認知症のADLの評価について~MCI・軽度認知症~

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竹林崇 大阪府立大学 教授

認知症のリハビリテーションにおいては,認知機能の低下と生活障害の関係の分析が必要である.認知症者は疾患特性により精神症状やパフォーマンスの発揮が変動することを念頭に置き,ADL・IADL評価を行うことが重要となる.

ADL評価

▶ Mild Cognitive Impairment(MCI):軽度認知症
MCIや軽度認知症におけるADL・活動能力の評価を表1に示す.
 
 
ADLは基本的,手段的,高度の3段階からなる.
 
基本的ADLは食事・排泄などの身の回りの動作,手段的ADLは買い物や金銭管理など独立した生活に必要な能力, 高度なADLは余暇や仕事など社会的役割を果たす要素が含まれる.
 
MCI で問題となるのは高度ADLであり,実際にはこうしたADLに支障が出る以前に脳内ではアミロイド物質の沈着やTau蛋白による神経障害が始まっているとされている(1).
 
IADLの指標としては,Lawton(2)のIADLスケールが最もよく用いられる.Lawtonスケールは電話を使用する能力,買い物,食事の準備,家事(買い物・洗濯以外),洗濯,移動(外出様式),服薬管理,金銭管理の8項目で構成されている.IADLは性差により実施有無が異なることから,男性は食事の準備・家事・洗濯は得点対象から除外されている.各項目1点満点であり,男性は5点満点,女性は8点満点である.
 
基本的ADLの評価であるDisability Assessment for Dementia(DAD)は,地域で生活するアルツハイマー病患者に対する適切な介入方法を選択する際の指標とすることを目的として開発された.DADは衛生,着脱衣,排泄,食事,食事の用意,電話,外出,金銭管理,服薬,余暇と家事の10領域,40項目から構成されている.40項目のうち17項目は基本的ADL,23項目はIADLから構成されている(3).
 
MCIの縦断的調査では,認知症への移行率は年間で10~15%と報告されている.このため,MCIを早期に発見し,治療介入を行うことの重要性が高いと考えられている(4).本邦における認知症の有病率や予測因子を調査した研究では,高齢,生活習慣病関連因子,血管病変危険因子,認知機能低下などが,MCIから認知症への移行に関する予測因子であるとされている.
 
 
加えて,IADL能力の水準が7年後の認知症移行を予測する独立した因子となるかどうかを後方視的に分析した報告では,男性群では,認知症移行群と非移行群におけるIADL能力の水準の有意差はみられなかった.一方,女性群では,衛生管理のカテゴリーにおける布団管理(自立度)と掃除(頻度の変化)において,認知症移行群は非移行群と比較して,有意差が認められた.これらの結果から,IADL障害はMCIの高齢女性の認知症移行に関する独立した予測因子となる可能性が示唆された(5).
 
海外で行われたMCIから認知症の移行に関する縦断研究では,MCI対象者230人に対して, 2年間にわたり調査を行った結果,IADL障害を伴うMCIは,IADL障害を伴わないMCIと比較して,より認知症へ移行しやすいことが示唆された.IADL評価はLawtonのIADLスケールが用いられており,そのうちの4項目(電話の使用,移動の様式,服薬管理,金銭管理)がMCIから認知症への進行を予測するうえで有用であることが明らかにされている(6).
 
また,MCIの対象者810人に対して,ADL障害の発生割合を10年間にわたり調査した報告では,IADL障害のあるMCIは,IADLのないMCIと比較して,よりADL障害を伴いやすいことが明らかとなった(7).
 
 
IADLは対象者の生活環境や性別によっても実施の有無や方法,頻度に個人差があり,必ずしも認知症移行の予測因子になり得るとは限らないが,早期発見,早期治療に向けて,画像所見や認知機能検査に現れない生活上の質的な変化を捉えていく必要性があると考えられる.
 
特に脳卒中などの急性の身体疾患を罹患した高齢者は,脳卒中後に認知機能障害や認知症を発症することがあり,ラクナ梗塞後のMCIの有病率は20~37%であると報告されている(8).急性の身体疾患が軽症であっても,MoCAなどの認知機能検査やIADLの遂行状況などを適切に把握することで,現段階の対象者におけるMCIの可能性を評価し,予防的な観点から介入を行っていくことが重要になると考えられる.
 
 
【共著】
宝田 光(医療法人 札幌麻生脳神経外科病院)
 
 
【引用文献】
(1) 長谷川修:MCI(軽度認知障害)と ADL(日常生活動作),日本臨床内科医会会誌31(2), 207-211,2016.0111111
(2) Lawton, M.P & Brody. E.M. Assessment of older people :Self Maintaining and instrumental activities of daily living.Geroulologist. 9:179-186, 1969.
(3) 飯島節:認知症診療に用いられる評価法と認知機能検査 Disability Assessment for Dementia(DAD),Alzheimer’s Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living(ADCS-ADL).Japanese Journal of Clinical Medicine 69(8)471-474,2011.
(4) R C Petersen , R Doody, A Kurz, R C Mohs, J C Morris, P V Rabins, K Ritchie, M Rossor, L Thal, B Winblad:Current concepts in mild cognitive impairment.Arch Neurol 58(12):1985-1992. 2001.
(5) Kenichi Meguro, Hiroshi Ishii, Masashi Kasuya, Kyoko Akanuma, Mitsue Meguro, Mari Kasai, Eunjoo Lee, Ryusaku Hashimoto, Satoshi Yamaguchi, Takashi Asada:Incidence of dementia and associated risk factors in Japan: The Osaki-Tajiri Project.J Neurol Sci 260:175-182.2007.
(6) K Pérès, V Chrysostome, C Fabrigoule, J M Orgogozo, J F Dartigues, P Barberger-Gateau:Restriction in complex activities of daily living in MCI: impact on outcome.Neurology,67(3):461-466,2006.
(7) Ronald C Petersen, Rosebud O Roberts, David S Knopman, Bradley F Boeve, Yonas E Geda, Robert J Ivnik, Glenn E Smith, Clifford R Jack Jr:Mild cognitive impairment: ten years later.Arch Neurol66(12):1447-1455.2009.
Jama L Purser , Gerda G Fillenbaum, Carl F Pieper, Robert B Wallace:Mild cognitive impairment and 10-year trajectories of disability in the Iowa Established Populations for Epidemiologic Studies of the Elderly cohort.J Am Geriatr Soc,53(11),1966-1972,2005.
(8) Stephen David James Makin, Sarah Turpin, Martin S Dennis, Joanna M Wardlaw:Cognitive impairment after lacunar stroke: systematic review and meta-analysis of incidence, prevalence and comparison with other stroke subtypes.J Neurol Neurosurg Psychiatry 84(8):893-900.2013.

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