認知症のADLの評価について~中等度・重度認知症~

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竹林崇 大阪府立大学 教授

認知症の重症度の進行に伴い,認知機能の低下と生活障害の関係を把握する必要がある.認知症者は進行性疾患である疾患特性により精神症状やパフォーマンスの発揮が変動することを念頭に置き,変動性(再現性)に関するADL・IADL評価を行うことが重要となる.

認知症者に対するADL評価の目的

認知症は中核症状の進行に伴いADLが低下するが,食事や排泄など習慣化された行動は環境調整などにより終盤まで保たれる可能性がある.

本稿では中核症状や疾患特性によりパフォーマンスが変動するADL/IADL評価について報告を行う.
 

重症度が中等度・重度の認知症者のADLの特徴

中等度・重度の認知症者はMCIや軽度認知症者と比較して基本的ADL(Basic Activities of Daily Living:B-ADL)の評価・介入の必要性が高く,認知機能障害が進行するに従いADL機能の低下が顕著に出現する(1).

重度認知症における認知機能・ADL・BPSDの関連を調査した報告では,Mini-Mental State Examination(MMSE),改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R),兵庫脳研式ADLスケール(Hyogo Activity of Daily Living Scale: HADLS)などの評価項目で床効果を呈していたため残存する認知機能・ADLを詳細に評価することが困難であり,重度認知症者の詳細な能力の把握が可能となるADL尺度の必要性が報告されている(1).  

ADL評価

▶ N式老年者用日常生活動作能力評価尺度(N-ADL)
N-ADLは基本的なADLとしての補講・起座,生活圏,着脱衣・入浴,摂食,排泄の5項目に対して,7段階の重症度を分類する.

『重度:0・1点』『中等度:3・5点』『軽度:7点』『境界:9点』『正常:10点』で,満点は50点となる.N-ADLはN式老年者用精神状態尺度(NMスケール)と併用して使用されることが多い(2).

NMスケールは主に高齢者の日常生活の基礎となる精神機能を評価し,認知症の有無や重症度を簡易的にスクリーニングが可能な行動評価尺度であり,両スケールを併用することで認知症高齢者の生活能力を総合的に把握することができるとされている(3).

妥当性と信頼性の検討については,評価者間で有意な相関が得られ,N-ADLとHDS-Rとの間の相関係数0.709で,有意な相関(p<0.001)が,GBSスケール(Gottfriea-Brane-Stean dementia rating scale:GBS)の運動機能項目との間では-0.944で高い相関(p<0.001)があったと報告されている(3).
 

▶ 兵庫脳研式ADLスケール(HADLS)
博野(4)らによって開発された認知症高齢者に特化したInstrumental Activities of Daily Living(IADL)を含むADLの評価尺度であり,「排泄」「摂食」「更衣」「整容」「洗面」「歯磨き」「義歯洗浄」「入浴」「移動範囲」「電話をかける」「買い物」「食事の準備」「掃除」「布団の管理」「食事の後片付け」「洗濯」「火気の取り扱い」「スイッチ類の取り扱い」「金銭管理」の18項目からなる.それぞれの項目は3~7段階で評価され,合計点数は0~100点となり,高得点ほど自立度が低いとされる.

HADLSは認知症の重症度,認知機能障害の程度と有意な相関を示すとともに,脳体積とも有意な相関がみられたことからアルツハイマー型認知症者におけるADLの総合的な障害を評価するのに有用であることが報告されている.
 

▶ Physical Self-Maintenance Scale(PSMS)
PSMSは「排泄」「食事」「着替え」「身繕い」「移動能力」「入浴」といったB-ADLの6項目を,IADLは「電話」「買い物」「食事の支度」「家事」「洗濯」「移動」「外出」「服薬管理」「金銭管理」の8項目を介護者が行うADL評価であり,日本語版の妥当性・信頼性が検証されている(5).
 

▶ Alzheimer s disease cooperative study-activities of daily living(ADCS-ADL)
ADCSはアルツハイマー型認知症のの認知機能低下と行動症候の治療を目的とする臨床研究であり,ADCS-ADLはこのADCSにおける日常生活動作の評価に使用するために開発された評価法である(6).

