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脳卒中上肢麻痺における痙縮、変形抑制装具について

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竹林崇 大阪府立大学 教授

脳卒中における上位運動ニューロンの障害によって生じる痙縮は、日常よく遭遇する病態であり、可及的にその抑制や改善を求められることが多い。その抑制手段として、従来から装具療法が治療手段の一つとして選択されている。本コラムでは、脳卒中後の後遺症である痙縮に対する上肢装具の活用について論述する。

目次

    痙縮が上肢に及ぼす影響


    脳卒中後における上位運動ニューロンの障害によって生じる痙縮によって肘関節屈曲位、手関節掌屈位、手指屈曲位となることが多い。痙縮をそのままの状態にしておくことで、筋の短縮や拘縮、疼痛を引き起こし、また、日常生活においても麻痺手の使用頻度や役割が軽減してしまう可能性があるため、その改善や予防は重要であるとされている。

    痙縮に対する上肢装具の目的

    痙縮の改善や予防には、従来より持続伸張¹⁾²⁾³⁾が一般的に知られており、装具療法も一つの手段として選択して痙縮の発現を回避することが望ましいとされている⁴⁾⁵⁾⁶⁾。

    痙縮改善の機序としては、筋を装具によって持続的に伸張することで、腱紡錘にあるゴルジ腱器官が緊張の高まりを感知し、求心性Ⅰb繊維を伝播して脊髄後角に伝播され、介在ニューロンを介して脊髄前角にある同名筋のa運動神経細胞の興奮を低下させることで筋緊張は低下するとされている⁷⁾。

    痙縮が重度で徒手的に持続的に伸張することが困難な場合も多く、そういう場合は装具の使用が有用とされている。⁸⁾最近では、ボツリヌス療法と筋の持続伸張を目的とした装具療法との併用による効果が示されている⁹⁾¹⁰⁾。

    痙縮に対する上肢装具の種類

    筋の持続伸張によって痙縮の予防・改善に効果的とされている従来より使用されている静的装具を紹介する。

    1)機能的肢位保持タイプ
    主に弛緩期にて、手指・手関節を機能的な肢位に保持することで筋の長さを保ち、浮腫をコントロールする目的で使用される。重度の運動麻痺に伴い麻痺側管理が乏しい際に手を管理するといった点においても利用することが望ましいとされている。

    【図1】痙性抑制スプリント

    【図2】Resting pan splint

    2)手指痙性抑制装具
    痙縮によって手指や手関節の長期間の屈曲位がもたらす筋の短縮や関節拘縮を予防する目的で使用される。機能的肢位より各関節を伸展位へ強制固定することで痙縮筋の持続伸張を促す。

    痙縮が強い対象者だと装着が困難な場合が多く、装着出来たとしても装具の中で指が曲がってしまい痙縮筋への十分な伸張が困難な時がある。

    【図3】手指ストレッチボード フィンブル(酒井医療)

    3)継手式手関節背屈固定装具
    上述した手指痙性抑制装具と目的は同じだが、特徴としては手関節部に継ぎ手を装着したことで段階的に手関節角度が調整できることである。手関節角度が決定している手指痙性抑制装具では、痙縮が強く独力で装着が困難な対象者も多い。

    継手の操作によって疼痛の許容範囲内で徐々に手関節伸展角度を増大出来て、痙縮が重度の方でも装着することが出来る装具となっている。

    【図4】継手式手関節背屈固定装具

    痙縮に対する装具療法のエビデンス

    本邦のガイドラインにおいては¹¹⁾、麻痺側上肢の痙縮に対し、痙縮筋を伸長位に保持する装具の装着がグレードC1となっており行うことを考慮してもよいか十分な科学的根拠がないとされている。

    また、Anaら¹²⁾が2019年に報告した「脳卒中後の上肢痙縮と可動性に対する静的ストレッチポジショニングの有効性」というシステマティックレビューにおいては、静的装具を使用した持続伸張が治療なしの場合と比較して、脳卒中後の痙縮を低下させるという非常に低いエビデンスを明らかにしている。

    Fuziwaraら⁴⁾の研究では、慢性期の脳卒中患者に対して8週間手関節固定装具を装着したところ、自動運動可動域ならびに痙縮の改善を認め、また、手部や肘部における拮抗筋の同時収縮も減少させたと装具療法が痙縮抑制効果に有効であると報告をしている。

    また、外国の研究において、Pizziら¹³⁾は、40名の亜急性期・慢性期脳血管障害患者に対して手関節固定装具を3ケ月間毎日約90分間固定することで手関節・肘関節の痙縮が軽減し, 手関節の他動的関節可動域の拡大及び手・肘部の疼痛が軽減したと報告した。

    無作為化比較試験においてWooら¹⁴⁾は、脳卒中外来患者に対して痙縮抑制を目的とした円形のプラスチックプレートを週6日(12分のセッションを3回)、4週間装着した結果、痙縮の臨床的な評価法であるModified Ashworth scale(MAS)と上肢の運動機能を測定するFugl-Meyer assessment(FMA)が、対照群と比較し有意差が認められたと報告した。

