高齢者は脳卒中発症前から認知症を発症している場合があり,脳卒中の重症度などに影響すること報告されている.本稿では脳卒中発症前の認知症の疫学や機能転帰について解説を行う.

脳卒中前認知症(Pre stroke dementia)の疫学

Hénonら(1)は,脳卒中を発症し急性期病院に入院した40歳以上の対象者202名のうち,33名(16.3%)が既に脳卒中発症以前からの認知症であったと報告している.

Katharinaら(2)の調査では,急性期脳卒中を発症した高齢者153名のうち21名(13.6%)が脳卒中発症以前からの認知症であり,脳卒中後の死亡率や在宅退院の困難さに関する独立した予測因子になることを報告している.

その他の調査においても,脳卒中発症以前からの認知症や心疾患が既往にある脳卒中者は,脳卒中重症度と早期死亡率の関連が明らかとなっている(3).

脳卒中前認知症の機能転帰

Saposnikら(4)は急性期脳卒中患者の脳卒中発症以前からの認知症を有した群と脳卒中発症以前からの認知症を有していない群の退院時の転帰を調査した.

急性虚血性脳卒中患者9,304人のうち、702人(9.1%)に脳卒中発症以前からの認知症が認められ,脳卒中発症以前からの認知症が認められなかった群と比較して高齢で,脳卒中の重症度が高く,退院時のmRSや発症前の居住先に退院する割合は有意に低かった.

 しかしGustavoら(5)は,認知症の既往は退院時の転帰に関する独立した予測因子ではないことを報告している. この調査では10658名の脳卒中高齢者のうち966名に脳卒中発症以前からの認知症が認められ,傾向スコアマッチングを用いて,877名の脳卒中発症以前からの認知症を有した群と脳卒中発症以前からの認知症を有していない群の間でマッチングを行い,認知症の既往が転帰不良の独立した予測因子であるのか,あるいは合併する併存疾患が転帰不良に与える因子であるのかを調査した.

結果,脳卒中発症以前からの認知症を有した群は対照群と比較して脳卒中の重症度,併存疾患の有病率,入院期間,肺炎の罹患率,死亡率など全てのアウトカムが高かったが,マッチング後の比較ではこれらのアウトカムのいずれにも有意差は認められなかった(図1).

したがって,脳卒中発症以前からの認知症の有無は脳卒中の重症度や死亡率に影響するが,mRSで評価された転帰の悪化はベースラインの特徴および併存疾患の有無が影響していると示唆された.

Eliyahu-Hayim(6)らが実施したケースコントロール研究では,脳卒中高齢者919人のうち,106人(11.5%)の脳卒中発症以前からの認知症有した対象者を実験群,813人の脳卒中発症以前からの認知症を有しなかった対象者を対照群とし,入退院時におけるFIMスコアの変化を比較した.

結果,実験群は対照群と比較してTotal FIMが有意に低い状態であったことが明らかとなった.しかし,群毎の変化量において,入院時のFIM各項目の平均値は「実験群2.95/対照群3.88」,退院時は「実験群3.64/対照群4.75」であり,実験群は23.61%,対照群は28.07%の改善が認められた.

結果から,脳卒中発症以前からの認知症を有した群は開始時のFIMが有意に低い状態であったが,リハビリテーション実施後のFIMスコアは対照群と同程度の割合で改善していることが示唆された.

脳卒中リハビリテーションと脳卒中前認知症

Longleyら(7)が行った急性期病院の医療従事者を対象とした質的研究では,「脳卒中リハビリテーションは脳卒中発症以前からの認知症を有した対象者にとって必ずしも適切なサービスではなく,リハビリテーションが機能の改善につながるというモデルは適していないという意見が表明され,脳卒中発症以前からの認知症は機能中心のリハビリテーションとは異なるアプローチを必要とする状態である」と結論付けている.

本邦の認知症疾患ガイドライン2017においても,認知症を既往に持つ対象者の急性疾患に関するエビデンスは確立されていない(8).

脳卒中発症以前からの認知症を有した対象者は,死亡率,脳卒中の重症度が高く,在宅復帰の割合が低いとされているが,脳卒中発症以前からの認知症そのものはmRSなどで示される機能予後に影響は与えず,退院時FIMの改善が認められている.急性期病院では認知症の重症度を把握し,BPSDに対する配慮や工夫を行いながら,急性発症した疾患別リハビリテーションに対しての介入を実施する必要があると考えられる.

【共著】
宝田 光(医療法人 札幌麻生脳神経外科病院)

【引用文献】
(1)H. Hénon, F. Pasquier,Durieu, O. Godefroy,et al:Pre existing Dementia in Stroke Patients Baseline Frequency, Associated Factors, and Outcome.Stroke 28(12) 2429-2436,1997.
(2)Katharina M. Busl, Raul G. Nogueira,et al:Pre-stroke dementia is associated with poor outcomes after reperfusion therapy among elderly stroke patients.J Stroke Cerebrovasc Dis 22(6): 718–724,2013.
(3)Peter Appelros, Ingegerd Nydevik, ake Seiger,et al:Predictors of Severe Stroke: Influence of Preexisting Dementia and Cardiac Disorders.Stroke 33(10):2357-2362,2002.
(4)G. Saposnik, R. Cote, P.A. Rochon, et al: Care and outcomes in patients with ischemic stroke with and without preexisting dementia.Neurology 77:1664–1673,2011.
(5)Gustavo Saposnik , Moira K. Kapral,Robert Cote,et al: Is Pre-Existing Dementia an Independent Predictor of Outcome After Stroke? A Propensity Score-Matched Analysis.J Neurol 259:2366–2375,2012.
(6) Eliyahu-Hayim Mizrahi, Marina Arad, Abraham Adunsky.Pre-stroke dementia does not affect the post-acute care functional outcome of old patients with ischemic stroke:Geriatr Gerontol Int 16(8): 928–933,2016.
(7)Verity Longley,Sarah Peters,Caroline Swarbrick,et.al:What influences decisions about ongoing stroke rehabilitation for patients with pre-existing dementia or cognitive impairment: a qualitative study?.Clinical Rehabilitation 32(8),1133-1144,2018.
(8) 日本神経学会(監修).「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会(編):認知症疾患診療ガイドライン2017,医学書院.

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