認知症では,中核症状に加えて,徘徊・暴力など行動異常といった周辺症状が出現する.本コラムでは,認知症者の行動・心理症状(Behavioral and psychological signs and symptoms of dementia:BPSD)の行動評価・急性期病院でのBPSDに関して以下に解説していく.

認知症者に対するBPSD評価の目的

認知症では,記憶障害・見当識障害などの中核症状に加えて,幻覚・妄想などの精神症状や,徘徊・暴力など行動異常といった周辺症状が出現する.1996年の国際老年医学会において,Finkel(1)らは認知症者にみられる認知・思考・気分・行動の障害を表す認知症者の行動・心理症状(Behavioral and psychological signs and symptoms of dementia:BPSD)を提唱した.BPSDは暴力などの社会的行動障害に発展する可能性もあることから,早期にBPSDを発見し対応することが求められるとされている(2).

本コラムでは,BPSDの行動評価に関して以下に解説していく.

BPSD評価

▶ Behavioral Pathology in Alzheimer’s Disease Rating Scale(BEHAVE-AD) BEHAVE-ADは認知症者のBPSDに対する薬物療法の効果を評価する目的で作成された尺度である.BEHAB-ADは1987年にReisberg(3)らによって開発され,本邦では朝田(4)らがバックトランスレーションにて翻訳し日本語版の信頼性に関する検討を示している.

評価方法は介護者との半構造化面接であり,直近2週間の観察に基づき実施される.判定基準として,妄想観念・幻覚・行動異常・攻撃性・日内リズム障害・感情障害・不安および恐怖の7つの下位尺度に応じた25項目の項目ごとに0~3の4段階で評価する.下位尺度毎の合計点は算出できるが,全項目での合計点数はない.介護者の負担に関する独立した全般評価と合わせて構成される.

▶ Neuropsy-chiatric lnventory(NPI) Cummings(5)らにより,精神症状・行動心理症状の評価を目的に開発されたNPIは,1997年に博野(6)らによって日本語訳がなされ,信頼性と有用性が検証されている.

NPIは介護者との半構造化面接により,認知症者の直近の生活状況の中から行動領域と自律神経領域に関する質問を実施する.評価対象は幻覚・妄想・うつ・睡眠障害・不安・多幸・興奮・異常行動・脱抑制・無為/無関心・食行動異常・易刺激性の12項目に基づいて質問する.

それぞれの項目には主質問と下位質問が設定されており,主質問により精神症状が疑われる場合には下位質問を実施し,重症度と頻度を診断基準に従って判定する.重症度は0~4点,頻度は0~3点で評価し,総合得点は重症度と頻度を積で合計した0~120点のスコアとして算出する.

▶ Neuropsy-chiatric lnventory caregiver distress scale(NPI-D) NPI-DはKaufer(7)らによって作成され,本邦では松本(8)らが日本語版を作成し,妥当性と信頼性を検討している.NPIの各項目に加えて,介護負担の程度を評価する項目が付け加えられており,負担度は0~5点の6段階で評価する.NPI-Dは介護負担に影響を与える精神症状を個別に評価できることから,介護負担の具体的評価と介入後の変化を捉えることができる.

▶ Neuropsy-chiatric lnventory-Brief Questionnaire From(NPI-Q) NPI-QはNPI-Dと同様にKaufer(9)らによって作成され,介護者を情報提供者として日記式の質問紙で精神症状の重症度と負担度を評価する.重症度は1~3の3段階,負担度は0~5の6段階で評価する.NPI-Dと同様に,日本語版の妥当性・信頼性が検証されている(8).NPIが評価時間に15分程度かかるのに対し,NPI-Qは5分程度で簡便に施工することができる.

▶ Neuropsy-chiatric lnventory in Nursing Home Version(NPI-NH) NPIは主な介護者である家族が面接対象者となるが,woodらは施設の看護・介護職員を対象として評価するNPI-NHを作成した(10).施設入院・入所中の認知症患者に対して,NPIの 10項目に睡眠異常,食行動異常の2項目を加えた12項目の BPSDを評価する.本邦では繁信(11)らによって,妥当性と信頼性が検証されている.

急性期病院に入院する認知症者のBPSD

Elizabeth(12)らは,急性期病院に入院した高齢者に対してBEHAVE-ADを使用し,入院時から退院時の期間でBPSDの有病率・臨床的特徴を縦断的に評価し,入院期間・転帰先・死亡率・有害事象(転倒・骨折など)との関連を調査した.

