前回のコラムでは小脳が姿勢制御にどのように関係しているのかを簡単に解説を行いました。今回は前庭機能が姿勢制御にもたらす役割について解説を行なっていきます。昨今スポーツ界隈ではこの前庭機能に大きくトピックが当てられており、またセラピスト界隈では脳卒中の臨床を行う上で考慮することもあるかと思います。前庭の解剖学や生理学を学ぶことで臨床に役立てることもありますので、ぜひ下記を参考にしてください。

前庭脊髄路の役割

前庭脊髄路は延髄にある「前庭神経核」から起こって、主に同側性に下降する経路で頸髄〜胸髄上部に分布する内側前庭脊髄路と、脊髄全長に分布する外側前庭脊髄路とに区別されます。  
どちらも身体の平衡機能に関わり、内側前庭脊髄路は頸部〜上肢に、外側前庭脊髄路は体幹〜下肢に関わりがあります1)。  
前庭系は内耳前庭器〜前庭神経〜前庭神経核という経路から成り、内耳から前庭神経節までの前庭神経を含めて「末梢前庭系」とし、前庭神経核、小脳などの中枢性の前庭機能を「中枢前庭系」 と分けられます。  
前庭器は耳石器と三半規管とから構成され、頭部の運動に対する加速度の受容器であり、蝸牛は音を感知する機能になっています。  
また、耳石器は球形嚢と卵形嚢があり、前者は垂直性,後者は水平性の加速度を感知するようになっています。  
そのため、耳石器からの入力は重力に対する頭部の定位に重要であるとされます2)。  
三半規管は、水平(外側)、前、後の各半規管が3次元空間内で互いに直交するように配置され、各方向の回転加速度を感知する仕組みになっています。  
前庭への加速度刺激が加わることによって、前庭に関わる反射(前庭動眼反射、前庭自律神経反射、前庭脊髄反射)が引き起こされます。  
以上から、歩行などの移動時に生じるつまずきなどでバランスを崩した際の比較的素早い頭部の運動に反応します2)。  
 
その中でも前庭脊髄反射は頭の位置変化及び頭部の運動時に頸部、体幹、四肢の筋緊張を調節して姿勢制御に関与し、片側前庭の興奮刺激は同側伸筋の筋緊張亢進と屈筋の筋緊張低下が生じることになります。  
 

姿勢の変化によって前庭脊髄路の活動量が変わる

また前庭脊髄路の役割は、寝た状態よりも座位などの抗重力姿勢で働くことがわかっています。  
Tanakaらは14人の健常者を対象に背臥位・腹臥位・座位でそれぞれ乳様突起に電極を設置(右は陰極・左が陽極)し、※直流前庭電気刺激(galvanic vestibular stimulation:GVS)を行なった際の右ヒラメ筋H反射の変化率について検証しました。  
その結果、座位ではH反射促通の程度が他の姿勢よりも大きくなるということがわかりました。  
 
またこの研究ではさらに、GVSの影響なのか皮膚に対する刺激なのかを鑑別するために、健常者10名を対象にして、①前述の方法、②耳介後部と耳垂に貼ってGVS時と同じ方法での直流電流刺激を行いました。  
この実験結果では、②でも座位でH反射が促通されましたが、GVSの方が有意に大きいことが明らかになっています。  
※ヒトにおいて非侵襲的に前庭脊髄路興奮性を評価する方法として、ヒラメ筋H反射を誘発する脛骨神経刺激の100ms前に直流前庭電気刺激(galvanic vestibular stimulation:GVS)を条件刺激として与えることによるヒラメ筋H反射の促通率を評価するという神経生理学的方法があるそうです。文献3)や研究概要解説のページ(https://www.kio.ac.jp/nrc/20210209 )をご参照ください。  
 

どの感覚を促通することで姿勢制御にアプローチするのかを考える

今回の前庭機能も含めて、姿勢制御に関するコラムを書き進めていきました。  
前庭機能や表在感覚・深部感覚からなる身体図式、また視覚情報などいずれも我々の生活やスポーツ場面においてどれも欠かせないものになります。  
そしてそれぞれの場面によって感覚の優位性(重みづけ)が変わるため、どの部分に対してアプローチを行うべきなのかを考慮し、運動や介入を選択する必要があります。  
次回のコラムではこの「感覚の重みづけ」という部分を解説していきたいと思います。  
 
【参考文献】 1)安井幸彦:中枢神経系. 野村 嶬 編:標準理学療法学・作業療法学 解剖学 第2版. 医学書院. 2004, pp338 2)板谷 厚:感覚と姿勢制御のフィードバックシステム. バイオメカニズム学会誌 39; 197-203. 2015 3)Tanaka H, et al: Posture influences on vestibulospinal tract excitability. Exp Brain Res 239;997–1007 ,2021

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