第八報 病態・病期による目標設定介入の実際〜急性期・回復期〜

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竹林崇 大阪府立大学 教授

これまでのコラムで、目標設定介入のエビデンスと、介入で用いられるアウトカムについて述べてきた。今回は急性期・回復期それぞれの病期ごとの目標設定介入の問題点と展望について述べてゆく。

前回のコラム「第七報 リハビリテーションの目標設定介入に活用されるアウトカム」

  

急性期作業療法における目標設定

急性期作業療法における目標設定

急性期作業療法においては、以前のコラム目標設定介入に活用されるツール:ADOC(Aid for Dicision-making in Occupation Choice)で述べたSDMを活用した目標設定が行い難い現状がある。

American Occupational Therapy Association, Inc(アメリカ作業療法協会)¹では『急性期における最も重要な目標は、対象者の医学的安定と直近の生活を脅かす問題の解決を図ることにある。

次に大事な目標は、今後の作業療法介入を進める上で重要な要素となる身体・認知機能の合併症の予防に努めることである』という提言を示している。

急性期リハビリテーション研究の代表格であるAVERT試験²においても、アウトカムは身体機能中心に示されており、急性期においては作業療法の特性が現れやすい活動・参加レベルのアウトカムまで焦点を当てづらい背景が想定される。

上記の内容から、今後の生活基盤を作る心身機能の獲得が作業療法場面においても優先的に求められることが分かる

次に心理的側面から急性期作業療法を考えると、専門家主体で介入方針を決定するパターナリズムモデル³が適合しやすい状況が想定される。

受傷・発症後早期の心理状態は絶望感や混乱が強いこともあり、対象者にリハビリテーションの目標や選択を委ねることで多大な心理的負荷を与える場合もあるだろう

それでは、急性期におけるリハビリテーションの目標設定に関して、対象者の意志を尊重した目標設定は実施不可能なのだろうか。Sheebaら4)はイギリスの急性期病院におけるリハビリテーションにおいて、対象者中心の目標設定が行われているかの質的インタビュー調査を行った。

最終的に7組の分析となった小規模な研究だが、専門家(PT.OT.ST)と脳卒中患者の目標に関する認識の不一致が生じるなど、対象者中心の目標設定は不十分であったと結論づけている。

しかし、本研究では対象者中心の目標設定に良影響を与える因子についても検討がなされている。インタビュー結果の分析から、対象者中心の目標設定に良影響を与える因子として「医療スタッフの心構え」、「知識」、「対象者への前向きな希望を維持する能力」、「家族とも情報交換を行う能力」などが観察されたと報告した。

少数例に対する質的な研究であり、一般汎化性に関しては疑問が残る結果である。だが急性期の臨床においても、専門家の姿勢によっては対象者との協業を見据えた関わりが行える可能性を示唆していると考える。

結論として、急性期作業療法において必ずしも対象者との協業を伴った目標設定が行えるとは断言できない。しかし、今後の病期における作業療法に向けて、専門職として対象者との協業を試みる姿勢と、そういった介入が今後提供される可能性について、情報提供を行うことことは重要であると考えられる。

  

回復期作業療法における目標設定

回復期作業療法における目標設定

回復期作業療法においては、患者が医療者と共に意思決定に参加する、Shared Decision Making(SDM)を用いた目標設定を試みることを念頭におく必要があると考える。

回復期リハビリテーション病棟協会5)より、『リハビリテーションの目標が本人・家族の望む生活に近づくこととして、社会的不利そのものにアプローチするだけでなく、能力低下(ADL)を改善することで社会的不利の改善を容易にすることも有用である』との指針が示されている。

先述した急性期作業療法の動向と比較すると、より生活に即した内容が見受けられる。このような生活を基盤とした回復期のリハビリテーションにおいては、対象者も病前の実生活と現状の到達度合いを比較することが可能であり、SDMなどの意思決定・目標設定への能動的参加に向けたきっかけを提供しやすいと思われる

しかし、その実践は必ずしも対象者との協業が行われているとは言えない。Saitoら6)の報告では、回復期リハビリテーション病棟における作業療法士と対象者の目標の不一致が79%生じていたと報告している。

この報告の問題点は、過半数の療法士が「目標設定を対象者と共に協業している」と回答している点である。つまり協業的な姿勢は試みているが、それに実状が伴っていない結果が示唆された

回復期病棟とは異なるが、石川ら7)は一般病棟・地域包括ケア病棟を対象に、入院後10日前後の対象者59名にADOCを用いた目標設定の可否について分析した質的研究を行なっている。

この中で目標設定を阻害する要因として「意思疎通困難(11名)」「心身の苦悩(4名)」「機能訓練希望(2名)」「希望の希薄(6名)」「見通しの希望(4名)」「能力認識不足(3名)」を挙げた。

最も割合の多い「意思疎通困難(11名)」の内訳について言及すると、意識障害・失語症・認知症の影響による困難さが主となっていた。これらの疾患は回復期でも比較的見受けられるものであり、目標設定のような高度なコミュニケーションを必要とする場面では、疾患特性上それが困難となっている可能性が考えられる。

それでは、回復期において目標設定の協業を促すためには、どのような関わりが必要となるのか。関わりの一つとして、ADOCの利用がSDMの促進を行える可能性が示されている

事例報告レベルでは、回復期での研究報告が見られており8-9)、学会報告においても散見される。共通している論点としては、ADOCを用いることで対象者の作業療法への能動的な参加が促進され可能性について言及している

また、無作為化比較試験ではADOCを用いたトップダウンアプローチを行うことで、ボトムアップアプローチと比較してQOLへの影響が示唆される11)など事例数を増やした研究報告が試みられている段階である。

回復期における目標設定は課題も多いが、ADOCなどを用いたSDMの重要性が脚光をあびつつある

  

【共著】
高瀬 駿(川崎協同病院 作業療法士)

  

【引用文献】

1)The American Occupational Therapy Association, Inc. HP: https://www.aota.org/About-Occupational-Therapy/Professionals/RDP/AcuteCare.aspx
2)AVERT trial collaboration group: Efficacy and safety of very early mobilization within 24 h of stroke onset (AVERT):a randomized controlled trial. Lancet 386:46-55,2015
3)Barry MJ,et al:Shared decision making-The pinnacle of patient-centered care.N Engl J Med.2012 :366,780-781,2012
4)Rosewilliam S, Sintler C,et al:Is the practice of goal-setting for patients in acute stroke care patient-centred and what factors influence this? A qualitative study. Clin Rehabil. 2016 May;30(5):508-19. Epub 2015
5)回復期リハビリテーション病棟協会. HP: http://www.rehabili.jp/
6)Saito Y,et al:Determining whether occupational therapy goals match between pairs of occupational therapists and their clients: a cross-sectional study. Disabil Rehabil. 2019
7)石川:入院患者に対して作業選択意思決定支援ソフト (Aid for Decision-making in Occupation Choice)を用いた目標設定の可否に関する後方視的研究.日本臨床作業療法研究,No.7:46-51,2020
8)山口ら:脳卒中回復期の重度失語症者に対する作業療法実践~PaperADOCを使用した面接評価~,脳卒中リハビリテーション第1巻第4,78-87,2019
9)川口ら:作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)の応用的使用により作業の共有と多職種連携が促進された事例,作業療法,386,741-748,2019
10)Tomori K,et al:Comparison of occupation-based and impairment-based occupational therapy for subacute stroke: a randomized controlled feasibility study,Clinical rehabilitation 29 (8), 752-762, 2015

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