脳卒中上肢麻痺における装具療法のエビデンス

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竹林崇 大阪府立大学 教授

装具療法が, 対象者の麻痺側上肢の廃用防止や機能改善、麻痺手の使用行動を拡大するための重要なデバイスであり、脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーションを進める上で欠かせない手段の一つである。 本コラムでは主に装具療法に対するエビデンスについて論述する.

上肢装具のエビデンスについて

リハビリテーションの選択肢の中に装具療法が存在するが, 装具の種類や装着する時間・期間, 材質などについては具体的なガイドラインがないのが現状である. 下肢装具に関しては, 装具なしでは歩行訓練や歩行獲得は語れず歴史も古い. また, 臨床の場で多用される短下肢装具の使用についてはエビデンスが確立されている¹⁾.

一方, 上肢装具に関しては, 下肢装具と比べると歴史も浅く, 痙縮筋に対しては持続伸張を施し筋緊張の抑制効果が認められているが, 推奨レベルは「行っても良いが科学的根拠は十分ではない. 」レベルである¹⁾.

このように脳卒中後の上肢に対する装具療法は不明な効果として捉えられており, 上肢の機能改善のための装具療法は推奨されていない. 先行研究においては, 静的装具に関しては, 痙縮を改善するといったポジティブな見解²⁾や装具を処方してもあまり意味がないといったネガティブな見解³⁾⁴⁾もあり, 脳卒中後の上肢麻痺に対する装具療法の効果は賛否両論である.

しかしながら, 2019年にAnaら⁵⁾は, メタアナリスを用いたシステマティックレビューにおいて, 脳卒中後の上肢痙縮に対し装具を用いた静的なストレッチは, 治療を行わなかった場合と比較して手首屈筋の痙縮を減少させた. と報告している. 比較的最新の知見ということもあり, やはり痙縮や拘縮のリスクのある患者に対しては, 装具を処方することは有用なのではないかと思われる.

エビデンスが確立されている下肢装具とエビデンスが不十分な上肢装具の違い

静的装具に関するランダム化比較試験において, ポジティブな成果を示した研究報告²⁾⁶⁾⁷⁾もある. 何れの研究においても、1日20~40分間, 4週間に渡り, 痙縮筋を伸張するような形で手関節固定装具を装着した結果, 対照群と比較しMASが有意に減少した, と報告している. しかし, 下肢装具に関しては, 短下肢装具を使用することで歩行が安定したり, 歩行速度の改善を認めたり, 麻痺側での立位時間が延長したり, 振り出しが対称的になったりと活動レベルで動作ができるっていうところを示している.

つまり, 下肢装具をつけた状態で難易度調整を行い量的な練習を行う事で課題依存性・量依存性の脳の可塑性を促しているということになる. ここが上肢装具と異なるところで, 上肢に関しては痙縮筋に静的装具を装着してどう変化するか, といったところで従来は議論が終了していたが下肢装具に関しては, 治療するため・歩行を獲得するための治療用道具として下肢装具を扱っている. ここが上肢装具と下肢装具の大きな違いと思われる.

上肢装具を治療用装具として扱ってみる ~上肢装具の可能性~

上肢装具を下肢装具と同じように治療用道具として, 外国の先行研究ではFrank⁸⁾らが, シングルケースデザイン(A-B-A'-design)において, 中等度-重度の障害を持つ8名の亜急性期脳卒中患者に動的装具を使用して6週間, 週5日リハビリテーションを行った結果, ARATの有意な改善を認めたと報告した. また, John⁹⁾らは, 慢性期脳卒中患者13名に動的装具を装着し, 課題指向型訓練や機能的電気刺激療法を1日6時間, 5日間行った結果, 肩関節と肘関節・手指関節の可動域の拡大とFMAの有意な改善を認めたと報告した.

本邦の先行研究¹⁰⁾¹¹⁾¹²⁾おいても, 中等度~重度麻痺を呈した対象者に対しエビデンスが確立されているConstraint-induced movement therapy(CI療法)や課題指向型アプローチに, 手指伸展を効率よく出現させる事を目的で機能的装具を併用し実施することでFMAやMALにおいて臨床上意味のある成果を示している. このように下肢装具と同様に治療用装具として上肢装具を扱う事で臨床上意味のある成果を示している論文が散見されており, 脳卒中上肢麻痺に対する装具療法の重要性は増しているように思える.

【共著】 根本 直宗(医療法人社団東光会 戸田中央リハビリテーション病院 リハビリテーション科 作業療法士)

【引用文献】 1)日本脳卒学会脳卒中ガイドライン委員会(編):脳卒中治療ガイドライン2015. 協和企画, 東京, 2015. 2)Kim E, et al : The Effect of a Hand-Stretching Device During the Management of Spasticity in Chronic Hemiparetic Stroke Patients. Ann Rehabil Med2:235-240, 2013. 3)Natasha A, et al : Splinting the Hand in the Functional Position After Brain Impairment: A Randomized, Controlled Trial. Arch Phys Med Rehabil84: 297-302, 2003. 4)Natasha A, et al : Effects of Splinting on Wrist Contracture After Stroke A Randomized Controlled Trial. Stroke38: 111-116, 2007. 5)Ana P, et al : Effectiveness of static stretching positioning on post-stroke upper-limb spasticity and mobility: Systematic review with meta-analysis. Annals of Physical and Rehabilitation Medicine62: 274-282, 2019. 6)Jang H, et al : The effect of a wrist-hand stretching device for spasticity in chronic hemiparetic stroke patients. European Journalof Physical and Rehabilitation Medicine 52(1) : 65-72, 2016. 7)Jung y, et al : The Effect of a Hand-Stretching Device During the Management of Spasticity in Chronic Hemiparetic Stroke Patients. Annals of Rehabilitation Medicine 37(2) : 235-240, 2013. 8)Franck J, et al : Effects of a dynamic hand orthosis for functional use of the impaired upper limb in subacute stroke patients: a multiple single-case experimental design study. Technology and Disability25:177-187, 2013. 9)John F, et al : Orthotic aided training of the paretic upper limb in chronic stroke: Results of a phase 1 trial. NeuroRehabilitation22:99-103,2007. 10)佐藤篤史, 他 : 脳卒中後亜急性期にカペナースプリント改良型を使用して麻痺手の実生活における使用を促した一例. 作業療法38:230‐237, 2019. 11)小針友義, 他 : 回復期重度片麻痺一例に対する手指装具療法を併用したmodified constraint-induced movement therapyの長期効果. 理学療法の科学と研究 Vol8:25-29 2017. 12)天野暁, 他 : 慢性期重度上肢麻痺に対する手指装具併用下でのModified CI療法の一症例. OTジャーナル 48:259-264, 2014.

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