医療情勢や機器のランニングコストから考えるロボットリハビリテーション

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竹林崇 大阪府立大学 教授

近年では,脳卒中後の上肢麻痺に対して,一定の質が保たれた練習量を増加させる目的でリハビリテーションロボットが活用されている.本稿では,本邦における医療情勢の変遷や機器のランニングコストからロボットリハビリテーションの現状や課題を整理する.

本邦における医療情勢とロボットリハビリテーション

本邦では,今後さらなる超少子高齢化社会に突入する.年齢階級別1人当たりの医療費(医療保険制度分)を見てみると,60歳から 64歳で36.7万円であるのに対し,75歳から79歳で77.5万円であることから,加齢に伴ってより多くの医療費を要するといえる1).そのため,少子高齢化が進むほど現状の医療保険制度では,国の財政が圧迫される.とりわけ,脳血管疾患は他疾患と比較すると長期の入院を要し,さらには高齢であるほど入院期間が延伸する傾向にある2)ことから,多くの医療費が捻出される.

本邦では脳卒中発症後の入院期間を短縮するために,医療保険から介護保険を利用したリハビリテーション(以下,リハ)へ円滑に移行するための仕組み作りや,病院間でのシームレスな情報共有を可能にするための地域連携パスの導入を行ってきた.また,回復期リハ病棟においては実績指数の導入を行うことで,効率的かつ効果的なリハの実施を推進している.効率的かつ効果的なリハの提供には,一定量のリハの提供と質の担保が必要であるが,提供できるリハの時間には診療報酬上限りがあり,場合によっては人的資源の不足がリハ時間の短縮やリハの質の低下の原因となり,入院期間の延長にもつながりかねない.そして,人的資源の不足への解決策の1つがリハロボットの活用である.

脳卒中後の上肢麻痺に対するリハにおいては,療法士との1対1以外の時間に質の保たれた一定量の練習を提供する手段として,リハロボットの活用が期待されており,令和2年度の診療報酬の改定では,当該機器を用いて,脳血管疾患等リハビリテーション料を算定すべきリハビリテーションを行った場合に,「運動量増加機器加算」として,所定点数に加算することが認められた.この加算の名称からもわかるように,脳卒中後の上肢麻痺に対しては,運動量(練習量)を増やすことを目的としてリハロボットを活用するという方向性が見出されたといえる.

ロボットリハビリテーションによる経済的影響とランニングコスト

Loら3)は,米国にて脳卒中後に上肢麻痺を呈した生活期の対象者に対し,主に水平方向へのリーチ動作を反復する機器であるMIT-Manus(Interactive Motion Technologies社,アメリカ)を使用したロボットリハを提供したロボットリハ群と療法士が集中的なリハを提供したintensive therapy群,内科的治療や外来診療などの通常の医療的ケアのみ実施されたUsual care群における上肢機能の改善とそれぞれに要したコストを比較検討している.

コストの計算方法としては,5年間でロボットの購入費を減価償却することを想定した上で,ロボットリハの1セッション(60分)あたりのコストを見積もった上に,療法士のコストをロボットリハ群は療法士が15分間,intensive therapy群は60分間介入するとした上で見積もっている(総セッションは36セッション/12週間).結果としては,上肢機能の改善にはロボットリハ群とintensive therapy群に有意な差はなく,コスト面では対象者一人当たりの平均介入費がロボットリハ群で9,977ドル,intensive therapy群で8,269ドルであったとしている.また,Wagnerら4)は同様の研究データでさらなる解析を行い,介入開始時から36週後時点での介入費を除く総医療費(入院や外来治療費等の医療費)はロボットリハ群が平均12,679ドル,intensive therapy群が12,364ドル,Usual care群が19,098ドルであったとしている.

この結果より,積極的なリハを実施した後の長期的展望としては,その他の医療費の支出が少なくなる可能性を示しており,リハによる広義の予防医学的観点からも非常に興味深い結果であるといえる.ただし,データの偏りが指摘されており,結果の解釈には注意が必要である.

また,McCabeら5)は生活期の対象者に対し,運動学習に基づくリハに加えて,MIT-Manusと同様の機械的機能を有しているInMotion ARM®を使用したロボットリハを提供したロボットリハ群,機能的電気刺激(FES)を提供したFES群,運動学習に基づくリハのみを提供した通常リハ群の各コストを療法士の年俸や機器自体の費用,機器のランニングコストの点等を加味して算出している.それぞれの介入は5時間/日(ロボットリハ,FESは各1.5時間),5日/週,12週間実施された.

結果として,通常リハ群のコストは4,570ドル,FES群は4,604ドル,ロボットリハ群は5,686ドルであり,さらには上肢機能の改善が3群間で有意差がなかったことから,費用対効果を検討する必要性を述べている.以上の結果から,ロボットリハに使用する機器が高価であることから,介入費で機器の減価償却を想定するとロボットリハの費用対効果は,療法士の介入と比較して劣る可能性が考えられる.

さらにLuら6)は米国等の療法士233人に対して,ロボットリハに関するニーズ調査を行った結果,機器のコストは6,000ドル未満であることを望んでおり,機器自体のコストが臨床現場でのリハロボットの普及を妨げている大きな要因であることが示されている.

本邦においても病院経営における収益性の観点からロボットリハの費用対効果を鑑みると,機器の導入を躊躇するかもしれない.しかし,今年度の診療報酬改定により認められた「運動量増加機器加算」を活用することでの減価償却は見込める可能性があり,療法士の介入と同等の介入効果を示す可能性があるロボットリハを自主練習という形で導入した場合の対象者への利益は非常に大きいといえる.そのため,これまでよりも臨床現場において,療法士とリハロボットとの協業が現実味を帯びてきたといえる.

【共著】

庵本 直矢(名古屋市総合リハビリテーションセンター 作業療法科 作業療法士)

【引用文献】

1)厚生労働省ホームページ:医療保険に関する基礎資料.https://www.mhlw.go.jp/content/H29kiso_teisei.pdf (参照2020.4.24)

2) 厚生労働省ホームページ:平成29(2017)患者調査の概況. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/17/dl/03.pdf (参照2020.4.24)

3) Lo A. et al. Robot-assisted therapy for long-term upper-limb impairment after stroke. N Engl J Med 362:1772-1783, 2010.

4) McCabe J, et al. Comparison of robotics, functional electrical stimulation, and motor learning methods for treatment of persistent upper extremity dysfunction after stroke: A randomized controlled trial. Arch Phys Med Rehabil 96:981-990, 2015.

5) Wagner TH, et al. An economic analysis of robot-assisted therapy for long-term upper-limb impairment after stroke. Stroke 42:2630-2632, 2011.

6) Lu EC, et al. The development of an upper limb stroke rehabilitation robot: identification of clinical practices and design requirements through a survey of therapists. Disabil Rehabil Assist Technol 6:420-431, 2011.

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