    Eunら¹⁵⁾も、慢性期脳卒中患者に対して、4週間にわたり痙縮抑制装具を装着した結果、対照群と比較しMASが有意に減少したと報告した。このようなポジティブな研究報告がある一方で、Lanninら¹⁶⁾¹⁷⁾は、装具療法に対しネガティブな見解を示している。

    2003年¹⁶⁾の無作為化比較試験においては、発症後6か月以内の28人の脳血管患者に対して、スプリント装着群と非装着群に割り付けた結果、スプリント装着群は対象群と比べ手関節の可動域や運動機能に臨床的に有効な影響がもたらされなかったと報告している。

    また、2007年¹⁷⁾に報告した無作為化比較試験においても、8週間以内の63人の脳血管患者に対して、手関節中間位で保持するスプリント群と手関節を伸展位に保持するスプリント群、非スプリント群に3群に割り付け、4週間にわたりスプリントを装着した。

    結果、関節可動域や伸筋の伸張性に臨床的な重要な効果をもたらさないと報告しており、「脳卒中後に日常的な装具による固定は中止されるべきである 」と言及している。装具療法が痙縮を減少させるという考えは、Lanninら¹⁶⁾¹⁷⁾の研究では支持されなかった。

    痙縮に対する装具療法のエビデンスについては諸説入り乱れているが、齋藤¹⁸⁾は、綿密に経過されたスプリント療法は、包括的なリハビリテーションプログラムの一つとして有意義であると述べている。

    対象者の経過に応じた装具の使用目的や装着時間などの教育的な指導や他のエビデンスが確立されたアプローチを含めた治療スケジュールを立てて実施し、また、経過にあわせ修正や変更、複数の装具を併用して治療をすすめていくことで装具療法として成立するのではないかと考える。

    【共著】
    根本 直宗(医療法人社団東光会 戸田中央リハビリテーション病院 リハビリテーション科 作業療法士)

    【引用文献】
    1)Tremblay F, et al : Effects of prolonged muscle stretch on reflex and voluntary muscle activations in children with spastic cerebral palsy. Scand J Rehabil Med, 22 : 171-180, 1990.
    2)Hale L, et al : Prolonged static muscle stretch reduces spasticity. South African Journal of Physiotherapy 51 : 3-6, 1995.
    3)田中直次郎, 他 : 痙縮筋に対する持続伸長訓練効果に関する検討. J. Physical Medicine 12(2):193-198, 2001.
    4)Fujiwara T, et al : Electrophysiological and clinical assessment of a simple wrist-hand sprint for patients with chronic spastic hemipa-resis secondary to stroke. Electromyoge ClinNeurophysiol44:423-429, 2004.
    5)大庭潤平, 他 : 脳卒中の手・指装具の実際. MB Med Reha. 97:39-43, 2008.
    6)池田 巧, 他 : リハビリテーション医療における痙縮治療. 京一日赤医誌1. 4-13, 2018.
    7)猪狩もとみ, 他 : 痙縮に対する装具療法の最近の知見~上肢装具を中心に~. バイオメカニズム学会誌. 42, No.4, 2018.
    8)秋谷典裕, 他 : 上肢装具による痙縮抑制. 総合リハ. 30(11). 1279-1289, 2002
    9)浅見豊子, 他 : 上肢・手の機能と上肢装具. 日本義肢装具学会誌. 28(1). 13-17, 2012.
    10)有薗洋一, 他 : 脳卒中の上肢装具. 日本義肢装具学会誌. 28(1). 13-17, 2012.
    11)日本脳卒学会脳卒中ガイドライン委員会(編):脳卒中治療ガイドライン2015. 協和企画, 東京, 2015.
    12)Ana P, et al : Effectiveness of static stretching positioning on post-stroke upper-limb spasticity and mobility : Systematic review with meta-analysis. Annals of Physical and Rehabilitation Medicine 62 : 274-282, 2019.
    13)Pizzi A, et al : Application of a volar static splint in poststroke spasticity of the upper limb. Arch Phys Med Rehabil 86:1855-1859, 2005.
    14)Woo H, et al : The effect of a wrist-hand stretching device for spasticity in chronic hemiparetic stroke patients. European Journalof Physical and Rehabilitation Medicine 52(1) : 65-72, 2016.
    15)Eun H, et al : The Effect of a Hand-Stretching Device During the Management of Spasticity in Chronic Hemiparetic Stroke Patients. Annals of Rehabilitation Medicine 37(2) : 235-240, 2013.
    16)Lannin N, et al : Splintng the hand in tha functional position after brain impairment:A randomized controlled tral. Arch Phys Med Rehabil 84(2):297-302, 2003.
    17)Lannin N, et al : Effects of Splinting on Wrist Contracture After Stroke A Randomized Controlled Trial. Stroke 38 : 111-116, 2007.
    18)斎藤和夫, 他 : 中枢神経疾患の上肢スプリント療法. Med Reha No.49:15-21, 2005.

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