筋の延長腱“ともいいます。
小胸筋延長腱の発現率とその影響
小胸筋延長腱の発現率に関する報告は多く、上から15%[2]、16%[3]、36%[4]、10%[5]そして40%[1]と、発現率は異なります。
しかし、国内の報告(肱岡ら,1991)(植木ら,2014)では36-40%と非常に高い発現率を有していることからアジア人では小胸筋延長腱の発現率が高まることが考えられています。
40%という発現率をみると,小胸筋延長腱の存在は無視できないものです。では小胸筋の延長腱があると肩関節にはどのような影響をもたらすのでしょうか?
棘上筋腱から小胸筋延長腱を切り離したことで外旋制限が改善されたという報告[1]から小胸筋の短縮が生じることで肩関節の外旋制限となり得ることも考えられます。
したがって,肩関節拘縮を有する症例で外旋時に前胸部痛を認めた場合は小胸筋延長腱の存在も念頭に入れて臨床を行う必要があります。
小胸筋延長腱の描出(エコー画像)
こちらは成人男性の小胸筋および延長腱を描出した画像になります。このように小胸筋延長腱と烏口上腕靭帯はほとんど同じ走行で上腕骨方向へと走行しています。
しかし、胸筋の延長腱は腱性もしくは筋性部である一方、烏口上腕靭帯は弾性に富む疎性結合組織となり、2つの組織は明瞭に区別が可能な異なる組織であると報告されています[1]。
では、実際に内外旋運動を行った時、延長腱はどのように描出され、どのような動態になるのか以下の動画を通して観察してみましょう。
このように小胸筋延長腱を有する破格例においては肩関節の内外旋運動に伴い、烏口突起の上部を滑走する小胸筋延長腱の長軸動態が観察できます。
小胸筋延長腱を有する場合の伸張肢位
動画の小胸筋延長腱動態を実際に観察してみると小胸筋が下垂位外旋制限にも関与しうることが想定できます。
これらを踏まえたうえで、一般的に認知されている小胸筋の伸張肢位である肩甲骨の内転・後傾・外旋・上方回旋に加えて肩関節の下垂位外旋も意識して介入することで、下垂位外旋制限の改善に繋がる可能性もありそうです。
小胸筋延長腱を有する症例に対する下垂位外旋可動域のセルフストレッチ
ここでのPointは肩甲骨をしっかりと固定して行うことです。基本的には棒や杖を使用して下垂位外旋を行うだけですが、下垂位内外旋運動時に肩甲胸郭関節のみが動いてしまうと目的とする小胸筋延長腱の効率的な伸張が生じないので適切な肢位で実施してみましょう。
まとめ
- 小胸筋には延長腱を有する破格例が存在する
- 延長腱を有する症例は下垂位外旋制限にも関与しうる
- 肩関節拘縮を有する症例で外旋時に前胸部痛を認めた場合は小胸筋延長腱の存在も念頭に入れて臨床を行う必要がある
【引用】
1) 植木博子,他:小胸筋延長腱についての臨床研究.肩関節 38(2), 369-371, 2014
2) Le Double H : Traite'des variations du syste`me musculaire de l'homme et leur signification au point devuedel'anthropologie, vol2.Schleicher fre`res Ed , Paris : 1897
3) Weinstabl R , Hertz H , Firbas W Zusammenhang des ligamentum coracoglenoidale mit dem musculus pectoralis minor . Acta Anat 125:1986;126-131
4)肱岡昭彦ほか:小胸筋の停止異常と鳥口上腕靱帯との関係について肉眼解剖による検索より.肩関節,1991;9:9-12.
5) Homsi C ,et al . : Anomalous insertion of the pectoralis minor muscle : ultrasound findings . J Radiology , 84 : 2003 , 1007-1011.