重度のアルツハイマー病患者向けのADCS-ADLはB-ADLを中心とする項目から構成されており,軽度から中等度の患者向けのADCS-ADLには家電製品の使用などのレベルの高いIADL項目や,読書,趣味やゲームなどの余暇活動が含まれている.

評価は,患者と介護者から,過去4週間の状況に関する情報に基づいて行われ,通常20分程度で完了するとされている(7).

しかし,ADCS-ADLは在宅での認知症者を対象とし,重度認知症者に残されている ADLに特化した評価を試みてはいるが,項目内の評点はおおまかな介助量のみに着目しているため対象者本人が持っているわずかな能力や病院・施設の介護者を評価するためには不十分な要素があると考えられている(8).
 

▶ Disability Assessment for Dementia(DAD)
DADは,地域で生活するアルツハイマー型認知症者に対する適切な介入方法を選択する際に指標とすることを目的として開発されたADL評価であり,「衛生」「更衣」「排泄」「食事」「食事の用意」「電話」「外出」「金銭管理と通信」「服薬」「余暇と家事」の10領域40項目から構成されている(7).

40項目のうち17項目はBADL,23項目 はIADLから構成されている.

DADの妥当性・信頼性の検討については,内的整合性(Cronbach’salpha= 0.96),評価者間再現性(ICC=0.95),再検査信頼性(ICC=0.96)が確認されている(9).
   

重度認知症で見られるADLの特徴

重度認知症者のADLの質的な特徴として,同様の実施環境であっても「ある場面ではできるが他の場面ではできない」など,認知症者の能力の発揮に変動があることが報告されている(10).

このため,重度認知症者の残存するADLを評価するためには,それぞれの再現性も考慮する必要がある(11).
 

【共著】
宝田 光氏(医療法人 札幌麻生脳神経外科病院)
   

【引用文献】
(1)田中寛之,植松正保,小城遼太,永田優馬,福原啓太,内藤泰男,大西久男,西川隆(2014):認知症患者における認知機能,ADL,BPSDの関連性-重度認知症患者に着目して-.老年精神医学雑誌25:316-323.
(2)小林敏子(1988):行動観察による痴呆患者の精神状態評価尺度(NMスケール)および日常生活動作能力評価尺度(N-ADL)の作成.臨床精神医学17,1653-1668.
(3)小林敏子,西村健(2003): N式老年者用精神状態尺度(NMスケール)とN式老年者用日常生活動作能力評価尺度(N-ADL).日本臨床61(9),187-191.
(4)博野信次,森悦朗,山下光,時政昭次,山鳥重(1997):アルツハイマー病患者における日常生活活動の総合的障害尺度(HADLS)の作成.神経心理学13(4),260-269.
(5)日本語版Physical Self-Maintenance Scale並びにInstrumental Activities of Daily Livingの信頼性および妥当性の検討.日本医師会雑誌122(1),110-114.
(6) D Galasko, D Bennett, M Sano, C Ernesto, R Thomas, M Grundman, S Ferris(1997):An inventory to assess activities of daily living for clinical trials in Alzheimer's disease. The Alzheimer's Disease Cooperative StudyAlzheimer Dis Assoc Disord 11,33-39.
(7)飯島節(2011):Disability Assessment for Dementia (DAD), Alzheimer's Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living (ADCS-ADL).日本臨床69(8),471-474.
(8)田中寛之,永田優馬,石丸大貴,竹林崇(2017).重度認知症における評価について:日本臨床作業療法研究4:76-86.
(9)Isabelle Gélinas,Louise Gauthier;,Maria McIntyre, Serge Gauthier(1999):Development of a functional measure for persons with Alzheimer's disease: the disability assessment for dementia.American Journal of Occupational Therapy 53, 471-481.
(10) 石丸大貴,田中寛之,永田優馬,西川重(2017):認知症におけるADLの変動性.老年精神医学雑誌28:1025-1030.
(11)田平隆行,田中寛之:Evidence Basedで考える認知症リハビリテーション(2019).P56-61.医学書院.

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