世界保健機関(WHO)は「食事, 栄養および慢性疾患の予防」に関する声明の中で,健康的なライフスタイルの一部として“栄養の重要性”を強調しています.健康な身体を維持するためには,“睡眠”や“運動”,“食事”が重要であるのは多くの方が理解されていると思います.しかし,それを日常的に実践するのは容易ではありません(私もこのコラムを夜中に長時間座りっぱなしで書きながら,糖分とカフェインを過剰摂取しています…笑).

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栄養と痛みの関係

栄養と痛みの関係 栄養状態は,癌や糖尿病,心血管疾患などの慢性疾患に関与する“生活習慣因子”の一つとされています.最近では,それらに加えて栄養状態が“慢性疼痛”に影響することが注目されています.「栄養が痛みに影響!?」と思われるかもしれませんが,正確に表現すると,“慢性疼痛を持続させる潜在的な要因”の一つとして栄養が着目されています.

ヒトを対象とした“栄養と慢性疼痛の関連性”を裏付けるメカニズムは未だ不明な点が多いです.しかし,基礎研究の分野では「炭水化物と脂肪を多く含む食事が脊髄ミクログリアの活性化を増加させ,末梢の炎症を助長し,痛覚過敏を生じさせる」ことが明らかにされています.実際に,慢性疼痛を有する方では「糖分,脂肪,ナトリウム,カフェイン」を含む食事を多く摂取する傾向にあることが指摘されています.

このような食事が慢性疼痛に影響するのか?それとも,慢性疼痛があるためそのような食事を好むのか?これらの因果関係は現時点では不明です.ただ,興味深い報告として,慢性疼痛を有する方では,健常者と比べて,“糖分を過剰に摂取”する傾向にあることが分かっています.また,ワクチン接種前の乳児の痛みを軽減する試みとして“砂糖水を経口摂取させる”という報告もあり,“糖分摂取による短期的な鎮痛効果”が注目されています.

糖分の過剰摂取による副作用

糖分の過剰摂取による副作用 前述したように、糖分摂取には短期的な鎮痛効果があると注目されています.

しかし,糖分の過剰摂取は“advanced glycation end products(AGEs)”という“酸化ストレス”の指標となる成分の生成を促進してしまいます.また,AGEsは“炭水化物の過剰摂取”によっても生成が促進されることが分かっています.さらに,炭水化物の過剰摂取は“炎症性物質の産生”を助長することにもつながります.これらの背景から,Strath, LJ., et al.は「炭水化物の摂取量を減らせば疼痛が軽減するのではないか?」という仮説を立て研究を実施しました.

炭水化物と疼痛の関連についての研究

炭水化物と疼痛の関連についての研究 対象は変形性膝関節症の慢性疼痛を有する方で,①低炭水化物群,②低脂肪群,③通常の食事群の3つのグループに無作為に割り付けられました.12週間指定された食事を摂取することで,①低炭水化物群だけが痛みや身体機能,QOLの改善を認めました.ヒトを対象とした栄養の研究は限界点も多く(本当に栄養の効果だけなのか,介入期間の活動性はどうだったのか,体重減少による効果ではないのか…etc.),結果の解釈には注意が必要です.しかし,栄養に関連した介入研究は運動療法を併用しているものが多いため,栄養単独での効果検証を行っている本研究の結果は非常に興味深いといえます.

ちなみに,この研究の中で①低炭水化物群に割り当てられた対象者の食事は以下のようになっています。

  • 炭水化物の摂取量は一日20gまで(必要に応じて40gまで増量)
  • 脂肪やタンパク質(肉や卵)の摂取は制限なし
  • 果物の摂取は制限
  • 野菜は一部許可(葉物野菜は一日2カップ,無糖野菜は一日1カップ)

白米のごはん一杯(150g)の中に約60gの炭水化物が含まれているため,1日の炭水化物の摂取量が20gまでというのはかなり厳しい基準といえますね…

また,より具体的な栄養の介入として,野菜,果物,オリーブオイルなどの健康によい油,食物繊維を豊富に含む食事が炎症を抑えるのに有効であるとされています.逆に,炎症を助長する恐れがある食事についても紹介されています(表1).

表1.炎症に関与する食物(Elma Ö., et al. 2020を参考に作成)

さらに,Rondanelli M et al.は,栄養による介入によって炎症や慢性疼痛を軽減できるとし,“Food pyramid”という概念を提唱しています(図1).Food pyramidの中では,どのような食事を,どれくらいの頻度で,どれくらい摂取すればよいか?ということが細かく紹介されています.

ちなみに,毎日摂取したほうが良い食事として以下12品目が挙げられています。
水/果物/野菜/低血糖の炭水化物/エクストラバージンオリーブオイル/種子/ナッツ/ヨーグルト/赤ワイン/クルクミン/ショウガ/エキナセア

図1. Food pyramid(Rondanelli M., et al. 2020より改変引用)

まとめ:栄養と痛みには関係性がある!今後の研究に注目

栄養と痛みには関係性がある!今後の研究に注目 今回は番外編として「栄養と痛みの関係」について取り上げました.日々の臨床場面では,患者さんから「どのような食事をするといいの?」と聞かれることもあると思います.今回は割愛させていただきましたが,栄養と痛みには“肥満”の問題も関わってきます.肥満と栄養不良には共通する問題点も多いため,それらを考慮して今回の内容をご活用いただけると幸いです.

まだまだ不明な点も多い分野ですが,栄養と痛みの関係はInternational Association Study of the Pain(国際疼痛学会)の中でもトピックスとして取り上げられているため,今後多くの報告が出てくることが予想されます.その際は,またこちらでもご紹介させていただきたいと思います.

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【参考文献】

  1. World Health Organization. Diet, nutrition, and the prevention of chronic diseases: report of a joint WHO/FAO expert consultation. Vol. 916. World Health Organization, 2003.
  2. Nijs Jo, et al. Nutritional intervention in chronic pain: an innovative way of targeting central nervous system sensitization?. Expert opinion on therapeutic targets. 24.8:793-803, 2020.
  3. Meleger, AL.,et al. Nutrition and eating behavior in patients with chronic pain receiving long-term opioid therapy. PM&R. 6.1: 7-12,2014.
  4. Darbor, KE., et al. Do people eat the pain away? The effects of acute physical pain on subsequent consumption of sweet-tasting food. PLoS One. 11.11: e0166931, 2016.
  5. Taddio, A, et al. Reducing the pain of childhood vaccination: an evidence-based clinical practice guideline. Cmaj. 182.18:E843-E855, 2010.
  6. Okifuji, A, Bradford DH. The association between chronic pain and obesity. Journal of pain research. 8;399,2015.
  7. Ursini, F, et al. Fibromyalgia and obesity: the hidden link. Rheumatology international. 31.11:1403-1408, 2011.
  8. Strath, LJ., et al. The effect of low-carbohydrate and low-fat diets on pain in individuals with knee osteoarthritis. Pain Medicine. 21.1:150-160, 2020.
  9. Elma, Ö, et al. Chronic musculoskeletal pain and nutrition: where are we and where are we heading?. PM&R. 12.12:1268-1278, 2020.
  10. Tick, H. Nutrition and pain. Physical Medicine and Rehabilitation Clinics 26.2:309-320, 2015.
  11. Rondanelli, M, et al. Food pyramid for subjects with chronic pain: foods and dietary constituents as anti-inflammatory and antioxidant agents. Nutrition research reviews. 31.1:131-151, 2018.

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