橈骨遠位端骨折に対する術後リハビリテーション

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竹林崇 大阪府立大学 教授

今回は,橈骨遠位端骨折に対するリハビリテーションについて述べる.近年,掌側ロッキングプレート固定の進歩によって,より早期からの術後リハビリテーションが可能となっている.ここでは,現時点でのリハビリテーションのエビデンスやプログラム,機能改善に影響を与える因子,クリティカルパスの有用性などを順に紹介していく.

橈骨遠位端骨折におけるリハビリテーションのエビデンス

橈骨遠位端骨折診療ガイドライン2017 1)によると,患者へのリハビリテーションプログラムの指導は機能回復に有用であり,エビデンスはB(中)と総括されている.Krischakら2)は,掌側プレート固定術後の対象者を,医師が自宅での自主訓練指導をパンフレットにして実施した群,12回に及ぶ理学療法を実施した群の2群に割り付け,6週間後にその効果を検証した.その結果,自宅での自主訓練指導群の方が,PRWE,握力,手関節可動域に有意な改善が認められた.

一方で,Bruderら3)の報告では運動療法を実施した群と自主訓練指導のみを実施した群を比較検証しているが,手関節可動域,PRWE,QuickDASHなどで有意差はなかったと報告している.また,保存療法後のリハビリテーションの効果に関しては,Christensenら4)が,ギプス固定をした対象者に自主訓練指導のみを実施した群,自主訓練指導に併せてギプス除去後に作業療法を実施した群に分けて前向きに効果を検証し,9ヵ月後の改善において両群に有意な差はなかったと報告している.

本邦においては,櫻井ら5)の研究で,掌側プレート固定術後の自主訓練量と治療成績との関係では,70歳以上で術後6週後の前腕回外可動域と関連があったと報告しており,療法士との一対一による運動療法以外に.自宅や病室での自主訓練をいかに定着させていけるかが早期の機能改善を目指す上で重要であると言える.

橈骨遠位端骨折のリハビリテーションプログラム

術後のリハビリテーションにおいて,まず療法士が意識しないといけないことは,腫脹の軽減と拘縮をできる限り作らないことである.手指の自動運動は,浮腫の予防や関節拘縮の予防,腱の癒着を防ぐための滑走訓練として最も重要な運動である6).また,筋収縮を伴う運動は静脈還流量の増加と,炎症期の腫脹,疼痛に対しての予防効果が期待できる.手関節以外の部位の可動域訓練を早期から実施することは重要であり,大野ら7)は,早期OT実施群8例と早期OT非実施群14例を比較した研究で,早期OT非実施群の14.3%に肩・肘のROM制限,78.6%に手指拘縮を認めたと報告している.

手関節の可動域訓練に関しては自動運動だけではなく他動運動も必要に応じて加えていくが,力任せに行うと橈骨に対して軸圧負荷がかかりすぎる可能性がある.野中ら8)は,牽引下での他動運動にて早期に手関節可動域が獲得できると報告しており,関節拘縮の改善には有用な可能性がある.筋力訓練の開始時期は術後2~3日から柔らかいボールの把持訓練などから開始し,時期に応じてペットボトルでの手関節屈伸運動を加えていくなどして段階付けしていく.

橈骨遠位端骨折のリハビリテーションを実施する上で機能改善に影響を与える因子

橈骨遠位端骨折後半年まで機能改善は大きく進むが,これに影響を与える因子の一つに疼痛が挙げられる.疼痛があることで自主訓練が進みにくいことは普段の臨床で経験することがあるが,高橋ら9)は疼痛と治療成績との関連性を調査するため,掌側プレート固定術後の130例に対して前向き縦断研究を実施した.

その結果,患者立脚型評価であるPRWEの悪化因子は術翌日VASと年齢であったと報告している.また,Mehtaら10)は,65歳以上の女性は,65歳未満の男女および65歳以上の男性と比較して,慢性疼痛を発症するリスクがわずかに高い可能性があると報告している.その他,Chungら11)の前向きコホート研究によると,術後1年の改善に影響を及ぼす予測因子は年齢と収入であったとされている.

クリティカルパスを用いた橈骨遠位端骨折術後リハビリテーションの有用性

橈骨遠位端骨折は,比較的経験年数の浅い療法士も担当を任されることが多いのではないだろうか.療法士の技量と経験に大きく左右されることなく早期の機能改善とADL・IADLの中で役立つ手を獲得するには,施設の中でクリティカルパスを作成することで介入の標準化を図ることも一つである.

桂ら12)は,橈骨遠位端骨折術後早期ハンドセラピィの標準化を目指してハンドセラピィパスを作成,その有効性を検証した.内容は,術後1週間以上外固定を行って従来のハンドセラピィを開始した非早期群,1週間以内に従来のハンドセラピィを開始した早期群,1週間以内にパスを用いてハンドセラピィを開始した早期パス使用群の3群間で術後1週目から6週目までの手関節可動域の経過を調査し,最終時点で早期パス群と非早期群とで有意な差を認め,介入期間の平均日数は早期パス群で66±22日であり,他の2群と有意差を認めたとされている.

【共著】 堀本 拓究(大阪鉄道病院 作業療法士)

【引用文献】 1)日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/橈骨遠位端骨折診療ガイドライン策定委員会(編):橈骨遠位端骨折診療ガイドライン2017(改訂第2版).南江堂:125,2017. 2)Krischak GD,et al:Physiotherapy After Volar Plating of Wrist Fractures Is Effective Using a Home Exercise Program.Arch Phys Med Rehabil 90:537-544,2009. 3)Bruder AM,et al:A progressive exercise and structured advice program does not improve activity more than structured advice alone following a distal radial fracture:a multi-centre,randomised trial.J Physiother 62:145-152,2016. 4)Christensen OM,et al:Occupational therapy and Colles’ fractures.Int Orthop 25(1):43-45,2001. 5)櫻井利康,他:橈骨遠位端骨折術後の自主練習量と治療成績の関連─自主練習プログラムの有効性─.作業療法 39(5):568-578,2020. 6)椙田 芳徳,他:橈骨遠位端骨折に対する術後リハビリテーションとピットフォール.日ハ会誌12(1):29-34,2019. 7)大野英子,他:橈骨遠位端骨折のリハビリテーション成績-早期リハビリテーションの効果と経過について.総合リハビリテ-ション 34(10):981-988,2006. 8)野中信宏,他:橈骨遠位端骨折例に対する手関節可動域早期獲得への徒手的他動掌背屈運動.日ハ会誌 3(1):27-36,2010. 9)髙橋祐司,他:橈骨遠位端骨折における術後早期の疼痛は治療成績と関連する.日ハ会誌11(2):50-53,2019. 10)Mehta SP,et al:Baseline pain intensity is a predictor of chronic pain in individuals with distal radius fracture.J Othop Sports Physther 45:119-127,2015. 11)Chung KC,et al:Predictors of functional outcomes after surgical treatment of distal radius fractures.J Hand Surg Am 32:76-83,2007. 12)桂理,他:橈骨遠位端骨折術後ハンドセラピィパスの有効性について.日手会誌 26(4):225-229,2010.

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