これまでの姿勢制御のコラムでは感覚のフィードバックやフィードフォワードがどのようになされ、それが前庭機能も含めてどのように姿勢制御に働くのかを記載してきました。ですが運動の中でも、どの部分の感覚を主に用いて姿勢をコントロールするのかは運動課題によって変化します。今回のコラムでは視覚・深部感覚・前庭感覚のどこに「感覚の重みづけ」を置いて運動ならびに姿勢制御を行うのかを記載していきます。

感覚の重み付けとは何か

健常人が姿勢制御を行う上では、これまで解説してきた体性(表在・深部)感覚・前庭感覚に視覚を加えた3つが中枢神経系(CNS)で統合されることになります。

それぞれの感覚には割合があり、これを「感覚の重みづけ」とされています。

後述しますが、これらが何らかの障害や環境の変化で重みづけも変化するとされており、これは「感覚の再重みづけ」と呼ばれています1)。

一般的に、感覚入力されたどの感覚が信頼でき、どの程度信頼できるかを、重み付けの「プロセス」として決定します。そして、中枢神経系は、周囲の光量や身体に加わる加速度など、身体の内外や周囲の状況に応じて、感覚入力の重み付けを変化させます。

この一連の流れは、即時的に脳が感覚入力を予測し、予測と実際の感覚入力の誤差に基づいて体の動きを修正する際に生じるものであり、中枢神経系の「fast dynamics」と言われ、また様々な感覚の統合や姿勢制御のシステムが加齢や学習など様々な理由で長期的に変化するともされており、これは「slow dynamics」と呼ばれています2)。

静的立位の脳機能を測定した報告では、動いているパターンの投影による視覚刺激と、片側のアキレス腱への振動による固有受容器摂動の条件下では、若年成人被験者の姿勢制御が妨害されましたが、電気による前庭刺激によってその妨害が回復されたとしています3)。

この結果は,前庭刺激を行わないと被験者が姿勢を保持できなかったことから,前庭入力が他の感覚入力よりも影響が少ないことが考えられます。

また同様に、前庭入力を変化させるために電気による前庭刺激を,視覚入力を変化させるためにスクリーントランジション(画面変化)を,固有受容器を変化させるためにバイブレーション(振動刺激)を用いて静的立位の安定性を見た報告では、感覚入力の1つが妨害されると、他の感覚入力の重みが増加したとしています4)。

このデータは、感覚入力はそれぞれ明らかに独立しており、正しいモデリングのためには各感覚の信頼性の重みが必要であることが示唆されます。

スポーツごとの感覚の再重みづけ

スポーツごとに感覚の再重み付けを調べた研究は多々あります。

コリジョンスポーツのビジョン(視覚)トレーニングの効果を調べたシステマティックレヴューでは研究数は少ないものの、視覚や眼球運動のパフォーマンスが頭部損傷の頻度と重症度に影響を与える可能性があるとし、スポーツのビジョントレーニングが、視覚運動制御と眼球運動の速さを向上させ、脳震盪のリスクを軽減するための有望な方法である可能性があるとしています5)。

次に接触の多いスポーツであるサッカー選手、限定的な接触のみである野球選手、何もしていない大学生それぞれ10名ずつの視覚の有無による立位バランスを調べた研究では、視覚なしでの片足立位保持においてサッカー選手が他の2群よりも動揺面積と足圧中心移動速度に有意な差が見られたとしています6)。

このことからコンタクトがあるスポーツ選手では姿勢制御能力に優れており、接触型スポーツでは,前庭・固有感覚情報の利用を促すトレーニングで姿勢制御の向上につながる可能性があるとしています6)。

バランストレーニングについて調べた研究では、バランスボード上での2分間の立位とバランスボール上の2分間座位をそれぞれ2セット実施する前後の、60秒間の静止立位を比較しました。

その結果バランスボード群では Romberg 率(閉眼時動揺 値/開眼時動揺値)が実施後に有意に増加し、一方,バランスボール群では動揺増加量が実施後で有意に減少したとされています。

これらのことから,バランスボードエクササイズは,姿勢制御での視覚入力の重みづけを高め, バランスボールボールエクササイズは,下肢体性感覚入力に対する重みづけを低下させることを示唆したとしています7)。

バランスボールでの運動はこれらのことから前庭感覚の入力の重み付けを高めることが考えられ、競泳や空中での姿勢制御が要求される飛込み競技や体操競技などのウォームアップに適していると推察できるとする一方で,体性感覚入力に依存する柔道などの競技には適さない可能性があるとされています8)。

筋力や関節可動域に加えて感覚入力の観点から運動指導を

ストレングストレーニングやファンクショナルトレーニングなどで、パフォーマンスアップを図ったりするトレーナーや治療家の方は非常に多いと思います。

ですが、どうしても筋力や関節可動域、運動学の視点のみでパフォーマンスを見てしまいがちになってしまうと思います。

これまでに解説した感覚入力から考えた姿勢制御を視点に加えることで、さらに選手や患者さんにより良い運動指導を行えると思います。

これまでのコラムが皆様のお役に立てれば幸いです。

【引用文献】 1)R. J. Peterka: Sensorimotor integration in human postural control, Journal of Neurophysiology, 88(3), 1097-1118, (2002). 2)R. Chiba, et al: Human upright posture control models based on multisensory inputs ; in fast and slow dynamics, Neuroscience Research 104;96–110,2016 3)DJ.A Eikema, et al : Application of intermittent galvanic vestibular stimulation reveals age-related constraints in the multisensory reweighting of posture, Neurosci. Lett 561;112-117,2014 4)S.Hwang, et al: Dynamic Reweighting of Three Modalities for Sensor Fusion, PLOS ONE 9, https://doi.org/10.1371/journal.pone.0088132, 2014 5)S.M.Kung, et al: The Effects of Anticipation and Visual and Sensory Performance on Concussion Risk in Sport: A Review . Sports Medicine 6: https://doi.org/10.1186/s40798-020-00283-6 , 2020 6)Y. Liang,et al :The effect of contact sport expertise on postural control. PLoS ONE 14: e0212334. https://doi. org/10.1371/journal.pone.0212334 ,2019 7)板谷厚,木塚朝博:不安定面上でのバランスエクササイズが姿勢制御における感覚依存性に及ぼす即時効果, コーチング学研究25;33-42,2011 8)板谷厚:感覚と姿勢制御のフィードバックシステム,バイオメカニズム学会誌39 ,197-203,2015

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