急性身体疾患を発症した認知症患者の急性期病院における特徴

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竹林崇 大阪府立大学 教授

本コラムの目的としては,既往に認知症を持ち,急性身体疾患を発症した対象者に対する作業療法の介入に関して,世界や本邦における評価・介入の実践,疾患別における実情についての解説を考えている.コラムは全6回で進める予定である.

目次

    認知症患者の併存疾患の実態

    2010年の世界の認知症患者数は3,560万人と推定され,20年ごとに約2倍に増加し,2030年には6,570万人,2050年には1億1,540万人になると予測されている.(2)
     
    日本における認知症者は2012年で462万人と報告されており,2025年には700万人が有病者となることが見込まれている(2).年齢階級別では85歳-89歳の増加数率が高い(3)とされており,高齢者の急性的な身体疾患の発症や内部疾患の合併が懸念される.
     
    2018年度の総務省消防庁のデータ(4)では,救急搬送の内58.8%(337万人)が高齢者であり,脳疾患,心疾患,呼吸器系,消化器系がそれぞれ10%前後を占めている.また,単一病院の調査では85歳以上の救命救急的な身体疾患で入院した超高齢期患者のうち,入院時に認知症を合併していた割合は約50%であった(5)とされており,急性期病院では主とする急性症状への介入に加えて,既往に認知症を持つ対象者への介入も念頭におかなければならない.
     
    救急搬送された高齢者において認知症群と非認知症群の比較では,認知症群において重症の頻度が高く,診断名を病態別にみると,肺炎や尿路感染などの感染性疾患,大腿骨頚部骨折などの外傷性疾患,脳血管疾患,心血管性疾患などが上位を占めており(6), 近年では悪性新生物や血液透析においても認知症を合併し,増加傾向にあることが予測されている(7).
     
     

    認知症患者の救急搬送の実際

    急性期病院では認知症・急性疾患に起因するせん妄の発症(8)(9)や,認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)の出現に伴い,俳徊,暴力,感情の急激な変化等の周辺症状により,十分な身体症状への介入が受けられない可能性があると指摘されている(10).
     
    急性期病院におけるBPSDの出現率を調査した報告では,認知症者は入院から退院までの過程において,攻撃性,活動障害,睡眠障害,不安などのBPSDが出現した割合は75%であり,そのうち43%が中等度から重度の問題を抱えていた(11)ことが明らかとなっている.
     
    また,既往に認知症がある対象者は急性期病院での総入院日数が増加することが報告されている(12).加えて,既往に認知症を持つ高齢者が救急病院に入院した際の死亡率が高いことが明らかとなっている(13).
     
    これらの状況に対応するために,2016年の診療報酬改定(14)では「認知症による行動・心理症状や意思疎通の困難さが見られ,身体疾患の治療への影響が見込まれる患者に対し,病棟の看護師等や専門知識を有した多職種が適切に対応することで,認知症症状の悪化を予防し,身体疾患の治療を円滑に受けられる」ことを目的とした認知症ケア加算が新設された.
     
    しかしながら,日本神経学会が提唱する認知症疾患ガイドライン2017(15)においては,認知症を既往に持つ対象者の急性疾患に関するエビデンスは確立されていないことが述べられている.認知症は進行性の疾患であることから,急性期病院での運動療法やセルフケアの実施方法に関しても,認知症そのものの重症度に強く影響を受けることが予測される.
     
    したがって,急性期病院では認知症を既往に持つ対象者の認知症の重症度を把握し,BPSDに対する配慮・工夫を行いながら,急性発症した疾患別リハビリテーションに対しての介入を実施する必要があると考えられる.
     
     
    【共著】
    宝田 光(医療法人 札幌麻生脳神経外科病院)
     
     
    【引用文献】
    (1)Prince M, Bryce R, Albanese E, Wimo A, Ribeiro W, Ferri CP. The global prevalence of dementia: a systematic review and metaanalysis. Alzheimers Dement;9(1): 63–75, 2013.
    (2)厚生労働省:福祉・介護認知症施策.1認知症に対する取り組み.認知症施策推進総合戦略 (新オレンジプラン).(online),〈http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000079009.pdf 〉,(accessed2020-4-29).
    (3)厚生労働科学研究費補助金:認知症対策総合研究.都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応.(online),〈http://www.tsukuba-psychiatry.com/wp-content/uploads/2013/06/H24Report_Part1.pdf 〉(accessed2020-4-29) .
    (4)総務省消防庁ホームページ.平成30年度版救急救助の現況.https://www.fdma.go.jp/publication/rescue/post7.html
    (5) 鵜飼克行:超高齢期の認知症の救急医療と身体合併症医療.老年精神医学雑誌30:272-278,2019
    (6) 久保田洋介,亀山元信,村田祐二,庄子賢,野上慶彦・他:救命救急センターにおける認知症高齢者の救急医療.老年精神医学雑誌18:1204-1209,2007.
    (7) 北川公子:身体疾患で治療を受ける認知症高齢者の拡がりと課題.老年社会科学,40(4):417-422,2019.
    (8)Horst Bickel, Ingrid Hendlmeier, Johannes Baltasar Heßler, Magdalena Nora Junge, Sarah Leonhardt-Achilles, Joshua Weber, Martina Schäufele.The Prevalence of Dementia and Cognitive Impairment in Hospitals.Dtsch Arztebl Int. 115(44):733-740,2018.
    (9) Esther S. Oh, MD, PhD, Tamara G. Fong, MD, PhD, Tammy T. Hshieh, MD, MPH, and Sharon K. Inouye, MD, MPH.Delirium in Older Persons: Advances in Diagnosis and Treatment.JAMA318(12):1161-1174,2017
    (10) 粟田主一,渡路子:認知症高齢者の救急医療と身体合併症医療-新たな政策提言に向けて‐.老年精神医学雑誌18:1210-1214,2007
    (11) Elizabeth L Sampson, Nicola White, Baptiste Leurent, Sharon Scott, Kathryn Lord, Jeff Round, Louise Jones.Behavioural and Psychiatric Symptoms in People With Dementia Admitted to the Acute Hospital: Prospective Cohort Study.Br J Psychiatry205(3):189-196.2014
    (12)Tørnes M, McLernon D, Bachmann M, et al. Does service heterogeneity have an impact on acute hospital length of stay in stroke? A UKbased multicentre prospective cohort study. BMJ Open 2019;9:e024506. doi:10.1136/ bmjopen-2018-024506
    (13)Elizabeth L Sampson, Martin R Blanchard, Louise Jones, Adrian Tookman, Michael King.Dementia in the Acute Hospital: Prospective Cohort Study of Prevalence and Mortality.Br J Psychiatry:195(1):61-66,2009
    (14)厚生労働省:平成28年度診療報酬改定の概要.(online),〈https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000115977.pdf 〉(accessed2020-4-29).
    (15)認知症疾患診療ガイドライン作成委員会(編):認知症疾患診療ガイドライン2017.医学書院,東京,2017,pp54‐117.

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