結果,230人が分析対象となり,認知症者の内62%は重度認知症者であった.入院の原因となった急性疾患は肺炎(26.5%),尿路感染(15.6%),転倒・骨折(11.3%),心疾患(9.6%)であり,入院中の死亡率は13%であった.75%の対象者はBPSDを有しており,内訳は攻撃性(57%),行動異常(44%),睡眠障害(42%),不安(35%)で,男性,介護施設からの入所者,既往に認知症,入院時にせん妄があった者に多くみられていた.BPSDの重症度は有害事象や死亡率と関連していた.

急性期病院の認知症者のBPSDは,攻撃性や行動異常の割合が高く,転倒などの有害事象との関連が示されたことから,入院環境下では医学的管理と並行して早期にBPSDの評価を実施し,現症に対応していくことが求められる.

【共著】
宝田 光(医療法人 札幌麻生脳神経外科病院)

【引用文献】
(1)Finkel SI, Costa e Silva J, Cohen G, Miller S, Sartorius N:Behavioral and psychological signs and symptoms of dementia: a Behavioral and psychological signs and symptoms of dementia consensus statement on current knowledge and implications for research and treatment. Int Psychogeriatr 8(3),497-500,1996.
(2)高橋智:認知症のBPSD.日本老年医学誌48,195-204,2011.
(3) Reisberg B, J Borenstein, S P Salob, S H Ferris, E Franssen, A Georgotas:Behavioral symptoms in Alzheimer’s disease;Phenomenology and treatment. J CLin Psychiatry 46,9-15,1987.
(4) 朝田隆,本間昭,木村通宏,宇野正威:日本語版BEHAVE-ADの信頼性について.老年精神医学雑誌10(7),825-834,1999.
(5) Cummings JL, Mega M, Rosenberg Thompson S, Carusi DS, Gornbein J : The neuropsychiatric inventory :comprehensive assessment of psychopathology in dementia. Neurology 44 : 2308─2314, 1994.
(6)博野信次,森悦朗,池尻義隆,今村徹,下村辰雄,橋本衛, 山下光,池田学:日本語版Neuropsychiatric Inventory—痴呆の精神症状評価法の有用性の検討.Brain and Nerve 脳と神経 49(3),266-271,1997.
(7) Kaufer DI, Cummings JL, Christine D, Bray T, Castellon S, Masterman D, MacMillan A, Ketchel P, DeKosky ST :Assessing the impact of neuropsychiatric symptoms in Alzheimer’s disease : the neuropsychiatric inventory caregiver distress scale. J Am Geriatr Soc46,210-215,1998.
(8)松本直美,池田学, 福原竜治, 兵頭隆幸, 石川智久 , 森 崇明, 豊田泰孝, 松本光央, 足立浩祥, 品川俊一郎, 鉾石和彦, 田辺敬貴, 博野信次:日本語版 NPI─D と NPI─Q の妥当性と信頼性の検討.Brain and Nerve 脳と神経58(9),785-790,2006.
(9) Kaufer DI, Cummings JL, Ketchel P, Smith V, MacMillan A, Shelley T, Lopez OL, DeKosky ST: Validation of the NPI-Q, a Brief Clinical Form of the Neuropsychiatric Inventry. J Neuropsychiatry Clin Neuroaci 12:233-239, 2000.
(10) Wood S,Cummings JL,Hsu MA,Barclay T,Wheatley MV,et al:The use of the neuropsychiatric inventory in nursing home residents.Characterization and measurement.Am J Geriatr Psychiatry 8:75-83,2000.
(11)繁信和恵,博野信次,田伏薫,池田学:日本語版NPI-NHの妥当性と信頼性の検討.BRAIN and NERVE 60(12),01463-1469,2008.
(12)Elizabeth L. Sampson,Nicola White,Baptiste Leurent,Sharon Scott,Kathryn Lord,Jeff Round ,Louise Jones:Behavioural and Psychiatric Symptoms in People with Dementia Admitted to the Acute Hospital: Prospective Cohort Study.Br J Psychiatry. 2014 September ; 205(3): 189–196.

主催者への質問

この機能を利用するには、ログインが必要です。未登録の方は会員登録の上、ログインしてご利用ください。

この記事に関連するタグ

興味のあるタグをフォローしておくことで、自身のフィードに関連するセミナーやコラムを優先的に表示させることができます。 (無料会員機能。 登録はこちら )

    コラムで人気のタグ

    タグをフォローしておくことで、自身のフィードに興味のあるセミナーやコラムを優先的に表示させることができます。(無料会員機能。 登録はこちら )