CI療法の適応と限界
脳卒中後の上肢麻痺に対する治療であるConstraint-Induced Movement Therapy(以下,CI療法)は,軽度~中等度の上肢麻痺に対してエビデンスが確立されている1,2).
しかし,CI療法の適応基準を満たす症例は少なく3),基準に満たない重度の上肢麻痺例に対してはCI療法単独では限界があり,十分な効果を発揮することはできない.
また,脳卒中急性期から1日2時間と実施時間を短縮した修正CI療法の実施により,上肢機能の改善と急性期以降の安全性が報告されている4)が,通常診療における2時間のマンパワー確保は困難な場合が多い.
リハビリテーションにおける必要十分な練習量の確保は,人的資源の不足などの問題から容易ではなく,また重度麻痺例に対する良質なリハビリテーションの提供手段も限られている.
本稿では,主に脳卒中後重度上肢麻痺患者に対し,エビデンスの確立されたリハビリテーションの方法とマンパワーの確立,それらとCI療法との関連について述べる.
ロボット療法のエビデンスについて
Kwakkelらによるシステマティックレビュー5)では,脳卒中患者の上肢機能回復に対するロボット支援治療(ロボット療法)の有効性が報告されている.
また,ロボット療法はAmerican Heart Association/ American Stroke Association(以下,AHA/ASA)の2016年のガイドライン6)において,中等度から重度の上肢麻痺患者に対して有効であり,推奨グレードはAとされた.
2020年には,診療報酬改定により運動量増加機器加算が新設され,上肢訓練支援ロボットとしてはReoGo-J(帝人ファーマ株式会社),CoCoroe AR2(株式会社安川電機),歩行訓練支援ロボットとしてはウェルウォーク WW-1000(トヨタ自動車株式会社),機能的電気刺激機器としてウォークエイド(帝人ファーマ株式会社),L300 フットドロップシステム(パシフィックメディカルブリッジ株式会社)が該当機器として認められた(図1).
上記機器を用いて脳血管疾患等リハビリテーション料を算定すべきリハビリテーションを行った場合,運動量増加機器加算として月1回に限り150点を所定点数に加算することが可能となった.
本邦では,Takahashiら7)が,脳卒中発症後7日~3カ月未満の亜急性期の患者に対し,通常作業療法と自主練習を実施した群と,通常作業療法とReoGoを用いたロボット療法を組み合わせた群を比較した.
その結果,中等度~重度上肢麻痺を呈した患者では,ロボット療法の方が上肢機能の改善が有意に大きかった.
ReoGoを用いたロボット療法とCI療法を組み合わせた介入も2020年に庵本ら8)によって報告された.
40分の修正CI療法,40分のReoGOを用いた上肢練習を週5日,6週間実施した.
その結果,上肢機能,実生活での麻痺手の使用頻度・動作の質であるFugl Meyer Assessment(以下,FMA),Motor activity Log(以下,MAL)のAmount of Use(以下,AOU),Quality of Movementのそれぞれで大幅な改善を示した.
しかし,手指伸展の随意性が乏しい重度手指麻痺例では改善が乏しかった.
AHA/ASAにおいて,手指の機能障害に対するロボットの選択的使用は推奨グレードB2)とされており,Luら9)は,脳卒中発症後8カ月の患者に対し,Hand of Hope(以下HOH,Rehab-Robotics社,Hong Kong,China)を用いて介入し,手指機能が改善したと報告した.
HOHは,麻痺側手指伸筋・屈筋の表面筋電図信号を用いて,各手指に接続した外骨格型ロボットにより手指の能動的な動きをアシストするものである(図2)10).
本邦では,松嶌ら11)や埴岡ら12)が脳卒中後重度上肢麻痺患者に対し,上肢および手指の機能回復の経過に合わせたReoGo-J,HOHの段階的なロボット療法を用いた複合的な介入により,上肢・手指機能ともに改善を示した.
CI療法とロボット療法
しかし,ロボット療法では,獲得された機能が生活における麻痺手の使用頻度や使いやすさといった使用行動に反映されず,ADLやQOLの直接的解決策にはなりえないとされる5,7).
一方で,CI療法ではTransfer Package(以下,TP)といった行動戦略を用い,獲得した機能を実生活に生かすことを主目的13)としており,庵本ら8),松嶌ら11)もロボット療法とTPを含むCI療法を組み合わせることで,機能的な改善とともにADLにおける麻痺手使用量の増加や,麻痺手使用の主体感の獲得につながっている.
MALのAOU改善には,FMAの改善が有意に相関する(r=0.778)14)とされ,CI療法で実施される課題指向型練習およびTPの基盤として,ReoGo-JやHOHなどのロボット療法にて上肢・手指の機能改善を効率的に図ることが重要である.
【共著】 山本 勝仁(北播磨総合医療センター リハビリテーション室)
【引用論文】 1) Takebayashi T et al. A 6-month follow-up after constraint-induced movement therapy with and without transfer package for patients with hemiparesis after stroke: A pilot quasi-randomized controlled trial. Clin Rehabil. 2013;27:418-426 2) Taub E et al. Method for enhancing real-world use of a more affected arm in chronic stroke: Transfer package of constraint-induced movement therapy. Stroke. 2013;44:1383-1388 3) Wolf SL et al. Effect of constraint-induced movement therapy on upper extremity function 3 to 9 months after stroke: The EXCITE randomized clinical trial. JAMA. 2006;296:2095-2104 4) 堀本 拓究他.脳卒中上肢麻痺に対し急性期から回復期にかけてCI療法連携表を用いた取り組みについて.作業療法.2020;39:223-230 5) Kwakkel G et al. Effects of robot-assissted therapy on upper limb recovery after stroke: A systematic review. Neurorehbil Neural Repair.2008;22:111-121 6) Winstein CJ et al. Guidelines for adult stroke rehabilitation and recovery : A guideline for healthcare professionals from the American Heart Association/ American Stroke Association. Stroke. 2016;47:e98-e169 7) Takahashi K et al. Efficacy of upper extremity robotic therapy in subacute post-stroke hemiplegia: An exploratory randomized trial. Stroke. 2016;47:1385-1388 8) 庵本 直矢他.亜急性期での脳卒中後上肢麻痺に対するロボット療法と修正CI療法を組み合わせた治療の実践.作業療法.2020;39:579-589 9) Lu Z et al. Advanced Myoelectric Control for Robotic Hand-Assisted Training: Outcome from a Stroke Patient. Front Neurol. htps://doi.org/10.3389/fneur.2017.00107 10) Ho NSK et al. An EMG-driven exoskeleton hand robotic training device on chronic stroke subjects: task training system for stroke rehabilitation. IEEE Int Conf Rehabil Robot. 2011;5975340. doi:10.1109/ICORR.2011.5975340 11) 松嶌 ありさ他.脳卒中後の重度上肢機能障害に対して手指および上肢のロボット療法を含む複合的な介入を実施した一例.作業療法.2019;38:78-86 12) 埴岡 大輝他.脳卒中後の重度上肢機能障害に対してMirror Therapyを含む複合的な介入を実施した一症例.作業療法.2020;39:333-340 13) Morris DM et al. Constraint-induced movement therapy (CI therapy): Characterizing the intervention protocol. Eura Medicophys. 2006;42:257-268 14) Takebayashi T et al. A one-year follow-up after modified constraint-induced movement therapy for chronic stroke patients with paretic arm: A prospective case series study. Top Stroke Rehabil. 2015;22:18-25
企業への質問
この機能を利用するには、ログインが必要です。未登録の方は会員登録の上、ログインしてご利用ください。