私が繰り返し手に取る本の一つに、「超」入門 失敗の本質(鈴木博毅氏著)があります。第二次世界大戦における日本の敗戦理由を、作戦や組織による戦い方の視点から解説した1984年刊行の書籍「失敗の本質」が描く組織論のエッセンスを、ビジネスコンサルタントである鈴木氏がわかりやすくまとめています。今回のコラムでは、「日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ」を副題とする本書から、私がユーススポーツについて考えた事を紹介したいと思います。

日本人特有の文化論

全七章からなる本書の第一章は「戦略性」がテーマです。“戦略とは目標達成に繋がる勝利を選ぶこと“つまり”追いかける指標“であり、その戦略を実現する方法が戦術です。掲げた目標と、実際に現場で行っている事(戦術)の乖離は戦略が曖昧な場合に発生します。戦略のミスは戦術でカバーできず、敗戦した日本軍は目標達成につながる勝利が少なかった、つまり努力の多くが目標達成に繋がらない勝利に費やされてしまったことが目標達成(最終的な勝利)を阻んだといいます。これを「ユーススポーツの文脈」で考えてみましょう。
 
親、子ども、そしてプログラムを提供するスポーツ組織はそれぞれの目標を持っていると思います。この一致は大前提として、では日々の活動(戦術)と、その目標にギャップはありませんか?目標を達成するための戦略に基づいて日々の活動(戦術)は考えられていますか?「心身ともに健康な子どもを育む」や「生涯を通してスポーツに親しむ子どもの育成」という素晴らしい目標を掲げていても、その次の層である戦略を考えずに日々の練習メニューや次の大会に焦点を当てることは、そこでの勝利(技術の向上や大会での勝利)が目標達成に繋がらない可能性があります。
 
第二章の「思考法」と第三章の「イノベーション」では、革新が苦手で既存のルールの習熟と練磨が得意な日本人特有の思考法と、その対極にあるアメリカ軍がいかにして日本の積み重ねた努力を無効にして戦局を変えたか(イノベーションを起こしたか)を解説しています。ここには第四章で言及される日本人の「方法」に依存する文化意識が記されています。大きな視点をもたずに「ドリル」が好きな日本のスポーツ現場にも通じるものがあると私は思いました。
 
第5章以降では、「組織運営」や「リーダーシップ」、そして「空気」が存在する「日本的メンタリティ」をテーマとし、組織の中央部と現場との結びつきや環境変化におけるリーダーの役割がいかに目標達成に影響を与えるかを学ぶ事ができます。全七章で構成されている本書は、前述の第一章の例だけでなく全章を通してユーススポーツの文脈で考える事ができる組織論が展開されています。次項では、その中から一つだけ紹介したいと思います。
 
 

シングル・ループ学習とダブル・ループ学習、早期競技特化

第二章で紹介されているこの二つの学習スタイルは、前者が「目標と問題構造は変わらないもの」としたうえで最適解を選び出そうとする一方、後者は「想定した目標と問題自体が違っているのではないか」という疑問・検討を含む、フィードバック構造を持ちます。試合に負けた=走り足りない、という安易な結論に結び付ける考え方や、コーチ・監督からの一方通行な指示のみで子ども達からのフィードバック構造の無いチーム文化はシングル・ループ学習といえます。
 
この学習スタイルは特にプロセス改善(思想・手法を変えずに過程を改良する事で結果を向上させる)における成功体験が大きいほど努力至上主義や精神論と結びつきやすく、限界にぶち当たると解説されています。その実例として、大東亜戦争初戦において快進撃を続けた白兵銃剣主義が英軍の新しい対策によって完全に封殺され、餓死者を続出させての撤退に至った経緯が解説されています。ユースを含むスポーツ環境において思いあたる例はありませんか。
 
私は、自身が書いた記事で紹介した、2015年に予選落ちを喫した「早期競技特化の申し子」タイガー・ウッズの“I just have to work myself out of it (ここから抜け出すために頑張るだけだ)”というコメントを思い出しました。同記事では、“自身が重ねてきたやり方・考え方への固執を感じます。肉体的・精神的な変化にも関わらず、問題経穴へのアプローチ方法を一つしか持っていないロボット的なス大夫は他の要素を排除してきた早期競技特化の産物とも考えられます”と続けています。当コラムでも取り上げている早期競技特化は、子ども達が目標や問題そのものに疑問を持ち検討する能力を養うダブル・ループ学習に気付くきっかけを妨げているのではないでしょうか。参加しているスポーツ環境がシングル・ループ学習のスタイルであればなおさらです。
 
 

さいごに

今回は、これまでのコラムとは違った切り口からユーススポーツを考えてみました。ユーススポーツを考える視点は「ユース」や「スポーツ」がキーワードとは限りません。紹介したダブル・ループ学習を筆頭に、本書から学んだ教訓を常に意識しておきたいと思います。

主催者への質問

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