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脳卒中後上肢麻痺に対するメンタルプラクティスのエビデンス(1)
脳卒中治療ガイドライン2015におけるメンタルプラクティスについて
脳卒中治療ガイドライン2015(表1)では,脳卒中上肢麻痺に対するメンタルプラクティス及び運動イメージ介入ついて,推奨するといった報告はなされていない現状にある.しかしながら,メンタルプラクティスおよび,運動イメージの要素を含んだ介入であるmirror therapyについては推奨度がBと介入を行うよう推奨されている1).
このmirror therapyとは患者に鏡に投影させた非麻痺側上肢を注視させながら麻痺手の対称的な運動を行うものである2). Invernizzi Mら3)は自主訓練として30分間mirror therapyを行う群と従来の治療法行う2群をRCTにて比較した結果,Action Research Arm Test (ARAT)および, Functional Independence Measure(FIM)においてmirror therapy群に有意な改善を認めたとの報告をした.今後はmirror therapyのみならず,メンタルプラクティスに関する国内の脳卒中患者を対象とした研究の発展に期待したい.
作業療法ガイドライン(脳卒中)2019におけるメンタルプラクティスについて
作業療法ガイドライン(脳卒中)2019(表2)ではメンタルプラクティスはイメージに基づいた訓練方法(視覚的フィードバック)の項目にて運動イメージ訓練と表現されている.また,推奨グレードはC1と,介入を行うことを考慮しても良いが十分な科学的根拠がないことが示されている4).では,作業療法ガイドラインがどのような科学的知見から構成されているのかを引用文献を元に確認していきたい.
引用文献ではPageら5)の,メンタルプラクティスによる介入報告が用いられている.彼らは,メンタルプラクティスの理論的背景としてpsychoneuromuscular theory(PM理論)が最も支持されると述べている.このPM理論とは,患者には運動計画,すなわち「運動スキーマ」が記憶されており,実際の行為に関わる運動スキーマがメンタルプラクティスによって強化されるものであると述べている.この中で、メンタルプラクティスは,運動療法に追加して提供することで、運動学習が促進され、上肢機能の改善に繋がると述べられている.
また,Pageら6)は,メンタルプラクティスにより麻痺手の使用頻度の向上が図れるのかを単群の前後比較研究において,Motor Activity Log(MAL)を用いて検証した.その結果,MALのAOU1.6点,QOM2.2点と慢性期のMCIDを上回る結果であったと報告している.この報告から,メンタルプラクティスは上肢の機能的側面の向上のみならず,使用依存性の大脳皮質の可塑性に関与することで,麻痺手の使用頻度を向上させる可能性が示唆された.しかしながら,表2にも記載してあるよう,今後も脳卒中片麻痺患者の上肢麻痺におけるメンタルプラクティスの治療効果については,更なる試験や議論が必要であると考えられている.
Evidence-Based Review of Stroke Rehabilitation 2018におけるメンタルプラクティスについて
Evidence-Based Review of Stroke Rehabilitation 2018(表3)では,ここまで紹介したガイドラインの中でもメンタルプラクティスについて批判的な意見がなされている.推奨度はLevel 4と少なくとも2つの無作為化比較試験において結果が異なると報告されている8).Pageら7)自らも,メンタルプラクティス群において,Action Research Arm Test(ARAT)とFugl-Meyer Assessment(FMA)の平均変化値に意味のある改善を認めたが,自身の研究に対し,より広範囲で厳正な研究とこれらの報告の裏付けが必要であると述べている.
また,このガイドラインではメンタルプラクティスの研究に対する不均一な研究結果について問題視している.具体的には研究の治療プロトコル,患者の特徴,適応基準,量,運動イメージを行う方法,脳卒中慢性期の時期,評価されたアウトカムに関して多様であることから追加調査を行う必要があると指摘している8).
脳卒中後上肢麻痺に対するメンタルプラクティスにおける今後の展望
ここまで,異邦と本邦における脳卒中ガイドラインの概要を中心に上肢麻痺に対するメンタルプラクティスについて解説してきた.メンタルプラクティスは自主訓練として患者に導入することが可能であり,臨床上,汎化性の高い反面,実際にイメージを行っている有無を確認できず,可視化することが難しい側面も持つ.次回はこのメンタルプラクティスを少しでも臨床に役立てれるよう,運動イメージ能力を客観視する目的で考案された評価尺度について解説を行っていく.
【共著】
岸 優斗(出雲市民リハビリテーション病院)
【引用文献】
1)小川彰,他(日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会)•編 : 脳卒中治療ガイドライン2015.株式会社協和企画,2015.
2)Thieme H, Mehrholz J, Pohl M, Behrens J, Dohle C:Mirror therapy for improving motor function after stroke. Cochrane Database Syst Rev 3 : 2012.
3)Invernizzi M, Negrini S, Carda S, Lanzotti L, Cisari C, Baricich A. The value of adding mirror therapy for upper limb motor recovery of subacute stroke patients : a randomized con- trolled trial. Eur J Phys Rehabil Med 49 : 311-317 . 2013.
4)蓬莱谷耕士, 澤田雄二,他(一般社団法人日本作業療法士協会 学術部): 作業療法ガイドライン-脳卒中.一般社団法人日本作業療法士協会,2109.
5)Page SJ, Levine P, et al: A randomized efficacy and feasibility study of imagery in acute stroke.Clin Rehabil 15: 233-24,2001.
6)Page SJ, Levine P, et al: Effects of mental practice on affected limb use and function in chronic stroke. Arch Phys Med Rehabil 86:399-402, 2005.
7)Page SJ, et al: Mental practice in chronic stroke: results of a randomized, placebo-controlled trial. Stroke 38:1293-1297.2007.
8)Teasell R, et al: Evidence-Based Review of Stroke Rehabilitation 18th Edition. Canadian Partnership for Stroke Recovery,2018.
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