高齢者は脳卒中発症後に認知症を合併することがあり,脳卒中の既往や重症度,認知機能などが要因となることが明らかとなっている.本稿では脳卒中に関連する認知症の有病率や予測因子について解説を行う.

脳卒中に合併する認知症

脳卒中後の認知機能障害として合併する高次脳機能障害は,機能局在に応じて多岐に渡るが,特に高齢者においては脳血管性認知症(Vascular Dementia:VaD)を合併することがある.認知症は疾患別にアルツハイマー型認知症(Alzheimer disease:AD),脳血管性認知症が順に多く報告されている.

日本の全国10都市を対象とした認知症の有病率の調査では,アルツハイマー型認知症(Alzheimer disease:AD)が67.6%で最多,次いでVaDが19.5%であったと報告されている(1).

歴史的にこの2つの認知症は,臨床的にも神経病理学的にも異なる変化を持つ別個の存在として考えられてきたが,現在では血管性認知機能障害(Vascular cognitive impairment:VCI)(表1)として病期・病態に応じた細分化がなされている(2).

表1 血管性認知機能障害の分類

脳卒中発症前後の認知症

 脳卒中者の認知症の有病率を調査した研究では,初発の脳卒中で入院した患者の約10%が脳卒中前に認知症を発症しており,さらに10%が脳卒中の結果として新たな認知症を発症する.全体として脳卒中入院患者の約25%が何らかの認知症を発症し,脳卒中発症後1年以内に脳卒中を再発した患者は30%以上が認知症を発症することが明らかとなっている(3).

脳卒中に合併する認知症はVCIなどの概念により軽度例から重度例まで幅広い解釈がなされており,文献によっては混合型認知症との鑑別がされていない可能性を含んでいることから,本コラムでは脳卒中前に発症した認知症をPre stroke dementia,脳卒中後に発症した認知症をPost stroke dementiaとして述べる.

脳卒中後認知症 Post stroke dementia

 脳卒中者を対象にPre stroke dementia,Post stroke dementiaのリスク因子に関するシステマティックレビューを実施した報告では,脳卒中発症前後の認知症発症に関連する要因は別であることが示された(4).

脳卒中者を対象とした認知症の合併に関するシステマティックレビューでは,Pre stroke dementiaとPost stroke dementiaのリスク因子は別であることが示された.

Pre stroke dementiaが内側側頭葉萎縮,女性,認知症の家族歴と関連していたのに対し,Post stroke dementiaは画像診断で認められた無症候性脳梗塞,複数箇所の病変,梗塞の体積,病変部位(左半球で増加,脳幹で減少),重症度,失語症、脳卒中の再発が有意に関連していたことが明らかとなっている.

Moulin(5)らは脳出血後の認知症発症率と危険因子の調査を目的とした前向きコホート研究を実施した.解析対象となった218人の脳出血患者の内,1年目にPost stroke dementiaを発症した割合は14.2%,4年目では28.3%であった.脳出血の損傷部位によってPost stroke dementiaの発症率は異なり,年齢の高さ,脳卒中の重症度,脳卒中の既往と関連していた.

また,Henon(6)らは脳卒中者202人を対象に,脳卒中発症後3年間のPost stroke dementiaの発症率について調査を実施した.追跡期間終了時の認知症患者の割合は28.5%であり,Post stroke dementiaの大部分は脳卒中発症後,最初の6ヵ月間に発症していた.

さらに脳卒中以前に認知機能が低下した対象者ではPost stroke dementiaのリスクが高く,約三分の一がADの基準を,三分の二がVaDの基準を満たしており,加齢・認知機能低下の既往・入院時の脳卒中の重症度・糖尿病有無・無症候性梗塞の有無がPost stroke dementiaの独立した予測因子であると報告した.

Pakaratee(7)らは脳卒中者に対する在宅でのリハビリテーションプログラムが長期的なADLの改善や認知症・うつ病の予防が可能であるかどうかの検討をするためにランダム化比較試験を実施した.

急性期病院を退院した脳卒中者60名は2群に群分けされ,実験群は理学療法士が一か月に一回の頻度で,屋内および屋外での移動に関連するさまざまな機能,および基本的なADLが評価され,自宅環境で実践可能なリハビリテーションプログラムに関する映像資料を通して対象者・介護者へ自主トレーニングの指導を行った.

対照群の脳卒中者とその介護者には急性期病院の退院前に在宅リハビリテーションの指導を行い,在宅でのフォローアップ評価は含まれなかった.

両群間でベースライン評価における群間差はなかったが,2年間の追跡調査後では月1回の生活マネジメントを受けた実験群は,対照群と比較してBarthel IndexやHospital Anxiety and Depression Scaleのスコア(平均値)が有意に改善していた.しかし,両群ともに一定数は早期の段階でPost stroke dementiaを発症していた.

脳卒中の発症後に早期から行われた在宅リハビリテーションプログラムは,ADLや抑うつ・不安の改善に効果を示したが,Post stroke dementiaの有病率は改善しなかった.

これらの報告から,脳卒中は認知症の発症に関与する独立した予測因子であり,脳卒中の重症度や認知機能の低下が関連していることが明らかとなった.

【共著】
宝田 光(医療法人 札幌麻生脳神経外科病院)

【引用文献】
(1)厚生労働科学研究費補助金:認知症対策総合研究.都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応.(online),〈http://www.tsukuba-psychiatry.com/wp-content/uploads/2013/06/H24Report_Part1.pdf 〉(accessed2020-12-1).
(2)Daniele Lo Coco,Gianluca Lopez,Salvatore Corrao:Cognitive impairment and stroke in elderly patients.Vascular Health and Risk Management2016:12 105–116,2016.
(3)Pendlebury ST. Dementia in patients hospitalized with stroke: rates, time course, and clinico-pathologic factors. Int J Stroke.7(7):570–81,2012.
(4)Sarah T Pendlebury, Peter M Rothwell:Prevalence, incidence, and factors associated with pre-stroke and post-stroke dementia: a systematic review and meta-analysis:Lancet Neurol8: 1006–1018.2009.
(5)Solène Moulin, Julien Labreuche, Stéphanie Bombois, Costanza Rossi, Gregoire Boulouis, Hilde Hénon, Alain Duhamel, Didier Leys, Charlotte Cordonnier:Dementia Risk After Spontaneous Intracerebral Haemorrhage: A Prospective Cohort Study.Lancet Neurol(8):820-829,2016.
(6)Henon H, Durieu I, Guerouaou D, Lebert F, Pasquier F, Leys D. Poststroke dementia: incidence and relationship to prestroke cognitive decline. Neurology 57: 1216–22. 2001.
(7)Pakaratee Chaiyawat, Kongkiat Kulkantrakorn:Randomized controlled trial of home rehabilitation for patients with ischemic stroke: impact upon disability and elderly depression. Psychogeriatrics(12)193–199,2012.

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