脳卒中後に生じる肩関節の亜脱臼について(病態と疫学)

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竹林崇 大阪府立大学 教授

脳卒中後の上肢機能アプローチの阻害因子として挙げられる事の多い『脳卒中後の亜脱臼』について,系統的にレビューし病態や治療法について解説していく.第1回目である本コラムでは,肩関節の亜脱臼の概説を中心に記載する.

肩関節の亜脱臼と機能解剖について

脳卒中後に生じる肩関節の亜脱臼は,脳卒中後の上肢に生じる最も一般的な二次障害であると言われている.発生率については,複数の報告がなされているが,ばらつきが大きく,おおよそ脳卒中患者の7〜81%に生じると言われている1).このように,非常に高い発生率を認め,その後の上肢機能練習の阻害因子になるなど,臨床現場でも頻出する問題の一つであると思われる.

しかしながら,これらに対する標準的なアプローチは現状も確立されていないのが現状である.

肩関節は,身体の関節の中で外傷により脱臼しやすい関節で,全脱臼の50%を占めると言われるほど発生頻度が高い2).それは解剖学的特徴によるところが大きい.

肩関節は上腕骨頭と肩甲骨関節窩からなる球関節で,骨性支持は関節窩の面積は上腕骨頭の1/3〜1/4と狭く,そのため身体の関節のなかでも最も広い可動域を有している一方で,肩関節の安定性は周辺の軟部組織に依存しており不安定性を生じやすくなっている.

これらを補うための機構が2つある.静的な安定化機構としては,関節唇の存在や,関節窩の傾斜(下図左),関節内が陰圧であることなどが挙げられる.また,動的な安定化機構としては,関節包やrotator cuff(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)の働きが挙げられる3).

脳卒中片麻痺者に生じる肩関節亜脱臼の病態

脳卒中後に生じる肩関節の亜脱臼は,前述のように発生率が高いとされている.それは上肢の運動麻痺の程度によるものが大きいと言われている.そのため必然的に重症度の高い運動麻痺を呈した対象者の方が,亜脱臼を呈している可能性が高い.その発生機序として,肩関節の運動自由度の高さ故の不安定さが挙げられており,主に,前述の安定化機構である,rotator cuffの活動不全により,関節窩が下向きとなり(下図右),上腕骨頭が下方へ滑り落ちる形で亜脱臼が生じるとされている4).

それらの評価や診断について,一般的には,評価者の指の幅を指標とし,○○横指と表現することも多いが,客観的評価としては単純X線撮影や腱板断裂診断で使用される,肩峰骨頭間距離(AHI: Acromio-humeral interval)(下図)5)を用いて行われることが多い.主に病態としては,疼痛や姿勢保持障害など多岐に渡り,脳卒中後の対象者のQuality of lifeを著しく低下させる要因であると考えられている.

脳卒中片麻痺者に生じる肩関節亜脱臼の疫学

日本国内の脳卒中罹患者は年間29万人に上り,その死亡率は世界最大であった1960年代から徐々に減少している6).これらを鑑みると,脳卒中後生存者の肩関節亜脱臼の罹患者が増えていることも容易に想像がつく.

本邦における脳卒中後に生じる亜脱臼を含む回復期脳卒中患者の肩関節痛の発生状況について湯田ら7)が疫学調査を行い貴重な報告をしている.その中で,133名の脳卒中患者を対象としたコホート研究を行い,肩関節痛の有無やその他,複数の機能評価を実施した.結果として,亜脱臼は肩関節痛の有無を問わず,30名に該当したとし,全体の22%に生じていたとしている.さらに肩関節痛あり群においては76%と非常に高い発生率を示している.

肩関節痛の発生状況については,発症初期の比較的身体機能が低い段階と,入院後の運動機能が向上してきた段階で生じる2つのパターンを説明している.発症初期の段階においては,運動麻痺が重度であることが多いことに加え,「上肢忘れ」,「感覚障害」,「半側空間無視」,「注意障害」など生活における上肢保護の欠如に関連する項目が有意に向上していたとしている.運動機能が比較的高い対象者に関しては,活動量増加に伴う麻痺肢の過用や誤用が,持続的な微細損傷を招き肩関節痛に繋がる可能性が考えられたと考察している.肩関節痛と亜脱臼の直接的な関係は不明であるとされているが,前述した肩関節痛の発生要因のいずれも,肩関節の亜脱臼の予防を考える上でも非常に重要な視点であると思われた.

【共著】 堀 翔平(札幌渓仁会リハビリテーション病院)

【文献】 1)Louise A, Anchalee F: Efficacy of electrical stimulation in preventing or reducing subluxation of the shoulder after stroke: A meta-analysis . Australian Journal of Physiotherapy. Vol. 48 2002 2)永田義彦:肩関節脱臼の画像診断. MB Orhop. 30 (1) : 39-49, 2017 3)瓜谷大輔:肩甲帯および肩関節の機能解剖と触察.理学療法京都(46): 39-45, 2017 4)浅山滉,片岡義文,出口義宏,芝藤康二,池田敏雄,村上正明:脳卒中片麻痺の肩関節亜脱臼に対する装具について.日本義肢装具学会誌 Vol.7 No4 1991 5)井上宣充,岡本賢太郎,久合田浩幸,川桃子,荒井哉美,安保麻美,田村拓也,山本知良:肩関節周囲炎例における肩峰骨頭間距離と関節可動域制限の関連についての検討-関節裂隙距離の定量化と機能的意義-.理学療法学,37 (3) 174-177 2010 6)小久保喜弘:国内外の脳卒中の推移.日本循環器予防学会誌,Vol.52 (3) 223-232, 2017 7)湯田智久,藤井慎太郎,今井亮太,生野公貴:回復期脳卒中患者の麻痺側肩関節の疫学調査と発生時期における身体機能の比較.奈良理学療法学(8) : 4-9, 2015

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